第17話 仲良しギャル・カルテット
次の日は、明け方までは雨が降っていたが、その後はすっきりと雲が抜けていき、太陽が姿を覗かせ、梅雨の晴れ間となった。いや、雷が鳴ると梅雨が明けると聞いたことがある。あと数日で7月だが、ひょっとしたらもうすぐ梅雨が終わるのかもしれない。
名古屋近辺の夏は蒸し暑いことで有名だが、雨上がりのせいか今日は風がある。だから、気温ほど暑さは感じなかった。汗でメイクが崩れると台無しだから、これからの季節は、夏の開放感とは同時に、暑さ対策に余念がない。最近はハンドファンだけではなく、首からかける扇風機もある。鞄の中に参考書は入っていないが、代わりにそういうグッズは入れている。
「おはよー!
教室には小悪魔系ギャルの藍那と、姫系の美央がいた。
「おはよ、璃乃」
「おはよぉ、何だか、やけに今日はご機嫌だねっ?」
藍那にいきなり指摘された。自覚はなかったが、今朝は珍しく目覚めが良かった。晴れていたから、かもしれないが気分は爽やかだ。
「そ、そぉ?」
「だって、璃乃、いつも授業が始まるからって言ってダルそうな顔してんのに、今日は全然違うもん」と、今度は美央に言われる。
「み、美央まで? そんな分かりやすい?」
「分かりやすすぎ! 顔に書いてある」
「ええ?」
顔に書いてある程なんて、さすがに言いすぎだろう。こういうとき、
「さては……、男だな? これは」
「美央もそう思う!」
「なっ!?」
勝手に藍那と美央に決め付けられ、2人は盛り上がっている。違うってば。彼氏どころか好きな男もいない。
それに、恋人いない仲良し
「あ、澄佳だ。ねぇねぇ、璃乃、抜け駆けしてない? 大丈夫?」
帰る方向が一緒の澄佳に聞いて、アタシを詮索しようとしている。止めてくれ。いや、事実、いないのだ。火のないところに煙は立たない。どうせ、藍那たちが期待する答えは返ってこないのだ。
澄佳はわざとらしく、視線を右上に向け、思い出す仕草を見せた。「そう言えば、最近、男の影がちらほら……」
「えー!?」
「ち、違うって! 澄佳、何言ってんの!?」
「ほら、あの眼鏡男子! 賢くて結構身長高くてイケメンの!」
明らかにシュージのことだ。澄佳は、敢えてアタシをおちょくっている。大体、あんな奴のどこがイケメンなんだ?
「誰それ? どーやって知り合ったの?」
「だから違うって!」
こういうとき、否定すればするほど、泥沼に入っていく。それを見越して、澄佳はしたり顔だ。
この子は、超がつく美形の清楚ギャルのくせして、中身は小悪魔そのものだ。こんなの、世の男どもはイチコロだろう。
キーンコーンカーンコーン。
始業のチャイムに救われる。授業はダルいけど、こんな質問攻めがずっと続いてしまっては、収拾がつかない。今日一日の体力を使い果たしてしまう。しまいには、彼氏いないのに『いること』にされてしまいそうだ。それは困る。
これからは、つとめて表情筋を緊張させて、無表情を獲得しなければならない。そう、あの男のように……。そうやって一瞬、シュージの顔を想像したら、また顔の筋肉が勝手に緩んでしまった。いけない、何で想像しただけなのにニヤけるの、璃乃~!
しかし、そんなウキウキは束の間で、アタシにとって大きな憂鬱が待っていることは、この始業前には想像し得なかった。
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