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「亜沙美ちゃん」
前歯が二本抜けた
相変わらず歓迎されているのか、されていないのか、よく分からない。
「ども」
それだけ言って私は両手でバッグを持ちながら「大きくなったねえ」とまるで十年も会っていないような大袈裟な様子で「美人さんになった」とか「背が伸びた」とか「美沙子によく似てきた」とか、そういう思い出話のようなものが始まるのを笑顔っぽい何かを貼り付けて聞いている。
私は適当なところで
せっかちな祖父はあまり車の運転が得意ではない。
ここ
窓の外に視線を向けると都会のビル群とは異なり、田園風景というのだろう、区画整理された畑や田んぼが広がっている。そこにはみんな一列に綺麗に生え
「亜沙美ちゃん、着いたよ」
ぼんやりとしていた。
駅から三十分ほどで祖父母の実家に到着し、私はバッグを重そうに持って車を下りる。車庫はなく、家の前の広場に車が停まっている。一階建ての古い木造家屋だ。隣には農機具なんかが入った小屋が建てられていたが、トタン屋根が新しくなっていた。
「あの、これ」
玄関を上がったところで、バッグの中から母親に言付かったお土産を取り出して見せる。近所のスーパーの買い物袋に詰め込まれたそれらは、落花生のお菓子と祖父が好きなビールの缶が二つ、それに母が作ったピーナツジャムだった。実家から贈られたナッツを使ったもので、ほとんど甘くない。本当は二人とも糖尿病だから甘いお菓子もビールもよくないのだけれど、うちの母親は「気にしすぎ」と笑って私に持たせた。
反面教師という言葉を、母は知っているだろうか。
祖父母も母に似て(いやこの場合は母が祖父母に似ているのだが)、細かいことを気にしない。よく言えばマイペースで、祖父は「畑」とだけ言い残して、玄関を上がらず、そのまま出かけてしまった。
「気にしなくていいからね」
不機嫌な訳ではない、という。でも私には不機嫌にしか見えない。祖父は何が不満なんだろう。
「しばらくお世話になります」
一泊の予定で、私はダンボールが片付けられた書斎に、バッグを置いた。
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