第65話:大公王宣言
「俺、マクネイア公国公王フェルディナンドは、ナクデン大公王国を占領し、ナクデン大公王位を継承した事をここに宣言する」
俺は父上と母上が大公王国を占領するのを待って、最後に残っていたナクデン大公王国に攻め込みました。
厳しい冬を前にしていましたが、先に族滅させられる大公王家や公王家を数多く見ていたからでしょう。
ヴァーノン大公王家は、俺が攻め込む前に連邦から逃げていました。
連邦内のどの国に逃げても、俺に突き出されるとでも思ったのでしょうか?
唯一俺に負けていないオピミウス大公国に逃げ込みました。
オピミウス大公国も大変ですね。
俺と戦う時の事を考えて、国を捨ててやってくる者を全て受け入れています。
正式には連邦内でしか通用しない位階とは言え、大公王、公王、侯王を正式に迎えるのですから、それなりの待遇は用意しなければいけません。
代金は取るにしても、食糧も優先的に渡さなければいけません。
オピミウス大公国でも凶作と不作が続いており、一昨年昨年と多くの貧民を餓死させている状況では、国を傾かせる亡命数です。
母上が攻め取られ、大公王位を継承したテンベルク大公王国は、どちらかと言えばクラウディウス王国に近いのですが、ミラー大公王家の生き残りもオピミウス大公国に逃げ込んだようです。
父上が攻め取られた二つの大公王国の内、ブランデン大公王国のエヴァ大公王家は族滅したので、もうどこに逃げ込む事もできません。
ですがスルーエ大公王国のマクファーソン大公王家は、持ち出せるだけの財宝と食糧を持ってオピミウス大公国に逃げ込みました。
残る四つの公国もそれに見習ってオピミウス大公国に逃げ込みました。
ですが、水に落ちた犬を叩くのはこの世界も同じです。
オピミウス大公国にたどり着くまでに、何度も山賊のフリをした平民や侯王に襲われ、財宝も食糧もほとんど奪われたそうです。
手元に残ったのは身に付けていたわずかな宝石類だけ。
一族の半数以上が、殺されるか捕らえられて奴隷にされたそうです。
「父上、母上、俺としては、連邦会議でどう結論が出ようと、ロレンツォ殿下が文句を言って来ようと、三人で大公王を名乗ろうと思うのです」
「それは構わないが、大公王家の家名はどうするのだ?
三家ともマクネイア大公王家と名乗るのは可笑しいだろう?」
「私はディドだけが大公王を名乗ってもいいと思うの。
インマと私は、隠居したことにして、上大公王や大公王后を名乗ればいいわ。
もう私達の実力は嫌というほど思い知ったから、逆らう事はないでしょう?」
「いえ、それでは連邦が下手に出てきた時に、手に入る投票権が減ってしまいます。
ロレンツォ殿下にも面目がありますから、大公王国の投票権上限は十五票になるはずです。
俺一人になってしまうと、これまで通り十五票に据え置かれます。
父上と母上が大公王を名乗ってくだされば、最高二人で三十票になります」
「連邦の投票権など大した意味はないだろう?
此方が脅かせば、どの侯王家も逃げ出す状態だぞ」
「そうですよ、もう全部ディドがやって伝説を残せばいいのです」
「俺はこれ以上命を背負うのが嫌なのです。
重くて面倒で、できれば誰かに押し付けたいくらいなのです。
もちろん、父上と母上のお教え通り、寡婦や孤児のような弱き者は助けます。
ですが、まだ僕も十歳の子供です。
父上と母上に甘えたいのです」
「まだ十歳だから私とパトリに甘えていたいと言われては、全ての責任を背負えとはとても言えないな」
「そうですわね、ディドにだけ辛い思いをさせて、私達が楽するわけにはいきませんわね」
「分かった、私も大公王を名乗り続けよう」
「私も女大公王を名乗り続けるから安心して」
「ありがとうございます、父上、母上。
つきましては家名なのですが、私がフェルディナンド・マクネイア大公王家。
父上がインマヌエル・マクネイア大公王家。
母上がパトリツィア・マクネイア大公王家を名乗るのでいいでしょうか?」
「おい、おい、おい、自分の名前を家名につけるのは恥ずかし過ぎる!」
「そうよ、私も恥ずかしくて嫌よ」
「ですがこの世界の流儀では、家族が新たに爵位を得た場合は、自分の名前を家名にするのが一般的と聞いています。
家名を誇る人間は、自分の名前と家名をつなぎ合わせると父上に教わりました」
「その通りだが、絶対そうしなければいけない訳ではない。
そういう事が嫌いな者は、領地名をそのまま家名にする」
「そうね、今回のような場合なら、ディドの言うようにマクネイアを下に残して、上に大公王国名をつければいいわ。
私ならテンベルク・マクネイア大公王家。
ディドならナクデン・マクネイア大公王家ね」
「父上は二つの大公王国を占領されましたが、二つの家名を名乗られるのですか?」
「流石にその様な方法は取れない。
将来子供二人に分け与えるなら、別々の家名を名乗るようになるだろうが、家はディド一人に継承させる予定だから、ナクデン・マクネイア大公王家だけが残る。
私は先に占領したブランデンを前につけて、二つの大公王国と四つの公王国の家名として使うよ」
三人の話し合いが終わって、それぞれ大公王を名乗り続けました。
ロレンツォ殿下や多くの侯王から文句が来ると思っていたのですが、そのような事は全く無く、むしろ戴冠を寿ぐ使者がひっきりなしにやってきました。
予想していた最高の結果になりました。
凶作か不作で苦しむ連邦加盟各国は、俺の食糧支援を頼りにしていたようです。
国民を餓死させてでも自分の立場を誇りたい者は少なかったのです。
中には、文句は言わないけれど、大公王位を認めたわけでもない。
無視する侯王もいたのですが、そんな侯王は大抵国境線近くです。
オピミウス大公国かクラウディウス王国に支援してもらうのでしょう。
正直少し胸が痛みます。
我が家の状況が良くなれば良くなるほど、他の領地や国の不幸に目が行きます。
余計な命を背負うのは重いとか嫌だとか考え、口に出して文句を言うくせに、自分なら何とかできるのではないかと、驕り高ぶった考えが頭をよぎるのです。
「フェルディナンド大公王殿下、厚かましい願いではありますが、もう少し安価に食糧を分けていただけないでしょうか。
その値段で買える食糧だけでは、民が餓死してしまいます」
「使者殿、そのような嘘をついてもらっては困ります。
貴国が国を捨てて逃げる公王家の幌馬車隊を襲い、大量の食糧を手に入れたのは分かっているのです。
俺としても、父上が占領された公国の民を餓死させるわけにはいかないのです。
嘘をついて多くの食糧を安価に売れというような国には、亜竜を差し向けるしかありません。
もう一度確認しますが、今の言葉、本気で言っているのですか?」
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