第50話:ロートリンゲン大公王家舞踏会2
「これは、これは、ロレンツォ大公王殿下。
わざわざ来ていただかなくても、順番が来ましたら此方から御挨拶に行かせて頂きましたのに、御足労させてしまい申し訳ありませんでした」
シルソー大公王国、ロートリンゲン大公王家のロレンツォ大公王殿下が俺達の話している所に来てしまいました。
本当に困った方ですね。
階級の高い有力侯王を放り出してここに来たのですね。
順番を飛ばされた侯王に逆恨みされてしまいます。
「いや、フェルディナンド侯王とはできるだけ早く直接話をしたかったのだ。
側近共には止められたが、叱りつけて来た甲斐があった。
こなければ出遅れてしまう所だった」
「ロレンツォ大公王殿下、フェルディナンド侯王に大切な話があるのですね。
私は遠慮させていただきます」
「私も殿下の邪魔はしたくないのですので、遠慮させていただきます。
フェルディナンド侯王、話しはまた後で」
「そうですね、私も他に挨拶する所がありますので、ロレンツォ大公王殿下、フェルディナンド侯王、これで失礼させて頂きます」
「私もこれで失礼させていただきます。
フェルディナンド侯王、話の続きは後日」
先にいた侯王達が逃げてしまいました。
逆恨みに巻き込まれるのはいやなでしょう。
有力侯王を差し置いて、先にロレンツォ大公王殿下に挨拶をする事になってしまいましたので、当然の対処だと思います。
それと、殿下に先駆けて俺に側室を送ろうとしたのが後ろめたいのでしょう。
家を保つには有力者の後ろ盾がいる弱小侯王の辛い所です。
「殿下、何か重大なお話しでもあるのですか?」
「ああ、最初はアンジェリーナ侯王姫に婿を送るだけしかできないと思っていたが、今聞いた話で、娘を貴君の正室や側室に送れるのが分かったからな」
「殿下の姫君達は、全員生まれて直ぐに嫁ぎ先が決まっていると聞いておりますが、私の知らない姫君が居られるのですか?」
「新教徒の貴君には隠す必要もないな。
愛人との間に幾人かの子供が生まれている。
教会が、正式な結婚をした男女の間に生まれた子供でないと、神の祝福を受けられないと言うので、教会や修道院に入れるしかないと思っていたのだが……」
「先ほどまでここにいた侯王達とは話していたのですが、殿下の耳に届いていましたでしょうか?」
「庶子を養子にしないと、家同士の結びつきにはならないという話か?」
「はい、私自身は親のいない私生児でも、愛があれば正室にする気でいます。
ですが政略結婚で愛情のない女性と結婚するのなら、家と家の結びつきが証明できる相手でないと、正室には迎えられません」
「余に新教徒になれと申すのか?」
「そこまでは申しません。
旧教徒のままで愛人に生ませた姫君を認知してくださっても構いません」
「まず間違いなく教皇に破門されてしまう」
「殿下と同じように私生児を生ませていながら、図々しく教皇の座についた背教徒の行う破門など、恐れる事などないでしょう?」
「それは分かっているが、表向き旧教徒の我が家が教皇に逆らうのは危険なのだ。
小さな緩衝侯国を挟んでいるとはいえ、旧教のオピミウス大公国が間近にある。
教皇の許可を貰ったら、即座に攻め込んで来る」
「その時は親戚になっていますから、堂々と援軍が送れますよ」
「本当かね?!」
「はい、ですが、あまりに年齢差がある姫君は困りますよ。
それに、殿下が全く愛しておられない姫君では意味がありません。
もちろん、姫君が殿下を大切に思っていないと、逆効果です。
私が姫君を愛した場合に、姫君が父を見殺しにしろと言うようでは最悪ですよ」
「う~む、今から手元に置いて愛情を注ぐ事もできるが……」
「事は政略結婚ですよ。
国や王家の為とは言え、ある意味では殿下の私利私欲です。
これまで全く愛情を注いでこず、修道院に入れようとしていたのに、いきなり政略の駒に利用しようとして結婚させたら、心底恨まれるかもしれませんよ」
「確かにその心配はあるが、だったら何故あのような事を言ったのだ?
あの場にいた侯王達にも同じことを言ったのは、庶子を側室に迎える気が有るからだろう?」
「彼らの事は事前に調べてありました。
城に立ち寄った時に、確認も取りました。
少なくともあの中の一人は、愛人の子供にも惜しみない愛情を注いでいました。
そんな姫君なら、政略結婚をしても家と家の絆になります」
「今から頑張って正室との間に子供を作ったら、婚約してくれるか?」
「ぼくも、もう十歳になります。
何時までも結婚しない訳にはいきません。
父上と二代に渡って神の恵みである魔法を授かったのです。
私の子供も同じように神の恵みを授かるかもしれません。
子供が作れるようになったら直ぐに結婚する予定です。
十一も十二も歳の離れた婚約者が、子供が産めるようになるまで待てません。
我が家としては、できるだけ多くの子供を設けて、次の世代にも魔法を授かりたいと考えているのです」
「くっ、だとしたら貴君と直ぐに縁を結ぶ方法がないというのか?!」
「おっと、私を殺そうとしても無駄ですよ」
「何をなされる、侯王と言えども、いきなり騎士の腕を抑えるような無礼は許されませんぞ」
「ロレンツォ大公王殿下、この者は貴家の騎士ですか?」
「いや、見たこともない、いったいどうしたのだ?」
「毒を塗った短剣で俺を殺そうとしたのですよ」
「なんだと、それは本当の事なのか?!」
「おっと、自殺しようとしても無駄ですよ。
口の中に仕込んでおいた毒を飲む気ですか?
俺は人の急所をよく知っているのです。
口を閉じられなくするくらい、簡単なのです。
それに、刺客のくせに、俺が魔法使いなのも知らないですか?
ロレンツォ大公王殿下、これが毒を塗った短剣です」
「おい、直ぐにこれを調べろ。
それと、こいつは誰かに連れられてここに来たはずだ。
誰の騎士としてここに来たか徹底的に調べろ!」
「お待ちを、どうかお待ちください!
私は頼まれてこの者を連れてきただけなのです。
私のような弱小侯王では、ブロデン大公王国の頼みは断れないのです。
どうか我らのような弱小侯王の事情をお考えください!」
顔も知らない侯王が土下座のような詫び方をします。
このような侯王などどうでもいいです。
連邦内でシルソー大公王国と双璧の二大大公王国、ブロデン大公王国に戦争を吹っかける、正当な理由ができたので充分満足です。
俺はロレンツォ大公王と色々話しました。
此方としては、同盟を組んでブロデン大公王国を攻め滅ぼしても、併合しても構わないのですが、決断できる状況ではないようです。
仕方がないので、刺客の証言と証拠の保証だけをしてもらいました。
ロレンツォ大公王とこの場にいた侯王達の証言があれば、何時でもブロデン大公王国と戦争を始められます。
そのような荒事の話が終わったので、先ほどの話の続きをしました。
「この件に関してはこれで良いですね?
全て我が家だけで処理しますので、皆様は何もなされないで大丈夫です。
では先ほどまでの話に戻しますが、一族の末端でも構いません。
姉上の婿に来られるような猛者はいませんか?
ライバルは我が家の亜竜を操れる騎士ですから、かなりレベルが高くなりますが」
「その若さ、いや、幼さで、これほど落ち着いていられるものだな。
殺されそうになった時も豪胆だったが、その後の対処も見事の一言だ。
どうしても縁を結びたくなったが、くっ、貴君が言うような猛者がいたら、我が家はこれほど凋落していない!
とは言っても、どのような手段を使ってでも縁は結びたくなった。
これから愛情を築けるかどうかは分からないが、愛人の子供を引き取るしかない。
それと、一族の男で戦えそうな奴を貴君に預けるから、鍛えてくれないか?」
「他国や連邦の方々に、ロートリンゲン大公王家ともあろう大国が、弱小侯国に人質を出すようなマネをするなと言われてしまいますよ?」
「何を言われてもかまわん。
我が家は、そんな言葉を気にしていられるような生易しい状態ではない。
今年も昨年のような不作になるようなら、今度こそ大量の餓死者がでてしまう。
その混乱に付け込んで、攻め込んで来る奴が必ず現れる。
援軍や食糧支援をしてもらえるのなら、実の子供でも人質に出す」
ようやく本音を引き出せましたね。
ここにきて実の子供でも人質に出す、ですか。
愛人に生ませた子は、実の子供とは思っていないという事です。
そんな子を貰い受けても政略結婚にはなりません。
自分達に不利になれば簡単に切り捨てるでしょう。
愛してもいない人と結婚するのなら、利がなければやっていられません。
何より、無理矢理嫁がされてくる女性が可哀想です。
そんな結婚をするくらいなら、人質としては大して役に立たない一族末端の男を、大量に受け入れた方がまだましです。
「食糧は領地が激増したので大量生産が可能になりました。
難民に荒地を開墾させたので、彼らが生きていけるくらいの収穫はあるでしょう。
魔境で狩った魔獣肉や獣肉で良いのなら、去年と同じだけ運んで来られます。
援軍の方は、軍事同盟を結べば可能ですが、その時は我が国が攻められた時にも援軍を送っていただく事になりますよ?」
「貴国と軍事同盟を結んだら、確実に教皇から詰問状が届くな。
庶子を実子と認めて貴君の側室にするのと同じように破門されるかもしれない。
どうせ破門されるのなら、娘の婚約を破棄して貴君に嫁がせた方がずっとましだ」
ロレンツォ大公王はブロデン大公王国を意識しているのでしょう。
大公王主催の舞踏会に平気で刺客を送ってくるのも、シルソー大公国を舐め切っているからできる事です。
ブロデン大公王国は、先の五十年戦争で急激に力をつけた国です。
連邦内で唯一シルソー大公国に匹敵する大国です。
他にも有力な大公王国や公王国はありますが、第三位の国でも両国の七分の一程度の国力でしょう。
他の大公王国だと二十分の一から三十分の一。
公王国や有力侯王国で百分の一前後です。
五十年戦争中は、弱小侯王達が都市規模で軍事同盟を結び、大公王国に抵抗していました。
新教を信じる平民達が激しい抵抗をしていましたので、大公王国も内乱に勝ちきれませんでした。
だからこのような弱小侯王乱立状態になっています。
今また新教徒の俺が、旧教徒の大公王国王子の婚約者を奪うような事になれば、教皇や近隣旧教国も加わって、新たな戦争を勃発させるかもしれません。
「また宗教戦争を始める事になってしまいますが、それでもいいのですか?
その覚悟があるのでしたら、殿下の姫君を正室に向かえましょう。
そこまでの覚悟がないのでしたら、他の方法で凌ぐしかないと思いますよ」
「他に方法などあるのか?」
「殿下だけでなく、一族や家臣の方々がプライドを捨てられるのなら、方法はありますが、お聞きになられますか?」
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