第28話:報復侵攻

「父上、御帰還おめでとうございます」


「うむ、出迎え御苦労。

 ディドの噂は遠征先でも色々と聞いていたぞ。

 随分と活躍したんだって?!」


「お耳汚しの噂を立ててしまい、申し訳ございません」


「わっはっはははは、謙遜するな。

 俺を助けるために派手に動いてくれたのだろう?

 お陰で交渉が随分と楽になった。 

 ディドが欲しいと言っていた樹木も結構手に入ったぞ」


「本当ですか?

 駱駝や山羊を連れて帰ってきて下さったのは、ひと目で分かっていましたが、植物まで持ち帰ってくださったのですか?!」


「ああ、全部は無理だったし、数も限られているが、結構手に入ったぞ」


「見て来て宜しいでしょうか?」


「遠慮するな、好きなだけ見て来い」


「ありがとうございます!」


 父上が戻られたのは、俺がブレイン男爵一族を領地から追い出して半年です。

 俺は七歳から八歳に成っていました。


 ただ、王家からブレイン男爵領とマーガデール男爵領の領有を認められたのは、ブレイン男爵一族を領地から追い出して二十日という、異例の早さでした。


 勅使が来たので、竜で出迎えて色々聞き出しました。

 竜軍団に出迎えられた勅使の口はとても軽かったです。

 王やウェストベリー侯爵が口止めした事もペラペラと話してくれました。


 ウェストベリー侯爵は、マーガデール男爵が領地から追い出された時点では、父上を領地に戻れないようにしておいて、母上達を捕虜にする計画だったそうです。


 ところが、俺まで身体強化魔法を使えると噂に聞き、大兵力を準備していても、動くに動けなくなっていたそうです。


 そこに、ブレイン男爵一族が逃げて来て、俺が竜軍団を創設し、王都への侵攻まで考えていると伝え聞いたのです。


 王は兎も角、ウェストベリー侯爵は凄く焦っていたそうです。

 王はウェストベリー侯爵を切り捨てれば済みますが、直接憎まれているウェストベリー侯爵に逃げ道はありません。


 急いで極悪非道な損切をしたそうです。

 王都に逃げてきたブレイン男爵一族とマーガデール男爵一族を、領地を治められない無能と決めつけ、全員処刑してしまったそうです。


 ですが、それで許してやるほど、俺は甘い性格ではありません。

 王都に輓竜と騎竜を従えた使者を送り、黒幕のウェストベリー侯爵に何の処分も無いのは許せないと奏上させました。


 国王陛下が依怙贔屓な裁定を下すのなら、独立を宣言するだけでなく、竜軍団を率いて不公平な王を正すと使者に言わせました。


 王は他の有力貴族を組んでウェストベリー侯爵を切り捨てました。

 思っていた通り、中型亜竜で編制した竜軍団の威圧力は凄いです。

 ウェストベリー侯爵の派閥と内乱になってでも、竜軍団との戦いを避けたのです。


 国王から切り捨てられたウェストベリー侯爵は大変です。

 派閥に加わっていた中小の貴族が全て離脱したのです。


 落ち目になると言うのは哀れなものです。

 血縁の濃い貴族と直属の騎士まで逃げ出してしまったそうです。

 竜軍団が攻めてくると言う噂を聞いた領民まで逃げ出したそうです。


 逃げなかった領民の中には、ウェストベリー侯爵に謀叛する者まで現れました。

 領地を統治するどころか、城に攻め込まれる心配までしなければいけません。


 追い詰められたウェストベリー侯爵は、我が家に詫びを入れてきました。

 莫大な賠償金を支払うので、許して欲しいと嫡男を使者に送ってきました。


 皆さんも知っておられるように、落ちた犬は棒で叩けと言う魯迅の格言がありますが、俺はその格言に従いました。


 日本で生きている頃は、本来の意味である落ちた犬は叩くなの精神で生きていましたが、この世界でそれをやってしまうと、家臣領民が殺されてしまうのです。


 父上達がそういう目に遭われているので、間違いありません。

 父上の留守を預かる俺が、同じ失敗をする訳にはいきません。


 俺は、我が家からウェストベリー侯爵領までに存在している、貴族領や騎士領に使者を送り、我が家とウェストベリー侯爵家のどちらに味方するのか決めさせました。


 同時に、我が家の竜軍団には、中型の肉食亜竜がいるので、餌になる動物を用意しておいてくれないと、貴族平民の見境なく喰ってしまうと伝えました。


 全ての貴族と王家直属の領主騎士が、我が家に味方すると返事してくれました。

 できる限り肉食亜竜の餌になる山羊・羊・豚・牛・鶏などを集める。

 草食亜竜の餌となる牧草も準備してくれると返事してくれました。


 俺は魅了した竜軍団を引き連れてウェストベリー侯爵領に向かいました。

 肉食亜竜の闘竜三十五頭、その内、騎士が操っている闘竜十騎。

 物資の輸送用に輓竜五頭。


 その威容、特に餌として買った山羊や羊を貪り食う姿は、侵攻路上にある貴族士族はもちろん、領民にも忘れ難い恐怖を植え付けました。


 事実上彼らが我が家の派閥に入りました。

 王家や有力貴族がどれだけ脅しても、彼らが我が家を裏切る事はないでしょう。


 俺は貴族士族が恐怖に震えて用意してくれた家畜を全て買い取りました。

 脅して無理矢理奪ったりしません。


 ちゃんと対価を払って買い取りました。

 多くの竜素材が手に入った我が家は、莫大な資金があるのです。

 これで竜に喰われた家畜を五倍に増やすことができました。


 恐怖の余り、本来なら残しておかなければいけない家畜まで用意していたのは、彼らが憶病なのが悪いので、俺の責任ではありません。


 そうそう、守りの事を忘れている訳ではありません。

 いざとなったら迎撃に使える肉竜九十八頭と走竜五十三頭は、ブレイン男爵領とマーガデール男爵領、北砦に分散配置しました。


 俺が竜軍団を率いてウェストベリー侯爵領に着く頃には、当主も後継者も家臣領民も、領地都領城から逃げ出していました。


 交渉するのに王都まで行かなければいけない状態でした。

 恐ろしい肉食亜竜軍団を見た王都の民は、国王以下王侯貴族も含めて、恐怖に支配されました。


「フェルディナンド殿、全て我が父我が家の悪事でございます。

 お詫びのしようもない悪逆非道な行いでありました。

 もう二度とマクネイア男爵家に手出しいたしません。

 父は幽閉して絶対に表に出しません。

 お慈悲を持ちまして、父の隠居と領地の割譲でお許し願えないでしょうか?」


「管理しなければいけないような領地は不要です。

 今後百年間、我が家に税の半分を納めてください」


「半分ですか?!

 それほどの額を納めると我が家が立ちゆきません」


「よく言いますね。

 ウェストベリー侯爵家は、力で従えた、立場の弱い貴族から税の半分を奪い、その利益で貴方も贅沢な暮らしをしていたのでしょう?

 文句を言うのなら、正々堂々と騎士の決闘で決着を付けましょう。

 公平を期すために、闘竜を貸してあげても良いですよ。

 無能な主には従わず、食べてしまうほど気性は荒いですが、どうされます?

 私は決闘でも蹂躙でもいいのですよ?」


「うっ、ううううう、従わせていただきます。

 今後百年間、税の半分を納めさせていただきます」


「受け入れてくれてよかったです。

 これで、竜が暴れて荒廃した領地を治めなくてすみます。

 それに、我が家の従う限り、これまで虐げてきた家に報復される事もありません。

 貴男のように、他家を虐げて贅沢三昧していた者が、報復で恥をかかされたり殺されたりするのは気になりませんが、孫の代まで虐待されるのは可哀想ですからね」


「くっ……」


 俺の言葉を聞いて、愚かな後継者は、ようやく自分の立場が分かったようです。

 我が家が賠償金を受け取っている間は、我が家を敵に回したくない家は、ウェストベリー侯爵家に手出ししません。


 ただ、腐っても侯爵家です。

 ここまで追い詰めてもそれなりの力を残しているでしょう。


 その力を使って、自分達よりも弱い者から富を奪って、贅沢しようとするかもしれません。


「最後に言っておきますが、騎士道に反するような卑怯下劣なマネをしたら、それが例え平民が相手でも、我が家が味方をします。

 今度こそウェストベリー侯爵家を根絶やしにしてあげます。

 それは、今回本家を見限って生き延びようとしている卑怯者も同じです。

 九族皆殺しにしてあげますから、巻き込まれたくないのなら、命懸けで本家の行いを見張っていなさい!」


 俺は強制的に集合させていた、ウェストベリー侯爵家の親戚縁者に命じました。

 全員真っ青な顔をして首を縦に振っています。


 闘竜の上に跨る俺達に見下ろされているので、最初から生きた心地がしていなかったのでしょう。


 そんな事があって、現在に至っているのです。

 父上から活躍したと褒めて頂けるのも当然と言えば当然です。


 ですが、軍事面で褒めて欲しい訳ではありません。

 俺が褒めて欲しいのは、領地開発なのです。


「父上、これで挿し木と接ぎ木を試してみたいです。

 今直ぐ母上達の居られる八の村に行きたいのですが、宜しいですか?」


「そうだな、俺も一日も早くパトリ達に会いたい。

 ここはヴィオに任せて、全速力で駆けるか?」


「はい、父上」


 申し訳ない、フラヴィオ。

 親子揃って頼ってばかりですが、これからも宜しく頼みますね。

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