第18話:宣戦布告

 捕らえた1000人の盗賊を厳しく取り調べました。

 悪人を取り逃がすのは仕方のない事だと割り切りました。


 絶対に間違えたくないのは、無実の者を罰してしまう事です。

 特に取り返しのつかない罰、無実の者を処刑する事だけは避けなければいけないと、真剣に取り調べました。


「間違いないな?!

 嘘を言っていると分かったら、これまでのような痛みではすまないぞ!

 マクネイア男爵家の拷問がどれほど恐ろしいか、聞いた事くらいあるだろう!」


 俺の趣味ではありませんが、拷問は避けて通れません。

 誰だって命が惜しいのです。

 罪を隠して、罰を少しでも軽くしようとします。


 悪党ほどふてぶてしいですし、嘘をつくのも上手いです。

 中には自己暗示をかけて本当に罪を犯していないと思い込む奴までいます。

 そんな連中を白状させるには、並大抵の苦痛では無理なのです。


 我が家には熟練の拷問士がいます。

 亡くなられた祖父が傭兵団長を務められたいた頃からいる古強者です。

 実戦では戦えないくらい歳を重ねていますが、その分老練なのです。


「若、何人もが同じ答えをしていますので、まず間違いはないと思われます」


「事前に示し合わせていた可能性はありませんか?」


「ありますが、それは最初に言っていた黒幕でしょう。

 拷問を繰り返すうちに、黒幕が変わりました。

 全員が同じ黒幕を証言したのは三人までで、四人目からは一致していません。

 幹部だけが一致して証言した四人目の黒幕、ウェストベリー侯爵で間違いないでしょう」


「俺もそう思いますが、まず間違いなく盗賊達が嘘を言っていると反論してきます。

 それに対抗する方法はありますか?」


 俺は拷問士だけでなく、同席している家宰兼騎士団長のフラヴィオに確認したのですが、答えは予想通りでした。


「残念ながら、ありません。

 ウェストベリー侯爵は、王国でも五指に入る権力者です。

 政治的に敵対する勢力もいますが、我が家に関する事だけは考えが一致していると思われますので、派閥争いを利用する事もできません」


 古強者の拷問士も同じ考えのようです。

 もちろん俺も同じ考えでした。


「では、次善の策として、ウェストベリー侯爵の手先となって、我が家への侵攻を二度も黙認した、ブレイン男爵家とマーガデール男爵家に宣戦布告します」


「それが一番だと思いますが、本当に一人で行かれるのですか?」


「一人ではないですよ。

 護衛と荷役は連れて行きますから」


「それは男爵家の領都まででしょう?

 領都の中には一人で行かれるのでしょう?」


「足手纏いだから仕方がありません」


「護衛騎士達が足手纏いなのは仕方がないでしょう。

 若は男爵閣下と同等の、大陸に冠絶した魔法使いなのですから」


 本当は騎士や戦士と言われたいです。

 ですが、それでは、敵に対するイメージが弱いのです。

 この世界では、魔法使いほど恐れられている存在はありません。


 神や悪魔の寵愛を受けた者だけが魔法を使えるという、間違った考えが広まってしまっているのです。 


 ただ、五十年戦争の影響で、その考えも疑われ出しています。

 愚かで身勝手なホープ教皇が、自分達に敵対した新教徒の魔法使いを、悪魔の手先だと言い出したのです。


 そうかと思うと、新教徒から旧教徒に寝返ったばかりか、父上達を裏切って多くの傭兵仲間を殺した魔法使いを、神の寵愛を受けたと言い出したのです。


 本当に愚かとしか言いようがありません。


 自分達の味方をした者だけが神の寵愛者で、自分達と敵対した者は悪魔の寵愛者だと言っても、心ある者や知識ある者は騙せません!


 まして魔法使いが陣営を替える度に、神の使徒だ、悪魔の手才だとコロコロ変えるのですから、ホープ教皇の信用など地に落ちています。


「後の事は任せましたよ」


「ご無事の帰還を心待ちしております」


 俺は護衛騎士6人と荷役50人と荷車25台、軍馬14頭と輓馬50頭を従えて北砦を出ました。


 ラクダが手に入ったからこそ、これだけの人数と頭数をだせたのです。

 それと、俺が自重を止めて魔境から魔樹を大量に切り出したから、25台もの荷車を新造できたのもあります。


 何より行き先が隣領だったのが大きいです。

 流石に王都や遠方までは、これだけの輓馬は出せません。


 俺が大量に切り出した大理石や魔樹の残りを、砦や村に運んで防衛力を強化しなければいけませんから!


「マーガデール男爵に物申す!

 我こそはマクネイア男爵が一子フェルディナンド。

 ウェストベリー侯爵の手先となり、盗賊に偽装したウェストベリー侯爵の手勢を見逃して、我が領地を襲わせた事許し難し!

 貴君も貴族の端くれならば、決闘の申し込みを受けよ!

 繰り返す、卑怯下劣、貴族の風上にも置けない腐れ外道!

 盗賊にも劣る恥知らずなマーガデール男爵!

 我こそはマクネイア男爵が一子フェルディナンドなり。

 正々堂々と俺の決闘を受けよ!」


 マーガデール男爵のような卑怯者が決闘の申し込みを受けるとは思っていません。

 男爵の罪を家臣領民に明らかにする事が目的です。


 そうすれば彼の信望は地に落ちるでしょう。

 最初から地に落ちるほどの信望があったとは思えませんが。


 まあ、それは置いておいても、貴族同士の争いに名分と名乗りは不可欠です。

 何の名分もなく、名乗りもあげずに襲ったら、犯罪者にされてしまいます。

 体裁は整えなければいけないのです。


 マーガデール男爵は、ウェストベリー侯爵に言われてやったわけではない、と言い逃れするのは間違いありません。


 知っていて盗賊団を見のがしたわけではない、と言い訳するでしょう。

 ですがそれならそれで構わないのです。

 1000人もの盗賊団を見逃したこと自体が罪なのです。


 領地を預かる貴族には、治安を維持する責任があります。

 王国の治安を乱す盗賊を見逃すなど、領地を治める力がない、と処罰されます。

 言い逃れられない大失態なのです。


 そもそも、どこをどう考えれば、並の傭兵団や軍隊を遥かに超える、1000人もの盗賊を見逃せるというのですか!


「卑怯下劣なだけでなく、兎よりも憶病なのか?!

 まだ爵位にもついていない俺が名乗りを上げているのに、城に籠って震えていて、よく辺境を守る領主に任命されたな!

 妻や娘をウェストベリー侯爵に差し出して領主の座を買ったのか?

 それとも自分の尻でも差し出したか?!」


 とても七歳の子供が口にする言葉ではないです。

 ですが、これくらい言わないとマーガデール男爵を引っ張り出せません。


 まあ、俺としては、別に引っ張り出せなくてもかまいません。

 家臣領民から見捨てらたら、それでいいのです。


 我が家がマーガデール男爵領を併呑するのに、騎士や徒士、領民から命懸けの抵抗を受けるのは避けたいですから。


「おのれ小僧!

 言わせておけば好き勝手言いやがって!

 我こそは南辺境にこの人ありと言われたマーガデール男爵だぞ!

 まだ寝小便も治らない子供相手に決闘などできるか!

 尻をひっぱられたくなかったら、家に帰っておむつを替えてもらえ!」


 俺と戦いたくないマーガデール男爵が必死で言い訳しています。

 それなりにうまい言葉を使っていますが、声が振るえているので台無しです。


 せっかく城壁の上にまで出て来てくれたのです。

 引きずり降ろして無理矢理にでも決闘に応じてもらいましょう。


「卑怯下劣なマーガデール男爵!

 俺のような子供相手に決闘をするのも怖いか?

 以前にも、盗賊に変装させたウェストベリー侯爵の手先に我が領地を襲撃させた時に、厳重な抗議をしたはずだぞ!

 もうこれ以上逃げ隠れする事は許さん!」


 俺はそう言うと、地竜森林から切り出した材木で造ったであろう城壁の上に立つ、マーガデール男爵の襟首を捕まえて引き摺り下ろしました。


 幅10メートル、高さ5メートルくらいなら、意識することなく移動する事ができるので、簡単な事です。


「あら、あら、あら。

 俺の事をおむつの取れない子供と言っていたくせに、実際におむつが必要なのはマーガデール男爵のようですね。

 このような子供に捕らえられただけで、小便だけでなく大便まで漏らしてしまわれるとは、恥ずかしくないですか?

 おおおおお、くさいクサイ臭い!

 性根が腐っている卑怯下劣な奴の大便は、当人に負けず劣らず臭いですね!」

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