第五話 『恩人の師』
それから僕は高梨さんと高梨さんの師匠に連れられ庭に面した広い応接室らしき
部屋へと通され、高梨さんと横並びになる形で彼女の師匠、八雲秋定さんと
向き合うようにして椅子に腰かける。
「――――ということなんですが」
八雲さんのお弟子さんだろうか。
作務衣を着た男性がお茶とお茶菓子をテーブルに並べる中、僕は昨日高梨さんに
話したように八雲さんにも僕の直面している不可思議な現象について説明をした。
「…………」
「どうですか師匠?」
「どうと言われてもね。ボクも聞いたことのない事案だ。それにボクの眼から見ても
特に何も感じないね」
「師匠にも分からないなんてことがあるんですか?」
「ボクも完璧じゃないからね。当然分からないことだってあるよ」
その答えに高梨さんは予想外だと言わんばかりに困り顔を浮かべる。
「もしかして怪異の影響じゃないんですかね」
「いやどうだろうね。可能性としてはあるかもしれないが一概にそうともいえない」
すると八雲は少しの間を置いて今度は僕の方に視線を向ける。
「天寺少年、これは確認なんだけど。今回の異変、起きたのは大体一年前ってことで
間違い無いかな?」
「はい、多少の誤差はあると思いますが概ねそのくらいです」
「ふむ、そうかい」
その質問の答えを聞き、彼は手を組みながら体を前に倒し首を傾げ「うーん」と
わかりやすく唸ってみせる。
そんな時間がしばらく続いた後、八雲さんは口元に当てていた手を離し、
人差し指を天井に向ける。
「藍華くん、これは提案なのだが。原因が判るまで天寺少年を君の仕事に
付き合ってもらう、というのはどうだろうか?」
「え?」
高梨さんは八雲さんの突然の言葉に心底間の抜けた顔を見せる。
「本気ですか?」
「勿論さ。君にも判るだろ。これが一番最適なんだ」
「…………」
その言葉に藍華は逡巡する様子を見せ、僕はそれを横目で注視する。
その様子を察したのか、八雲さんは僕に対しても言葉を続ける。
「天寺くん、君の体に出た異変には大きく分けて二つの問題点がある」
「……なんですか?」
「一つはその原因が本当に怪異がらみによるものなのか不明なことだ。
原因が分からない以上、ボクとしては何もできない」
「そんな――――」
「そしてもう一つ。今回の件、もし原因が怪異がらみだった場合、君は今とても
危険な状態にあるということだ」
八雲さんは怯える僕とは対照的に、眉一つ動かさず差し出された緑茶をすする。
「どういう意味ですか?」
「なにそう難しい話じゃない。未知の現象である以上、これから先、
我々の予想以上の被害をもたらす可能性もあるということさ」
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