ヴァチカンのエクソシスト
最強エクソシストおじさんと若手神父の痛快エクソシストバディアクション!
みたいな軽い話では全然なかったのだ。
公開当初から好評で、ファンアートがたくさん描かれて、配給元もリプやRTを飛ばすフランクさを見て、ホラーエンタメなのかな?と思ってたけどそうではなかった。
もちろんエンタメ部分や登場人物のキャラもすごくいいんだけど、教会の光と闇の部分に向き合った真摯な作風でもある。
主人公は生涯で数万回の悪魔払いを行った実在のエクソシスト、ガブリエーレ・アモルト神父。記者としてたくさんの著作を残していて、それらを着想に描かれたのがこの映画。
アモルト神父は悪魔憑きの98%が精神疾患で説明できると公言するなど、普通に想像する敬虔な神父のイメージとはだいぶ違って現実的な人物だ。
まず作中でラッセル・クロウが演じるこの神父が最高。
悪魔に苦しむひとを救うため我が身を顧みず闘う一方、ヴァチカンの上層部にも楯突くし、スクーターぶっ飛ばして悪魔祓いに向かう。
事あるごとに自著を宣伝するし、悪魔に「お前の悪夢は何だ」と聞かれて「W杯でフランスが優勝すること」と答える、アウトローでお茶目なおじさんだ。
彼が依頼を受けて向かうのはスペインの片田舎の元修道院。
今は廃墟だが、夫を失い、ふたりの子を養うために改修事業を行うシングルマザーが移住してきた。しかし、地下を掘り起こしたことで、封印されていた悪魔が目覚め、彼女の息子に取り憑いてしまう。
アモルト神父は、過去にトラウマを抱える地元の若い神父と共に悪魔祓いに挑むが、それは想像を絶する強大な敵だった。
というのがあらすじ。……ヴァチカンからスペインまでスクーターで!?
正統派ゴシックホラーな演出や、フロムゲーみたいな悪魔とのバトルシーンも面白いし、エンタメとしても充分楽しめるけど、それだけじゃない真面目な作りだ。
冒頭の問答から「選択」が重視される。
要は「神が全知全能なら、人間を苦しめる悪の存在も敢えて許してるの?」ということ。
神は最強最高!苦しいことは皆試練!という思考停止を信仰とはしない。
そこが、無神論者(無宗教とは違うぜ)の自分にも観やすかったし、宗教に馴染みのない日本人にも受け入れやすいと思う。
本作は宗教の矛盾や後ろ暗い部分に常に目を向けていている。言ってしまえば、信仰に対する揺らぎの部分。
そして、悪魔は心の弱さや後悔に漬け込むので、揺らぎを持ってしまえば悪魔との対決の弱点となる。
疑念に対しての信仰の脆さという点では、タイ×韓国の合作ホラー映画・女神の継承も扱っていたけど、こちらは特にキリスト教の暗部に注目している。
例えば、アモルト神父の最大のトラウマは、教会に性的虐待を受けていた少女にそれと気づかず、結果的に自死させてしまったこと。
カトリックの児童虐待は2015年のアカデミー作品賞映画スポットライト:世紀のスクープの題材になるほど大きく取り沙汰された。
また、これはネタバレなんだけど、避けずに解説できないから書く。薄目で見てください。
アモルト神父たちが向かった修道院に封印されていたのは、宗教家に取り憑いて悪事を行わせる強大な悪魔だった。その悪魔に憑かれた聖職者によって起こされたのが、2000人にも及ぶユダヤ人の大虐殺を招いたスペイン異端審問だ。
つまり、異端審問は悪魔に唆されて行われたということ。
教会の罪を悪魔の仕業としたのはひとによっては逃げと受け取るかもしれないけど、個人的にはそうじゃないと思う。
実際もっと後ろめたい児童虐待にもちゃんと言及してたし。
寧ろ正義だと信じられていたものが本来憎むべき悪意によって行われ、お前らはそれに加担したんだよと根底から覆す、盲信への警鐘だと感じた。
昔は良しとされたものが今では忌むべき悪習とされるのは、古典作品の修正でもよく見る話だ。
本作の発端も古い修道院を掘り返したこと。
現代の価値観で過去を暴く行為は正義だけじゃなく、自分に後ろ暗いこととも向き合わなきゃならないよということじゃないだろうか。
C・ディッキーのゴーストランド:幽霊のいるアメリカ史には「西洋の怪談の根幹は罪悪感」と書かれていた。
本作も原罪の意識だけでなく、信仰を理由に行った侵略や教会が隠した搾取など、神の万能を疑う不信まで多面的に描かれている。
信仰を捨てる者が出るのも決して否定していない。
じゃあ、信仰は無意味かというとそうでもない。
信じるものがなければ何にも縋れず奈落に落ちるだけだから、悪に立ち向かうために自分の中に善を持つんだよという、切実な個人の精神論が落とし所だ。
儚いものだけど、実際それくらいしかないんじゃないだろうか。
頭空っぽで観られる話ではないけど、エンタメ的な部分は文句なしにちゃんと面白いし、あのバディで続編が観たい。
でも、主演のラッセル・クロウはホラーが大の苦手だそうだ。可愛いね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます