銀の大罪人
レム
第1章 蘇った罪人
プロローグ
よく覚えている。
あれは、青だ。
俺の目の前には大きな青空が広がっている。見開いた目に優しい光が降り注ぐ。それは、とても暖かくて、とても、悲しい。
心の奥から湧き出る寂寥感に身を捩らせて俺は泣いた。
それは、それは、大きな鳴き声だっただろう。
恥ずかしい?
ははは、確かにそうかもしれないな。だけど、生まれてすぐのガキに羞恥心を問う方が可笑しい。
俺は泣く。
だけど、誰も俺に見向きもしてくれない。
ここにいるのに、誰も俺を見ない。
ただ弱いガキだ。
将来どれだけ屈強な大人になるにしても生まれてすぐの赤子は誰とも変わらない。
「おぎゃー、おぎゃー」
その小さな手を必死に空に向けて伸ばす。
流れる雲が欲しかったのか。
肌を撫ぜる風を捉えたかったのか。
違う! そんなはずはない!
俺は欲しかったんだ。
冷たくなっていく手に温かさを。
――俺はここにいる!
どれだけ必死にアピールしたって無理だ。この広い世界、誕生したばかりの命がただ消えていくだけ。
俺がどれだけ喚いたって生まれる事実はそれだけだ。
それでも、それでも、俺は運命に抗う。
誰も俺を見ない。
誰も俺を振り向かない。
徐々に声が小さくなっていく。もう、体力の限界だ。まだ景色がよく見えていない両目に涙が溜まってきた。
見捨てられるのが悔しいからじゃない。
温もりが失われていくのが怖いんだ。
すでに手を伸ばしていられる体力もなくなってきた。命尽きるように力みを失った腕が地面につく寸前だ。
「おやおやおや、これは元気に泣く子だね」
一人の男の声がした。
元気な声であるはずがない。でも、その声を聞くと俺は再び声を上げて泣いた。
泣いているからそばに来た男がどんな男なのかはわからないけど、優しい声をしていた。
地面に置かれている俺の体に手を入れると軽々しく持ち上げた。その手はごつごつしていて、ザラザラしていて抱き方も下手だったけど、男から伝わる温もりは心から安心し、安らぎを得ることができた。
「きゃっきゃっ」
その気持ちを表すために男に向けて俺を小さな手を必死に伸ばした。
その気持ちが通じたのかはわからないけど、男は俺に一生忘れることができない言葉を言ってくれた。
「坊主、うちの子にならないか?」
ただの赤子に言葉なんて理解できるはずもない。だけど、俺はまるで、即答するように差し出された手を握っていた。
「よろしくな、息子よ」
※
それから二十年近く経過したな。
親父、俺はあんたが望んだような立派な子供にはなれなかったよ。とんでもない親不孝な息子で済まない。でも、これが、俺が、兄弟が選んだ道だ。
あの時は恥ずかしくて言えなかったことだけど今なら言葉にできそうだ。
――なあ、親父。
――俺はあんたの息子で幸せだったよ。
――親父に、そして、お袋、こんな俺を愛してくれてありがとう。
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