洗濯当番とイザヤ
「あっ、てぃ、ティナ、あれ」
「どうしましたか——ってちょちょちょリィ!」
「え、ぁぁああ誰ですか洗濯物また飛ばしたの!!」
「ノンだよ」「ノアだよ」
「こっちに来なさい二人とも。というか自分で回収できますよね?!」
「気付かなくって」「反省してまーす」
「毎回そう言って飛ばすんじゃないですかーっ!」
大分暗く重い雲に覆われた茜色の空に白い手巾が舞った。
初めにそれに気付いたユイがティナの手を引き、ユイの視線を追いかけてそれに気付いたティナがリィを呼ぶ。
呼ばれて振り返ったリィがすぐに風魔法で手巾を回収した。
慣れた様子だなー、よくしてるのかな。
「リィも大変だねー。というか寒い寒い」
「日も、落ちてました、し、そろそろ、中に入りたい、ですね」
リィに呼び出されている双子ちゃんに苦笑しながら布団をよっこらせと洗濯棒から引きずり落とした。
隣に来て手伝ってくれるユイがはにかむ。かわいいっ!!
「北方は秋からもう寒いもんねー。風邪ひかないようにしなきゃ」
「そうです、ね。ここでこんなに、寒いと、王国は、もう、雪とか…降ってる、のかな…?」
北の方角を見るユイ。その先にあるのは高い山脈の更に向こう、閉鎖された小さく愚かな国。
何食わぬ顔で寒さにぶるぶると震えてみせる。
私たちの全部を奪った場所だ、絶対に許さない。
「王国はここより北にあるもんねぇ。確かもう、『黒海』に面してるところは積雪してるんじゃないかな?」
「そうなん、ですね」
「まぁ行きたくないけどねっ。寒いのは嫌だもん。どうせもう少ししたらここら辺だって降り出すし。北の冬は厳しいよー」
「じゃあ、洗濯物、も、乾きません、か?」
「乾くって言うより凍るんだよね」
「ふ、服が、凍る…ですか…?」
「もうカッチンコッチン。水も冷たいしやんなっちゃうよ。綺麗な季節なんだけどね。ふふ、ステラみたい♪」
「…冬は、ステラ先輩、みたいな、季節、なんですね」
「厳しくて綺麗なところがね♪」
「——それは、ちょっと、楽しみです」
ユイもステラが大好きだからね。
きらきらと目を輝かせる少女に私も笑顔が浮かぶ。
強い風が吹き抜けて、私の紅髪を攫った。簡素な髪留めで止めてある前髪を気にしながら空を見上げる。
うーん、もう少しって言っても、まだ一週間は降らないかな。
重たい雲を見上げて、灰色の空を見積もる。
弾んだ足音が、寒さですっかり痛くなってきた耳に届いた。この足音は、
「やっほーなのなー!布巾をもらいにきましたー!」
きらきらと弾んだ声が寒い外の空気を照らした。
視線を向けると、にこにこと笑顔な小鳥さんの姿。
双子ちゃんの首根っこを掴んでいたリィが首を傾げる。
「あれ、ソラ。料理用のですか?」
「うん!全部切らしちゃってたのな~」
「昨日ハルリが鍋をひっくり返してしまったときにたくさん使いましたからね。どうぞ。ついでに台所の布巾全部持って行ってもらえますか?」
「任せてくださいなのなー!ありがとーございます、リィちゃん!」
お邪魔しましたー!と一礼してから寮の中へ戻っていったソラ。元気いっぱいで可愛い。
様子を見守っていたユイが冷たい風に亜麻色のおさげを揺らした。真っ赤な耳がちらりと覗く。
「もう、寒い季節、なんです、ね」
実感をかみしめるように呟かれるその言葉に目を瞬かせる。
北方の人はこんなの慣れっこで、あ。
そういばユイって、ここ出身じゃなかったか。
「そっか、ユイは初めて?」
「は、はい。その、前、いたのは、雪は降らない、地域、で」
「そっかぁ。雪はね、白くて小さくてきらきらしてて綺麗なんだよ~!」
「白くて…小さくて…きらきら、ですか…?あ、」
「わっとと」
持っていた洗濯物から手を離して、手をパタパタと振って見せた。
運悪く吹く冷たい風に洗濯物を攫われそうになって、軽く飛んで布を掴む。
ぱちぱちと控え目に拍手をくれるユイ。えっへん。じゃなくて、洗濯物を折りたたむユイの隣にしゃがみこんで笑いかける。
「ふふっ、楽しみだね、みんなで見るの!」
知らない雪に思いをはせていたようだったユイがぱちくりと瞬きをしてからはにかんだ。
「はいっ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます