ステラの授業

サヤ主導の元校庭に出たボクたちは、二年生一人一年生数人の班に分かれて魔法の練習をしていた。


「四つ班を作ろう!私達二年生は各班一人ずつ。一年生たちも四つに分かれて班に入る。それで班を作って魔法の練習をしよう!そっちのほうが効率的でいいと思うんだよねっ!」


魔法を教えるという以外の観点からもサヤが提案した案は効率がいい。


ボクたち二年生は一年生たちのお守りをクロ先生から任されている身。そして国宝を盗んでまんまと逃げ出せれるような輩がどこに潜んでいるのか分からない。全員で後輩たちを囲むよりも、一人ずつ数人の護衛を担当したほうがいいのは自明の理だ。月夜学院は訳ありの子達ばかりで過去に何度か誘拐未満の事件が起きているらしいし、油断はできない。


「じゃ、真面目にやりますか。」


ボクの班に来た後輩は四人。そのうちの二人はノンとリィ。もう二人は普段ボクよりかはカイやサヤとよくいる子だ。


「ねぇねぇ、この花はなにかしら?」


きらきらと紫の瞳を輝かせて足元に小さく咲いた花を見る黄色の長髪の少女、ルーア・ラナ。


「……危ない……ラナ、それ棘ある……」


無表情にたどたどしく言葉を紡いでいるキリス・アカネ。愛称はアキ。紅葉のような髪色が鮮やかな、橙の瞳を持った小柄な少年だ。


手を軽く叩いて四人の視線を集める。


「そろそろやるよ、四人とも。何かしたいことはある?」


顔を見合わせる四人。


「じゃあオレ中級魔法したいです」

「私もです」

「ならラナも中級魔法でお願いするのよ」

「………おれも」


ふむ。授業ではもうみんな中級魔法をしているっぽいんだけどな。少し考えた後、まぁいっか、と顔を上げる。


「じゃ、全員中級魔法にしようか。四人とも、どれぐらいできるかな。やってもらってもいい?」


はーい、と返事をして間隔を開ける四人。ラナが勢い良く手を挙げた。


「何かな、ラナ。」

「リン姉さまにお手本を見せてもらいたいのよ!」


なるほど。いいよ、と軽く頷いてから人差し指を振った。


「〈炎尖剣〉〈水渓矢〉〈風脆鎖〉〈雷千牙〉〈土砂竜〉〈氷恐楔〉〈光華槍〉〈闇暗刃〉。」


空に全属性の中級魔法が発動される。


わぁっ、と輝かせた四人にボクは問いをぶつける。


「初級魔法と中級魔法の違いはなーんだ?」

「形の決め方です!」


元気よくするっと答えたノンのドヤ顔が可愛い。褒めてくださいっ!と飛びついてきたノンの頭を撫でる。リィが呆れ顔、ラナがあからさまにむくれた顔、アキが僅かに羨ましそうな顔をする。仲いいねぇ。


「初級魔法と中級魔法の大きな違いは形の作り方。初級魔法は魔法式を立てて魔力を通せば規範通りの形ができる。でも中級魔法はそうはいかない。仮に初級魔法と同じようにしただけじゃ、」


剣や矢、鎖など様々な形をしていた頭上の魔法たちが一気にその形を失う。目の前に拡大して構築した魔法式を展開、投映する。


「形がない。中級魔法や上級魔法は魔法式に形を細かく決める式を組み込んでいない分ある程度の自由がきく。大きさ調整とか形の変形とかね。」


頭上の八つの中級魔法で実演してみせながら説明を続ける。


「代わりに、その形を作る部分で苦労する子が多いかな。」


うんうんと頷く四人。やっぱりここで躓いているようだった。コツや感覚さえ掴めばこれはすぐに出来るようになるから大丈夫そうだね。


「ボクが手本を見せながらやるから、四人はそれを前にしてやってみようか。どうしてもできない場合はボクが魔法式に介入して手伝うから、焦らずにゆっくりしようね。」

「「「「……………え?」」」」


あれ、はーいって返ってこないな。首を傾げて四人を見ると、ぽかんとした表情。ん?


「介入……?」


至極真面目に首を傾げるリィ。あそっか、一年生はまだ習ってなかったか。


「リィ、魔法式組んでみて。他の三人が見えるように投映してやってくれると助かるかな。」

「え、あ、はい」


ボクに言われるがままに風属性初級魔法を組み上げていくリィ。綺麗な、模範的な構築。リィの真面目な性格が窺える。よいしょ、と


「へ?え、私こんな風に組んでな、」


素っ頓狂な声を上げるリィと、空中に投映された魔法式を見て驚く三人。視線がボクに集まるなか、人差し指をくるくると回して種明かしをする。


「魔力介入。自分の魔力を他人の魔法式にねじ込んでそれを経由して式を書き換えたり組み上げるときに細工をしたりするんだ。ちょっと難しめの技術かな、二年生の中でこれが出来るのはボクだけだった気がする。三年で習う内容なんだけど、ボクたち二年は魔法の実技が結構前倒しでしてるからさ、クロ先生に教えてもらったんだ」


ぽかーん、としたままの四人に手を叩いて練習するように促す。


頭上に発動されたままだった八つの中級魔法を解除、四人の前にそれぞれの得意属性の中級魔法の式を展開する。


「そういうわけだから、感覚掴みはすぐにできるよ。さ、実際にしてみよう!」

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