授業前の一悶着

ええー、せっかくうるさいのを黙らしたのに。


察して苦笑するクロ先生に再度促され、渋々と水属性上級治癒魔法をかけてやる。


「ええー、って顔すんなよ!?」


ほら、治した途端うるさいじゃないですか、クロ先生。クロ先生はまぁまぁとボクを宥め、ノアとノンを連れて一年生たちの方へと行ってしまった。


カイがにこにこというかにやにやというか笑みを浮かべながら立ち上がり、顔を覗き込んでくる。


「まぁなんだかんだ優しいよなぁ、ステラって?」


おっと快晴の空から氷の礫が。


「ぎゃあああぁぁ!すんませんなんでええええ!?」


騒がしいなぁ。ボクの影から、雷狼が飛び出してくる。どうせだしカイにあげよっかなー。


「ステラ、そこら辺でやめてあげて」

「さっすが我が親友、オレを助けてくれるのか…!」

「これ以上は実習でやってね」

「そうじゃなかった!」


仲良いねーキミたちー。セラとカイを挟んだ向こう側ではサヤがやれやれと肩を竦めている。


雷狼を持て余したボクはとりあえずセラとカイにぶつけておいた。


「お二人ともー、早く実習しようよー!時間がなくなっちゃう!」

「いつまでも戯れあってないで、実習するよ。」


言い争いをやめて慄く二人。その二人に、サヤが笑顔で言い放った。


「今日はどんな風にするー?ステラ先生の授業?それとも対戦形式かなっ!」


セラが容赦なくカイを突き飛ばして全力後退。カイが地面に叩きつけられる。何やってんの?首を傾げながらサヤに視線を向ける。


「サヤはなにがいい?」

「私は対戦したーいっ!」


途端、セラとカイが表情を消し去った。死んだ目で何もない空中を見つめている。ボクはなにも分からなかったんだけど、サヤは何かに気付いたのか、あっと気まずそうな声をあげた。


「え、えっと、その、ご、ごめんね?わ、我儘言って」


大変に申し訳なさそうなサヤに、ボクだけがいいよと返事を返した。セラとカイは微動だにせず。


「じゃ、じゃあ、対戦相手を決めようかっ」


サヤの言葉にびくんとセラとカイが反応した。が、無言。


「まずは、……………ステラと組みたい人は?」


無言。


「「「…………………………………」」」


無言。


「「「…………………………………」」」


無言。後輩たちのわぁわぁという喧騒が遠くに聞こえる。へぇ、もう中級魔法の授業に入ってるんだ。本来は二年生で習う内容なのに、ボクたちの後輩は優秀な子たちが多いね。


それに比べてボクたちは……沈黙。


「ちょっと待って誰もいないのっ?てかいつもそうじゃないっ?」


それはさすがに悲しいんだけどっ!?三人と顔を背けてボクと目を頑なに合わそうとしない。カイに至っては土下座をしている。


「ほ、ほらっ、ステラと組んだら………ね?」


サヤが目線を泳がせながら、しどろもどろにボクに弁明する。ボクと組んだら何だっていうのかな!?三人を見つめ続けるも、このままでは埒が開かない。


「…………じゃあセラ、ボクと組んで。」


教室の鍵の件の恨み、ここで晴らしてくれる。


ボクがまったく反応しないセラの肩を叩くと、セラは絶望の表情を浮かべた。カイはあからさまにほっとした様子で土下座をやめて立ち上がる。


何その態度は。ボクの殺気がこもった視線にすぐさま気付いたカイはズザザザッと後退りしてサヤの背中に隠れた。女子の背中に隠れるとか男失格では?サヤもそう思ったのか問答無用でカイの首根っこを掴んで放り投げている。


まぁいつまでもこうしているのは時間の浪費だし、早く始めますか。


相変わらずこの世の終わりみたいな顔をしているセラを引っ張って校庭の中央に移動した。


「……セラ?おーい、大丈夫?」「…………………うん、大丈夫だよ」


ならその諦観の混じった死んだ目を向けるのをやめてほしいんだけど。失礼すぎないか。


向かい合って対峙すると、離れた場所に立つサヤが手で合図を送ってくれる。


校庭に、パン、と音が響いた。

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