多忙の友 7月号
崇期
連載小説 <一四> 鬼をください
コンビニエンス・ストアで買った「梅おにぎり」を食べるたび、思い出すお話がある。
「鬼くださーい。どなたか、鬼をくださいませんかぁ?」
おじぎ草のみ眠る
「電子レンジ……扉がついてる電子レンジをお持ちの方、ありませんか? 義母が誤って卵を加熱してしまい、爆発して、扉が吹き飛んでしまいましたのです」
「ぎんなんくださぁーい。茶碗蒸しに入れたいです。四、五粒あれば十分です……」
「新人さん、いませんかぁー。新人さんくださーい。うちの部署の
石焼き芋屋さんの売り声で季節を感じるように、私たちはこんな買い子の買い声で世間の人々の困りごとを知り、自分が属していない世界の様相を知るのだ。また、ちょうど処分しようと思っていた品物がうまく片づいて小金も手に入るとくれば、これを楽しみにしているご家庭もあるという。
しかし、それにしても、〈鬼〉はめったに聞かない珍品と言えよう。
「理由が気になるところだな」私は夕飯の支度をほっぽり出し、サンダルを履いて外へと、鬼を求めて声をあげていた人の下へと、走った。
「あの……。なぜ鬼がほしいんですか?」
私が質問すると、鬼の買い子さんである女性は理由を教えてくれた。
「私が生まれた島には人食い鬼が
「まあ、そんなことが」と私は口元に手を当てて言った。
「鬼はその子に退治されてしまいました」
「え?」と私は驚いた。「あなたはその、鬼擁護の立ち場でおられる方なのですか?」
物語は鬼が女性の手により復活し、またどこかの人物によって退治されるまで続いたと思う。だがしかし、以降の内容をすっかり忘れてしまうという私のドジが結末とすげ替わってしまったというわけだ。人間の記憶が頼りないことは百も承知。残念だが、それほど心動かされる内容ではなかったのかもしれない。
とにかく、「梅おにぎり」を手に取るたびに、このお話を思い出す。つまり、おにぎりの部分が「桃」で、梅が「子ども」で……私が人食い鬼?
まあ、そういうことになるのである。
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