第19話 夜のおさんぽ

 夏休み2日目。1日の勉強時間8時間ちょいにしてもう心折れそう。みんなもっとやってるんだろうなー。


 このままだと心病みそうだから20分くらい散歩した。


 家から15分くらいのところでちょっとした坂道になっていて、階段を登ると太い桜の木が一本どっしり生えている。そんな小学校(私が通っていたところの隣の)前が目的地。


 夜の散歩って初めてで、少しドキドキした。もう子供じゃないわけだから、補導される時間でなければ誰に止められることもないのに。でもちょっといけないことしてるみたいな、そんな気持ちだった。そして、それと同時にどうしてか、泣きたいような衝動に駆られたりもした。


 昼間に行くと、そこはどこか懐かしさを感じられる場所だった。通ったことのない小学校の前で、妙にホクホクした気持ちになる。桜の葉の隙間から差し込む太陽の光が、階段の上から見える景色を少しだけノスタルジックにしているからとか、校庭から聞こえてくる子供たちの声がまだ一桁歳だったあの頃を思い出させたからとか、そこに吹く風が偶然心地よいものだったからとか、きっと理由はそんなもの。とにかく、落ち着ける場所だった。


 でも、夜は違う。私以外誰もいない、シンとしたところで、夜のすっきりとした風にのった夏の香りを嗅いで、かすかに聞こえる虫の音を聞いて、街頭に照らされて静かに佇む桜の木を見て。ちょっと心がザワザワして、胸がきゅっと縮むような感じがした。でも、不安とかの嫌な感じじゃない。泣きたいような感覚に陥るけど、そうじゃない。


 そんな、夜のおさんぽだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る