決勝戦は波乱あり
続く準決勝、相手はゲイル兄妹とは比べ物にならないほど弱かった。
元々俺たちに群がってきた奴らの一人で、たまたまリゼの人間大砲を幸運にも掠っただけで本戦に残った奴らだった。
「このまま決勝も勝てるといいけどね」
「いやー、決勝だしなー。そううまくはいかないかもしれない」
控室で今行われているもう一つの準決勝の映像が通信魔法で表示されている。
仮面を被った刀使いが相手のペアを一人で一方的に攻め立てていた。
「ほら、苦労しそうだ」
「そうだね。でももう一人は全然動いてない」
もう一人の仮面を被った男は、武器も出さずに棒立ち状態。
「もう一人が狙えばいいのに……あ」
リゼが画面の端を見て気づく。すでにペアの1人は倒されているのか、姿が見当たらない。
「もう決定か…ほとんどわかんなかったね」
「とりあえず、刀使いは俺が押さえる。リゼは動いていなかった方を警戒して」
「わかったよー」
情報が少ない中、最低限の方針だけを決めて、俺たちは決勝に臨むのだった。
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「さあ、いよいよ決勝戦! 優勝の栄光を掴むのはどちらのペアか!」
会場を熱気が包み込む。目の前には、見知った顔が2つ。
学院首席、リゼ・テレストラシオン。
次席、ユノ・アスフェルト。
僕が学院時代に越えようと思って超えられなかった壁。いまなら越えられるかもしれない。
仮面で隠した顔から、思わず興奮のため息が漏れる。
もう一つの目的も、あともう少しで達成だ。
司会の長ったらしい紹介が終わった。
さあ、開戦だ。
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その異変に気づいたのは戦闘開始から数秒経ったときだった。
(おかしい、なんで仕掛けてこない?)
相手の刀使いはこちらに一歩も踏み込まずに、ただ攻撃を受け流している。
基礎を固めた隙のない守りの構え。学院時代にも同じような相手がいた。
「『
相手を包み込むような絶え間のない連撃も、ひたすらに耐えられる。
「……何かがおかしい」
このペアの狙いは、俺たちに勝つことではない…?
「…リゼ!」
「こっちもおんなじ! 相手の魔法に全部攻撃が弾かれる!」
何かを待っているのか…?
もうもう一段火力を上げるか? いや、ここで手の内を晒すのは悪手だ。恐らく相手もまだ何かを隠している。
「……よし、もういいよ」
そんなつぶやきが、かすかに聞こえた。
声の主は、リゼが攻撃していた男だった。
その言葉に応じて、刀使いも一度身を引く。
「《
そして男が発動したのは、召喚魔法。
それも難易度が高くたちが悪い
「悪魔よ! ここにいるすべての人間を! 殺し尽くせ!」
「皆! 逃げろ!」
俺は反射的にそう叫ぶ。それは観客も同じことを考えていたようで、すでに叫び声を上げながら逃げ出す人が多い。
クレアさんなどのアーセナルの人たちは避難の誘導に人員を割いている。
「リゼ! 観客が避難し切るまで時間稼ぐよ!」
「いや、でもどうやって!? 召喚の詠唱が始まったら、もう止められないでしょ!?」
「術者を倒す! 基本的に悪魔との契約は自身の魔力を消費し続けることで維持されるから、術者さえ倒せれば契約はその場で破棄される!」
そう言って俺が攻撃を仕掛けようとした矢先、今度は方な使いが俺に斬りかかってきた。
「ユノ!」
「こっちは任せろ! 早く!」
「分かった! こっちも色々やってみる!」
リゼが
「……君とは、どこかで会ったような気がするよ!」
そう言って攻撃を仕掛ける。
相手もそれを難なく防ぐ。というより、受け流す。
その受け流しの技術、どこかで……
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「――いやー、ヴァンズの防御技術はすごいな」
「何言ってるんだ。君の抜刀術の速さは防御が間に合わないくらい速いよ」
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…思い出したぞ、でも、そんな事があるのか?
あいつは人一倍正義感が強くて、誰よりも悪を憎むようなやつだった。
そんなあいつが、武王祭の決勝でデロなんて起こすか?
「おい、お前がヴァンズならなんで刀なんか使ってんだ」
あいつの本当の武器は刀なんかではなく、長剣。
まだ本気ではないということだ。
「……」
相手は何も言わず攻撃を捌き続けている。
「…まあ、どうだっていいや」
俺は一度下がり魔法を集中砲火する。
「
「っ!」
流石に魔法は受け流せないようで、相手が後ろに飛び退る。
「『抜刀一閃・瞬』」
防御が間に合わない速度で追撃を行う。
「五重奏、《
高速で拳大の岩が殺到する。
「『抜刀二撃・火水』」
「ぐっ!」
弾幕を防ぎきった瞬間の2連撃に相手が体勢を崩す。
「これで終わり!」
その隙を見逃さず逆袈裟斬りで、仕留めた。
「リゼ! そっちは!?」
召喚魔法の妨害を頼んでいたリゼの方を見る。
「無理無理! いくら攻撃しても全然効かないよ!」
そう言ってチャクラムを顕現しようとしている悪魔と術者に投げると、2つとも見えない壁に阻まれるように弾かれて手元に戻った。
「悪魔族の持つ高レベルの『魔力障壁』だな。あれじゃ大抵の攻撃は通用しない」
「どうするの!? このままだと街に甚大な被害が…」
その時、観客席からスタッとクレアさんが着地した。
「すまない。観客の避難は終わったところだ。手伝おう」
そう言って剣を抜き放つ。
「ユノ! あの魔力障壁ってどうやったら破れるの!?」
「障壁の耐久値を超える威力のスキルやアーツを叩き込めば壊せるよ」
「じゃあクレアが適任だね!」
「ああ……これでも、称号『
「え゛…まじですか?」
称号『隔絶火力』……筋力値1000以上かつ攻撃力2000以上のステータスを持つ者に与えられる称号だ。
「私がアーツを使えばあの魔力障壁も壊せるだろう」
「私が注意を散らすから、ユノは援護して」
そう言って2人が駆け出す。
「…了解っ!」
俺は魔法を展開しながら状況を把握する。
呼び出された悪魔は9割5分顕現してしまっている。
もう後は完全に顕現するのを待つのみなので術者も自由に動き出している。
俺の役目はクレアさんが悪魔に到達するまで相手に邪魔をさせないこと。
そして攻撃時のクレアさんの火力の底上げ。
「
「『
数十の炎の弾と炎刃が術者を襲う。
「…
しかしその攻撃は生み出された厚い氷の壁によって阻まれた。
「そもそも悪魔を召喚しようとしていた時点でわかってたけど、十分高レベルの相手だったか…」
「いや、十分だ!」
俺の視界の端にクレアさんが映る。
「ユノ君! 行くぞ!」
そう言ってクレアさんがデーモンに攻撃を仕掛ける。
「《
支援魔法によりクレアさんに赤い闘気が渦巻く。
「喰らえ悪魔! 『アバランシュ』!」
大上段から振り下ろした音速を超える一撃が、悪魔の防御壁を貫いた。
パリン! と済んだ音が鳴り響き、次いで醜悪な声が響き渡る。
「……間に合わなかったか」
目の前には完全に顕現された悪魔の姿が。
「すまない…あと一歩、遅かった」
「いえ、障壁を破壊できただけでも十分過ぎますよ。あのスキルは再使用に時間がかかるらしいので」
「じゃあ、短期決戦だね」
俺は不気味に佇む仮面の男と悪魔を見据える。
「じゃあ、始めようか」
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