最初の任務は…
「いらっしゃいませ~!」
俺がアーセナルに加入することになってから数日後。
今までは考えられないほど店の中が賑わうようになっていった。
「なあユノさん! その剣の修繕を頼みたいんだけど!」
「あ、ちょっと待って下さい! 今行きます!」
呼ばれた俺は修繕希望の武器を手に取る。
「いい槍ですね。穂先に使ってるのは風竜の鱗ですか? 確か魔力を流し込むと穂先から鋭利な風が吹き荒れて相手を内側からズタズタにするって聞きました」
「ああ、金貨100枚もしたんだ。任せていいか?」
「……これでしたら、まだ容量に余裕があるので敏捷性向上の術式も組み込めますが、どうします?」
「あー…魔法効果収束の術式とかってねぇか?」
「えぇ、できますよ」
「じゃあそれを追加してくれ」
「わかりました……収束させるのは、やっぱり穂先を突き刺したときに体の内側の急所を確実に破壊するためですか?」
「ああ、敏捷は間に合ってるからよ」
「わかりました。多分明日には修繕できてると思うので、引き取りの際に代金も頂戴します」
こうして様々な武器を見ることができるようになったのもギルドのお抱えとなったことで得た利益のうちの一つだ。
「さて、今日は何本売れたかな」
店じまいをした俺は帳簿をつけながら今日の売上を計算する。
クレアさんたちから、剣の値段は普通に値上げしたほうがいいと言われたが、据え置きにしておいた。
値段が高くていい武器が買えずに火力不足で死んでしまって欲しくはないし。
「順調に売上伸びてるな…忙しくなってきたし、バイトとか雇おうかな?」
そう考えていると、いきなり店の扉が開け放たれた。
「ユノ! お邪魔するよ!」
「邪魔するなら帰れ。もう今日は店じまいだ」
リゼだった。ドアが開けられた瞬間に無理やり閉める。
「ねえちょっとまって! ほんとに! 本部からの招集かかったから伝えに来たの!」
俺は再びドアを開ける。腕を組んでムスッとした表情のリゼが姿を表した。
「本部から招集?」
「いいから準備して来て!」
「りょ、了解」
すごい剣幕で来たので思わず頷き、最低限の装備だけを持って本部に向かった。
=============
リゼとともにアーセナル本部のクランマスターの執務室に通されると、部屋の中にはクレアさん、ハンスさんを含めた8人と、マスターであるラーズ先生が座っていた。
「あの…今日は如何用で?」
「萎縮する必要はないぞユノ君。リラックスしてくれ」
クレアさんにそう言われ、俺とリゼは空いている席に腰掛ける。
「…では、これより会議を始める。今日集まってもらったのは他でもない、先日アーセナルの武器職人となったユノの件についてだ」
ラーズ先生がそう言うと、フードを目深に被った人物が淡々と報告書と思われる数枚の紙を持って立ち上がる。
「はい。調べたところによると、ユノさんが卸していた剣は、この国でも有数の闇ギルドへと取引されていたようです」
「…情報収集を主に行う第2部隊の主分隊長だよ…普段は寡黙で全く話さない人なんだけど…」
リゼが側から耳打ちしてくれる。
「やっぱり自分の正体に繫がるものは見せたくないのかな。変声魔法使ってる」
「―――よって、ユノさんの高品質の剣が闇ギルドの全隊員に行き渡っていると仮定し、早急に壊滅させるべきだと判断しました」
「勝算はあるのか?」
クレアさんがそう聞く。
「まず第1部隊の主分隊で闇ギルド二潜入し、幹部だけを狙って殺してもらいます。そして数に秀でる第4部隊が正面から突っ込む」
「私としては特に反対意見はないが…なぜリゼとユノ君をつれてきた?」
「ユノさんの方は、彼の制作権限からできるだけ多くの武器を破壊してほしいと思いまして。できますよね?」
そこで俺に始めて話題が振られる。
「はい。購入されてから1ヶ月以内であれば、製作者権限で武器を破壊できます」
「ではリゼは? なぜ彼女も」
「そろそろ理事会の人たちがうるさいので黙らせようかと。リゼさん、この作戦で幹部を倒せば、あなたを正式に第1分隊に所属させたいと思いまして」
「なるほど。我々としては異論もなにもない。リゼ、お前はそれでもいいか?」
「では、一つ、ユノとバディを組ませてください。それで、私が第1分隊に所属されることになったらユノも第1部隊に所属させてください」
「彼も? 実力は確かなのかい?」
他の人達から疑問の声が上がる。俺も思う。『何いってんだコイツ』と。
「私よりも強いです」
「リゼ、謙遜のし過ぎだよ」
「…分かりました。ユノさんも、それでいいですか?」
「まあ、構いませんが」
ギルドの一員である以上働かなきゃいけないし、やるか。
それにリゼと組むのなら負ける気がしない。
「よし、具体的な日時は決まり次第伝える。では解散」
=============
「さて、初任務は大仕事になりそうだねー、ユノー」
「誰のせいだと? 急に忙しくなるんだけど」
「その割には嬉しそうじゃん」
「まあ、そりゃあね……リゼとまたバディが組めるとは思わなかったし」
「それは私もだよ。まあ、絶対組んでもらおうとは思ってたけど」
「久しぶりに本気で体動かさないといけなくなりそうだから、ちょっと訓練付き合ってくれるよね?」
「もちろんいいよ、私も久々に連携の確認したいし」
「それじゃ、しばらくダンジョンに潜る?」
「そうだね、それが一番……いや、確か一週間後に闘技場でバディのトーナメントが開かれるはずだよ」
「確かに対人戦だと幾分感じが違うからなー。よし、じゃあその大会に出ようか」
「それまで鈍りきったその戦闘スキルを私が鍛え直してあげよーう!」
「君も君であの武器は使ってないんじゃないの? ちなみに俺はよく使ってたよ」
「げ、私のほうが鍛え直されちゃうかも…」
このギルドに所属してからの最初の任務は、自分の失敗を生産することから始まるみたいだ。
ちょうどいい。ここでリセットして心置きなく「売れない武器職人」とおさらばすることにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます