ほぅら! 騎士団が襲撃かけてきた!
騎士団の人間が事実確認という名目で慌てて帰っていた日の夜。
アーセナルの第1分隊の長であるクレアは女性寮の自分の部屋にある人物を呼び出していた。
「……というわけで、君が推す武器屋はおそらくだが、ウチの御用達になると思う」
「そっか、よかった」
クレアの向かいに座るのはアーセナルの新星、リゼだ。
「これなら私がユノと会う時間ができるし、ユノの鍛冶屋としての評価も上がるし、一石二鳥だよね…」
その頬は緩みきっており、すでにユノと何を話すかをだらしなく考えていた。
「お前がクランの男たちと浮いた話の一つもないとは思っていたが、すでに好きな男がいたのだな」
「うん。私がここまで強くなれたのも、彼が私の才能を開花させてくれたおかげ」
「お前のその、完璧なレイピアの制御術をか?」
「それは副次的なもの。私がレイピアを捨てたくなくて、一緒にレベルも上げていっただけ」
「リゼ…それはすごいな。おそらく君が使うもう一つの武器スキルもレイピアと同程度なのだろう? 想像を絶する努力が必要だ」
「まあね。がんばったよ」
「さて、このまま騎士団が大人しくしてくれればいいんだが」
「それはないでしょ。だってユノの武器を安く売りさばいてたんでしょ? それが出来なくなったうえに、国に報告されるなんて騎士団は解散だよ」
「一か八か、ユノ君を誘拐、監禁して武器を造らせ続けるとかありえそうだな」
「ねえクレア、あなたも明日ユノのお店に行くんでしょ? 私もついて行ってもいい?」
「いや、大人数で来ると騎士団も警戒して動かないだろう。私だけで行く」
「そんなぁ…」
リゼが不服そうに肩を落とす。
「……だが、お前は明日、特に任務もないはずだ。たまたまユノの店に来た時に私がいるかもしれないな」
「……そうかもね! じゃあ私、明日の準備とかあるからおやすみ!」
リゼはぱあっと顔を明るくして部屋から出ていった。
「……あれほどまでにリゼが惚れ込むものなのか…」
クレアのつぶやきが誰もいなくなった部屋に響いた。
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【リゼ視点】
「いらっしゃいませー……って、リゼか」
翌日、私はユノの武器屋を訪れていた。
「もーう、お客様は神様でしょ? もう少し歓迎してよ」
「君に関してはお客じゃないよ」
「じゃあなんなの?」
「相棒」
……まったく、今は別にバディ組んでないのに。
「じゃあ相棒割引してね。はい、このレイピアの修繕お願い」
「ご依頼ありがとう。君が修繕を依頼した最初の相手だよ」
「それじゃ割引お願いね」
「当店は元が安いのでそのようなサービスは受け付けておりません」
「このレイピアに免じて!」
「君は自分の武器を割引券だと思ってるのか?」
「少なくともユノに対しては譲歩を得られると思ってる」
ユノが打ってくれた『エバーブライト』をユノが丁寧に持ち運ぶ。
「はいよ。じゃあしばらくお待ち下さい」
ユノが店の奥に引っ込んだので、私は店内においてある武器を見て回る。
「この滑らかさ。1年の間で腕を上げたね。ユノ」
昔、ユノが『一流の武器は素人でも触っただけで違いがわかる』と言っていたが、ユノももうその意気に達しているんじゃないだろうか。
「ねえユノ! ここにある武器って振ってもいいの!?」
「店壊さないでよ! あと武器も!」
私が大きな声で呼びかけると、奥から了承の声が聞こえてきたので遠慮なく素振りをすることにする。
ただし、店の外で。持ち逃げなんてしないのはわかりきってるだろうし、ユノも許してくれるだろう。
「セイッ」
剣を振れば、風を切る音がビュンと私の耳を撫でる。
片手剣直剣のスキルは鍛えてないけど、剣を振るのは気持ちがいい。
「……あれ、思ったよりも早く来たね」
しばらく素振りをしていると、周囲に10ほどの気配を察知した。
明らかに話し合いをするための雰囲気ではない。
そのうち、一人の騎士が店にやってきた。
「失礼、ここの店の主であるユノ・アスフェルトはいるか?」
「ええ、はい今は店の奥で、武器の修繕をしてもらってます」
私がそう答えると、騎士は店の中に入っていって大声で叫んだ。
「ユノ・アスフェルト! 貴様には虚偽申請や脱税などいくつかの罪が問われている! 今すぐに出てこい!」
「…は?」
……まさかのありもしない罪をでっち上げて拘束する気? 証拠の捏造を防止するために検挙した騎士団とは別の騎士団が調べることになっているからできそうには思えないけど。
いや、脱税とかの証拠をユノになすりつける気なのかな? とりあえずユノを捕まえて、そこからお店に証拠を置いていくみたいな?
騎士がお店に入ってまもなく、周囲にいた9人の騎士が店の出入口を取り囲む。
「うわーやめろー、おれはなにもしてないー、おうぼうだー!」
しばらくして首根っこを引きづられながら棒読みのセリフを吐いてユノがやってくる。
「何してんのユノ。犯罪なんかして」
「リゼー、たすけてくれー」
「クレアがまだ来てないけど」
「騎士さ〜ん。そこにいるの俺の学院時代の親友なんです。せめて最後に言葉をかわしてもいいですか?」
「もう話してるよな? …まあいい、5分やるから、それまでにしっかりとお別れを告げろ」
そう言われるとユノは開放されて私の方に歩み寄る。
「……それで、援軍とか来ないの?」
「一応クレアがこういう自体になったときのために行くって言ってたんだけど」
私は一応周囲を見回してみる。
「来て…ないね」
ユノもそう呟いた。
「これって暴れても問題にならないかな?」
「一応冤罪とはいえ容疑かけられてるし、クレアが来るまでは止めた方がいいと思う」
「どのくらいに来るか分かる?」
「今から連絡すれば5分もせずに来ると思うけど」
「なるほどね。じゃあもう少し時間を伸ばそうか」
そう言うと、ユノは騎士に向かってお願いをする。周囲の騎士たちは動いた悠乃に注目した。
「すみません。彼女から聞いたと思うんですけど、彼女の武器の修繕をしてたんです。工房の奥の方に布で包まれた彼女のレイピアがあると思うので、持ってきてくれませんか?」
「分かった。おい! 誰か一人、工房の奥にあるレイピアを持って来い!」
騎士がそう言っている間に、私は通信魔法でクレアへの連絡を済ませる。
『すぐに向かう』
と返ってきたので、安心して成り行きを見守ることにした。
「これで間違いないですか?」
工房から出てきた騎士が私のエバーブライトを持ってくる。
「ああ、それです」
「よかった」
私は布を取って状態を確認する。
「一応一通りは終わらせといた」
「ん、ありがとう」
少し褪せていた刀身が輝きを取り戻している。
「見事なレイピアですね。どなたがお作りに?」
持ってきてくれた騎士がしげしげとレイピアを見つめる。
「そこの彼が誕生祝に学院時代に打ってくれたんですよ。学院の深層ダンジョンに乗り込んで」
「ほお…」
そう言って騎士の男は別の騎士に事情を聞かれているユノの方をまじまじと見つめる。
「実を言うと……あの青年が犯罪者だとは俺は思えないんです」
「へえ…どうして?」
「ここだけの話ですが…」
騎士が声を潜めて私に言う。
「どうにも昨日騎士団の中で怪しい動きがあったので。何やら夜になっても多くの騎士たちが騒がしく……」
「そうだったんだ」
「というわけで、今回の逮捕には少し納得のいってない部分も多いのです。なので抵抗すると思ったのですが……あれほど落ち着いているとは」
「ユノはいつも冷静沈着だからね。慌てるのは…女性関連の問題だけかな?」
「そうなんですか……たしかに、モテそうですよね」
「うん、一番やばかったのは精霊の国に行った時かな。危うく世界樹の伴侶になるところだった」
「そ、そうなんですね」
驚きながらも、騎士は半分冗談だと思っているのか半笑いのままだ。
「さて……そろそろ、かな」
私は時計を見て時刻を確認する。
「…? 何がでしょうか?」
「親切な騎士君にアドバイス。……すぐに離れた方がいいよ」
「えっ――」
その瞬間、ユノの店の前に隕石が着弾した。
砂煙が巻き起こる。
「な、なんだっ!?」
いや、隕石じゃなかった。
砂煙が晴れて、一人の女性が姿を現す。
「ユノ! 大丈夫だったか!?」
「こんにちはクレアさん。あなたが来るのを待ってたんです」
「さ、騎士君は離れな。ここから先はユノが暴れるからさ」
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