第24話 金曜日の夜は。
「カレー美味しかった~」
僕はお腹パンパンになった腹を隠さずに、ソファーに座りながらそう言った。
すると真弓さんが、キッチンから可愛い笑顔を浮かべて、
「お粗末様です」
「いえ、全然、粗末なんかじゃないです。
ホント、美味しかったです」
「あらあら~♪」
「二日続けてカレーになるとは思わなかったけどね。
お母さん、和樹さんに負けじと?」
右のソファーに寝そべる真矢ちゃんがニタニタ笑いながら言うと、
「ふふふ~、そういうことですよ。
今日は仕事が早上がりの日だったので、負けてたまるか! ってな感じで作ってみました!」
「負けましたー! へへー」
大げさに言い笑いを誘うと、
「そんなにへりくだられると笑っちゃうじゃないですか、ふふふ」
真弓さんが桜のような可愛い笑みを浮かべてくれる。
「いやいや、真弓さん、ホント料理上手ですよね。
僕なんか、自己流で」
「いえいえ、和樹さんの料理もホント美味しくて、負けてられないぞー! って美味しくて健康な食事を提供している社長として意地にさせる程ですよ」
「いやいやいや」
「いえいえいえ」
「いやいやいや」
「いえいえいえ」
二人でそんな会話を楽しんでしまう。
「料理出来る女の人、好きなんだ」
そんな僕等に不機嫌だと真矢ちゃんがそう突っ込んでくる。
「好き嫌いの二択で言えば好きだけど、出来なくてもそれは好きになる要素の一つであって、他の点でも加味して全体的にみるよ?」
「ふーん」
そうつっけんどんな真矢ちゃんはその言葉に半信半疑のようだ。
「あと、真矢ちゃんと仲良くしてくださってありがとうございます。
これは言っとかなきゃなって」
「ぇっと?」
「いつの間にか、名前で呼ばれてるじゃないですか?
最初はおじさんだったのに、今では名前呼び。
ちゃんと、真矢ちゃんとも仲良くしてくれてるから嬉しいんですよ」
そういえば、真矢ちゃんはあの告白の日から、僕の事を名前呼びし続けている。それに仲の良い関係を構築しているのも事実だ。
それが、実は真弓さんと比べてることは知らない筈だと、後ろめたい気持ちにはなるが。
「パパって呼んでもいいんだぞ」
「いや、和樹さんは和樹さんだもん」
っと、牽制球を放っておくと真矢ちゃんがそれを回避してくる。
親娘エンドは現状に無いと否定されてしまった。
「ふふ、本当に仲が良くて嫉妬しちゃいますよ」
っと、ここで真弓さんが洗い物などの片づけが終わったのか、僕の隣にポフンと座ってくる。
「でも、真矢ちゃん。
和樹さんは私のですからね?」
っと、ニコニコと笑みを真矢ちゃんに向ける真弓さん。
「なにをいってるの、お母さん……」
真矢ちゃんの目線が真弓さんからそれた。
「何となく?
そう言っておかないといけない気がしただけですよ?」
さすがに舞台慣れしている真矢ちゃんだ。
一部の怪しい点もなく切り返れた真弓さんが困り顔になった。
しかし、
「どうして、まだお風呂に入っていない筈の真矢ちゃんから、シャンプーの匂いがするのか気になったんですけどね」
なんだろう、真弓さんの後ろからメラメラと炎が沸いているような気がする。
「背中洗ってあげたの、水着で。
パパが居たら出来たであろうことをやってみたの。
家族へのあこがれよ」
嘘をついてもどうにもならない状況、だからと真矢ちゃんは正直におきたことの事実を話す。動機以外は嘘では無い。
「なるほど、それは私のごめんなさいですね」
受けて真弓さんが折れる。
フォローをいれようと僕が言う。
「それなら真弓さんが悪いわけでも……」
「いえいえ、ちゃんとした人とその後、交際しなかったせいでどんだけ真矢ちゃんに迷惑かけたのかは判っているつもりです。
だから、和樹さんの言葉で自立しようと子役デビューしたことも知ってます。
私が悪いんです」
真弓さんが、自虐的に笑みを浮かべると、
「お母さんは……悪くないわよ……。
私そっちの気で、男の人と遊んでいたことは反省してくれてるみたいだし?」
っと、真矢ちゃんが付け加える。
「真矢ちゃん……」
一息溜めて、
「……まやちゃああああああああん!」
「あああ、暑苦しい!
お母さん! 離れて、邪魔!
くっつかないで!」
娘に飛び込んでいく母親の図。
嫌そうにしながらも本気で否定していないのが真矢ちゃんの否定具合から判る。
何だか娘と母のこじれが解決した気がした。
「どうだい、こんだけ娘思いの母親を持って」
「悪くは無いわね」
真弓さんをどかした真矢ちゃんに聞いてみたら、嬉しそうな笑顔を浮かべてきた。
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