第9話 お昼ご飯は。

 唐揚げは中華料理にも通ずる。

 これは僕の持論である。同意は求めていない。


「さてさて」


 先ず、調味料を用意する。基本的に中華では、調味料を混ぜ合わせて起きタレを先に作るのが基本だ。

 ショウガ 1欠片をすりおろし。チューブでも代用可能。

 ニンニク 1欠片をすりおろし。チューブでも代用可能。

 オイスターソース、小さじ一杯。

 紹興酒、大さじ一杯。

 醤油、大さじ一杯。

 砂糖、小さじ一杯。

 これらを上から順に入れ、混ぜ合わせる。


「卵と……」


 割り、軽く10回ほど混ぜる。

 ここで混ぜすぎるのは良くない。

 何故ならば、黄身と白味が混ざりすぎるからだ。


「次に鶏肉だ……!」

 

 鶏肉もも肉を二枚洗い、一口大に切る。

 ここで余計な筋を切ってあげると良い。

 それを終えると先ほど作った調味料と鶏肉を混ぜ、十分間放置だ。

 その間にコーンスターチと強力粉を混ぜ合わせたミックス粉を作り、鍋にたっぷりの油を入れてコンロに置いておく。


「これがカリカリになるコツっと」

 

 鶏肉に溶き卵を吸わせるように揉むこむ。

 終わったらミックス粉を混ぜ合わせ、粉気が無くなるまでよく混ぜる。

 油が百六十度まで熱せられたら、鶏肉を入れる。


「ここで重要なのは七割火を通せばいい……!」

 

 鶏肉をバットに引き上げて、余熱で中に火を通す。

 その間に油を加熱し百八十度まで上げる。


「二度揚げ!」

 

 そう二度揚げだ。

 鶏肉を再び、油の中に投下し、更に強火で熱する。

 これによりさっくり感が増すのだ!


「今だ!」


 表面が唐揚げ色に上がったら引き上げて油をきって完成だ。

 うまいぞー!


「さて付け合わせに、簡単なスープを鶏がらスープの素と卵で作って……っと」

 

 更に作っておいた春雨とハムと胡瓜のサラダを冷蔵庫から取り出す。

 これは簡単だ。

 先ず、調味料は以下の通りのモノを混ぜ合わせて作っておく。

 ごま油、大さじ一杯。

 醤油、大さじ一杯。

 黒酢、大さじ一杯。

 砂糖、小さじ一杯。

 湯がいた春雨を冷水にさらし、水分を飛ばす。

 切ったハムと胡瓜を春雨と調味料を混ぜ合わせる。

 最後に小皿に分けてすりごまをちらして完成だ。


「うわ、凄いですね~♡」


 並べられた品を観て、真弓さんが驚きを示してくれる。


「中華唐揚げとサラダです。

 熱いうちにお食べ下さい、お嬢様」

「あははー、お嬢様はやめてくださいよ~。

 さて唐揚げから……!」


 サクッと言う音がリビング中に響き渡った。


「お、おいしい……!

 普通の唐揚げと違って、オイスターソースやニンニクが利いていて食欲が増してきますね!

 あぁ、この付け合わせのサラダも丁度いい」

「ご飯も炊いたんでどうぞ」


 っと、ほっかほっかの白い飯を渡す。

 すると真弓さんは奪い取るように受け取ると、ハクハクモグモグと唐揚げとサラダと白米のループを始める。


「結構、食べられる方なんですね。

 お会いした時から会食は量より質のお高い店ばかりでしたから新鮮に見えます」

「あ……そういう人はダメですか?」

「いえ、全然。

 逆に僕の料理をそんなに喜んで食べて貰えて嬉しいです。

 何というか、心の中がほっこりするような、嬉しいというよりは、満足感が凄いです」


 うんうん、と僕は自分の過去、ルームメートが居た時に食事を作っていたことを思い出しつつ、今もそれは変わらないなと自覚しながらそう言った。

 アイツの場合は食べすぎだが。


「私、結構、食べる方なので……男の人にたまに引かれちゃうんですよ」

「そりゃ引く方が悪いと思いますよ。不健康じゃないかって。

 でも、僕はちゃんと美味しそうに食べてくれる人の方が好きですから」


 正直に感想を述べると、真弓さんの箸がカンカラカンと床に落ちた。

 あれ、マズい事言ったかなと思ったら、


「す、好きって……」


 頬を赤らめて、両手で手元を抑えてくれていた。


「あ、好ましいっていう意味です。

 愛してるとかそういう意味ではないですよ⁈

 だから、大丈夫です、大丈夫です、はい」

「そ、そうですよね、ライクですよね⁈

 ラブじゃないですよね⁈」


 三十六歳が二人で慌てて何をやっているのだろうか。

 傍からそう見えるだろうが、少なくとも僕は恋愛経験は豊富ではない。

 ここでラブですと言って、篭絡するようなことは出来ない。


「あはは、何言ってるんでしょうね、僕」

「あはは、驚かせないでくださいよー、本気にしちゃいますよー♡」


 その点、あっちの方が上手だ。

 冗談で空気を上塗りしてきてくれる。


「まだまだありますので、どんどん食べて下さい。

 僕も食べますので」

「遠慮なく、ハグハグハグ♡」


 そして、四百グラムはあった鶏もも肉が消えてしまう。

 少し余るように見積もっていたので、ちょっと計算外だ。


「そういえば、お仕事、土日休みは難しんですよね?」

「ぇえ、代わりが居ないんで。

 今日、昨日やデート日は有給取れたんですけど……、さすがに不動産業なので水木休みを動かせなくてすみません」

「いいえ、私の方こそ、土日祝以外はどうしても休めないですからねぇ。

 三社も経営していると、どうしても暇が組めなくて」

「お互い祝日休みなのが救いですけどね」

「ふふ、そうですね。

 経理と総務を担当されているなら私の会社に来ます?」

「社長に恩があるので。

 拾ってもらって、経理、総務、労務どころか、物件管理まで任せてくれて、宅建取った時なんかもお祝いを貰ったりとか……給与は営業に比べたら安いですけど、それなりですし」

「普通だったらもう二倍は給与出しても良いと思うんですけどね。

 あ、経営者目線です。これ」


 と、真弓さんが凛々しい目線になって僕に言う。

 いつもの可愛いとのギャップが激しく、こんな顔もするんだな、美人だなぁ、と思ってしまう。


「前もお会いした時に申し上げたのですがその話はやめて下さい。

 本当に給与に関しては低いのは判ってるんで……」


 二回目に会った時に給与のことを聞かれた。

 そして業務内容を説明すると彼女はいきり立って、釣り合ってないと怒ってくれたのだ。

 それは有り難い話だが、僕にとっては恩返しの面が強いのでと、そこは理解頂いている。


「あ、すいません。

 人の働く意味は給与だけじゃないですしね。

 私がそうですし」


 そして彼女自身がそうだから、納得もしてくれている。

 正直、嬉しい話だ。


「でも、本当に働かなくてもいいんですよ?

 私が養えますし。

 それに今日の唐揚げみたいな料理で出迎えてくれたらそれはそれで嬉しいので♡」


 ぐいぐいと圧が強い。

 仲人さん曰く、男を支える力が強すぎて……っと、言葉を濁していたのはこういう所が強いからだろう。


「今後、進展があったら考えることにします」

「出来るだけ前向きにお願いします。

 ほんとーにそれほど、今日の料理、美味しかったので」

「ありがとうございます」

「いえいえ、ごちそうさまでした」


 さておき、食べ終えたモノを洗っていくことにするが、食洗器がある生活になれない。

 その僕の顔に悩みが浮かんでいたのか、うふふと、真弓さんに笑われてしまった。

 そんな真弓さんも可愛いと思う自分ではあったが、何故か唐揚げを残せなかったことが心残りになっていた。

 真矢ちゃんに食べて貰ったらどんな反応が返ってきたのだろうと。

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