第7話 御寝坊な真弓さん。
「んんっ……」
朝起きると知らない天井だった。
狭い、重苦しい木の天井ではなく、少し高めに作られた天井とお洒落な電灯が飾られている。
「ここは……」
思い返してようやくここが木原家であることを思い出す。
そう、自分が結婚を前提にお付き合いしている相手、真弓さんの家だ。
「ん……?」
ふにゃ。
大きく伸びをした後に下げた先、右手に柔らかな物体があることを確認する。
何だろうと思うと、
「真弓さんがなんでここで寝てるんだ……」
バスローブの上からその胸に手が当たったようだ。
「んっ♡」
つい揉んでしまうと、心地よい弾力と艶めかしい反応が返ってくる。
精神に悪い。
というか、朝立っているモノが健全になってしまう。
「してしまうのはダメだぞ」
朝の布団に入りこんだ事実を盾に、このまま押し倒しても筋は通るだろうが、それは何か違う気がする。
自分の真面目さがそうさせている。
そもそも彼女の身体を目当てなら昨日、してしまっている。
真矢ちゃんの言う通りなら夜のプロレスが出来てしまっただろう。
「おはようございます」
真弓さんの頬に手を当て、右耳に挨拶をする。
そうすると、三みたいな寝ぼけた眼で、
「おはよぅ、ございます……和樹さん……ぇ?」
「ようやく気付きましたか」
「ぇ、あ、ぇ?
なんで私のベッドに和樹さんが?!
寝ている所を⁈」
「よく見て下さい、僕の敷布団です」
「へ?」
彼女は変な声を出して、三六〇度を見渡すと、僕の掛布団を握ったまま端の方に逃げていき、
「申し訳ございませんでした」
とコクリと頭を縦に振る真弓さんが可愛い。
「寝ぼけてたみたいで……夜中にトイレに行ったことまでは覚えているんですが……」
「あぁ、なるほど。
可愛い所もあるんですね、真弓さん」
真弓さんが可愛いという言葉に、頬を赤らめてくれる。
悪く無い反応だなぁ、と思いつつ、会話を進めることにする。
「もしかして、一人は寂しかったりしました?」
「……意地悪です。
確かに私、人が居た方が安心するんですけど……」
ぷくーっと頬を膨らませる真弓さんも可愛らしい。
「おはよう、和樹さん!
……ってこれどういう状況?」
真矢が扉を開けて入ってくるや否や、僕と真弓さんを見比べて、
「まさか、お母さんを襲ったりなんか……してるわけないわよね。
お母さんが寝ぼけたんでしょ?
私の部屋に来ることもあるし」
「うん……ごめんなさい」
「なら、お母さん、自分の部屋に戻って寝直してきたら?
まだ朝も六時だから」
「そうするねぇ、ふあああ。
おやすみなさい、和樹さん、真弓」
と、戸の向こうに去っていく真弓さん。
「で、真矢ちゃん、なんでそんな恰好をしているんだい?」
僕が指さしたのはチアガール姿の真矢ちゃん。
エネルギッシュな金髪と衣装が良く似合っており、観るテレビの前のお客さんを喜ばせるには相違ないだろう。
ただ、朝に着る服装ではない。
「今日の撮影で着るんだけど、和樹に先に見て欲しくて。
フレーフレー和樹さんって。
でも、意外性はママに取られちゃったね、残念……」
俯き、悲しそうにする真矢ちゃん。
流石に可愛そうだと思い、
「いやでも、凄い似合ってるよ」
正直に褒める。
「ぇ、ホント?!
例えば、どんな風に?!」
「どんな風に言われるとまだパフォーマンスを観ていないから、それ前提で言うと――元気づけられそう。黄色い衣装と真矢ちゃんの金髪が良く似合って、華やかだしとてもいいと思うよ」
「ぐ、具体的過ぎて照れちゃう……あ、ありがとう。えへへ」
頬を赤らめる真矢ちゃんが頬を恥ずかしそうに右手でポリポリとかく。
さておき、
「所で真弓さんていつもあんな感じなのかい?」
「うん、夢遊病みたいな感じでたまーにだけど、布団に潜り込んでくる。
だからちゃんと鍵をしたほうがいいよ?」
っと言いながら、真矢ちゃんがドア鍵のロックアンロックの例を見せてくる。
――それなら真矢ちゃんも僕が寝ている間に入れないかっと、少し安心したのは内緒だ。
「さーて、私はそろそろでかけなきゃ。
今日は緑山だからちょっと遠いんだ」
っと真矢ちゃんは一旦、廊下に出て、
「あ、そうだ。
和樹さん」
戻ってきて、僕の前に座る。
そして両手を広げると、眼を閉じて何かを求めるような仕草をする。
「行ってきますのキスしてよー」
「そういう関係じゃないだろう、僕らはまだ……」
「それだったらママに朝のこと、誤解するように説明しちゃうもん」
脅迫だ。
とはいえ、それならば今後の安寧を考え仕方ないかと思い、
「今後は期待しないように」
一つ留意点を述べてから、彼女のハグを受け入れる。
彼女の金髪が僕を包み込みように甘い柑橘系の匂いと共に、刺激してくる、
「うん、わかった。
ちゅ♡」
軽い啄ばむようなキス。
柔らかいモノが僕の唇に押し付けられるだけのモノ。
それでも二度目だが、何というかパイナップルの味がした。
「私も元気出たし、頑張るぞー!」
そして、真矢ちゃんは出て行った。
初日の朝だというのに、何というか既に疲れた。
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