第15話 新の挑戦と疑問

「違う!!その公式は丸暗記しないと、応用は利かないの!!」


「えー…こんな暗号見たことねーよ…」


「Σ(シグマ)よ!教わったばかりでしょ!!篠原くんはいつも黒板の何処を見てるの!?」


「黒板?見てない」


「……」


もう呆れてものも言えない…とはこのことだ。復讐のつもりだったが、この男に勉強を教えると言うこと自体、自分への大きな負担だ。イライラするし、何度も同じことを聞くし、教えた側から忘れていく…。こうまでして、新を100位内にする価値などあっただろうか…、と何だか茉白はちぐはぐな気持ちになって来た。


「篠原くん、なんで勉強しないの?」


「ん?なんでって?」


「嫌いなの?苦手なの?」


「両方」


即答である。


「それじゃあ、聞くけど、水無月はなんで俺の勉強にこだわるんだよ。俺が部活停止になっても、水無月は困らないじゃん」


「……」


確かに…。そう思いながら、なんとか茉白はその理由を考えた。そして、導き出された、唯一の理由が、あった。


「なんでかなぁ…。しいて上げるなら、サッカーしてる篠原くんが生き生きとしてるからかな。それを取り上げるのは、勿体ない、って思うから」


「…へー…。なんで、俺のサッカー見てたの?」


「あぁ、それは…(ん?そう言えば…、なんでだろう?)」


無言になる茉白。その茉白の顔を覗き込む新。スッと、目が合った。その瞬間、茉白の鼓動が大きく鳴った。


「…そんなに、顔を覗き込まないで」


「あ、おう」


そう言うと、何にもなかったように、難しい顔をして、茉白のノートにまた新は目を落とす。新のその姿を見つめながら、茉白はなんだかおかしいな…と思った。これじゃあ、まるでサッカーをしていた新を目で追っていたことになる。なぜだ?何故なんだ?新の質問してくる声にも気付かず、茉白は1人、考え込んでしまう。


「なぁ!水無月!!」


「ん?なに?」


「何じゃねぇよ!!ここ!!わかんねぇ!!っつってんの!!」


その指さしたページを見て、茉白は本当に呆れた…。


「…それはΣ(シグマ)…」



*****



「なぁ、新、お前毎日部活の後、水無月に勉強見てもらってるんだって?」


「あぁ…。それな…。もうどうすれば良いやら…」


「何がだよ!赤点じゃなきゃ、夏休みの補習もなくなって、部活に集中出来んじゃん!」


「赤点とらない、程度なら良いんだよ!」


「は?何?他に条件でもあんの?」


「俺が…この大馬鹿な俺が…100位以内に入ることなんだよ―――!!!」


新が、悲痛な叫びをあげた。


「「それは無理だ」」


嘉津と武吉は、あっさり言った。


「そうなんだけど…」


「「諦めろ。新」」


2人は、最もな説得を試みる。


「でも…この条件をクリアしないと、俺、もう水無月の名前すら呼ばせてもらえないんだよ…」


「…困るのか?」


「ん?」


はて??と言ったように、新が首を傾げた。


「だって、一応今回勉強して、ダメだったら、それでまた考えればいいだろ。水無月の名前を呼べなくなるのがそんなに困るか?」


同じ馬鹿のくせに、武吉が核心をつく。


「そう…なのか?どうなんだ?でも、つい呼んじゃったら、1000円だぞ。うかうか教室にもいられない」


「良いじゃん。別に。2年になれば、クラス替えがある。水無月は、特別進学コースに進むに決まってるし、お前はどう考えても良くても、標準コースか、まぁ自然に考えて、補習コースだ。安心しろ。落第も、中退も、そのコースなら、何とかなる。この1年乗り切れば、サッカー部を低部になることもまぁ…無いだろう。お前、サッカー部ではフォワードのエースだし」


「……」


そうだな…俺は、一体何をそんなに焦っているんだ?そんなに…水無月にこだわって、何をどうしたいんだ?


回らない頭に、新は、答えを見出すことはその日には出来なかった。

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