昔助けた弱々スライムが最強スライムになって俺に懐く件
なるとし
第1話 ぷるんくん
「グワアアアア!!!!!」
まずった。
俺は今SSランクのダンジョンにいて、どうみても圧倒的に強いレッドドラゴンに命を狙われている。
数少ないSランクの大人の探索者たちがいっぱい集まってやっと倒せるようなレッドドラゴンに狙われているのだ。
俺のランクはF。
最弱である。
なぜこんな俺が最上位探索者をも恐るSSランクのダンジョンにきているかというと……
『え?臼倉くんってSSランクのダンジョンに行ったことある?』
先生がダンジョンの授業で遊び半分で「いないとは思うけどSSランクのダンジョンに行ったことある人いる?」みたいな感じで質問をしてきた。
なので、俺は手を上げて「はい」と言ったら、俺をいじめる葛西のグループが爆笑した。
そして授業が終わると、葛西のグループは
『おいくっそ弱いくせに、何虚栄はってんだ?』
金髪のいかにも陽キャっぽい葛西のやつが俺の席にやってきて嘲笑いながら見下すような感じで聞いてきた。
普段の虐められっ子の俺なら泣き寝入りするはずだが、あの時の俺は一歩も引かなかった。
『俺……本当に行ったことあるから……虚栄とかじゃないし……』
でも、奴らは当然俺のいうことなんか信じてくれるはずもなく
『おい、臼倉。何偉そうに口聞いてんだ?最弱のFランク風情が調子に乗ってんじゃねーよ。大人の強い探索者も尻尾巻いて逃げるのがSSランクのダンジョンだ。あそこはあまりにも強いモンスターが多すぎるから日本ダンジョン協会も調査できずにいるんだよ。そんなところにお前が行ったって?あはは!寝言はお前の母さんにでも言っとけよ。あ、お前母さんいないだったな。あはははは!!!!』
俺の尊厳を踏み躙る発言を連発する葛西。
悔しかった。
別に俺の人格を貶すのは構わない。
でも、
あの思い出をなかったと決めつけるやつの物言いには陰キャの俺でもカッとくるものがある。
『俺、行ったことある!』
俺は初めて葛西を睨んで敵意を露わにした。
だが、
彼は俺を蹴り上げて、倒れた俺に耳打ちした。
『つけあがるな。パシリはパシリらしく底辺人生を歩めばいい』
俺は反撃することができなかった。
やつは俺より遥かに強い。
雷属性の持ち主で、金持ちだ。
貧乏すぎる俺とは住む次元が違う。
教育熱心の両親によってこの名門校に入学できたが、もうお父さんとお母はこの世の人ではない。
事故で死んでしまったのだ。
全てにおいて葛西の方が遥かに上だ。
でも、
あの思い出だけは譲れない。
『俺、行ったことある』
諦めの悪い俺に閉口した葛西はため息をついて言う。
『じゃもう一度行って動画でも撮ってこいよ。できんだろう?臆病者のお前には何もできないんだよ。現実をしれ。クソが』
悔しがっている俺。
そこへ、女の子の声が聞こえてくる。
『葛西くん、いい加減にしなさい!』
いつも俺を助けてくれる秋月花凛だ。
彼女は秋月グループの令嬢で、この名門校におけるマドンナ的存在である。
そんな彼女を見て葛西は俺から下がり、秋山さんの豊満な胸を見ながら口を開いた。
『花凛もこのクズを庇うのもうやめたら?こんなやつなんかに優しくする時間があれば、俺と一緒にダンジョンでも行かない?俺、強いからDランクのダンジョンもいけるぜ!花凛はモンスターから取れるアイテムに興味あるだろ?俺と一緒に行けば全部花凛のものでいいからな〜』
葛西はにやけると、葛西グループの男ともだちが「へえ〜やるじゃん」とか「秋月の胸見てんのバレバレだぞ」とジョークを飛ばしてきた。
本当に最悪だ。
葛西の言動もそうだが、学校一のマドンナに助けられながら何もできない俺が惨めすぎる。
だから俺は言ったのだ。
『SSランクのダンジョンに行って、動画撮ってくればいいだろ?』
そんな俺に葛西は
『やってみろよ。でも、死んだら自己責任な〜』
俺を思いっきり馬鹿にするような表情でそう言っていた。
秋月さんは行かないように俺を引き止めてくれたが、俺は放課後になった途端に古いママチャリを必死に漕いてSSランクのダンジョンの中に向かった。
そして、見事に
レッドドラゴンに命を狙われている。
「……」
20メートルは軽く超えそうな巨大な体は俺を圧倒しており、火を含む口の熱気は俺なんか軽く焼き殺すほど赤い。
爪は如何なる鋼鉄より硬いようで、あんな尖った爪に引っかけられたら即死だろう。
鱗に至っては現代兵器を打ち込んでも傷一つ与えられないほど丈夫そうだ。
やっぱり来るんじゃなかった。
このまま死んでしまうのか。
葛西グループに散々虐められて、何も仕返しできずにここでくたばるというのか?
悔しい。
いや、
むしろラッキーかもしれない。
こんな人生を送り続けるより死んだ方がマシだろう。
父さんと母さんが死んで、遺産は全部伯父さんが後見人という形で持って行った。
でも、ろくにお金を送ってくれない。
文句を言ったら、逆ギレされて俺のせいにしてただでさえ少ない仕送りが半分に減る。
おかげで俺は学校が終わればバイトすることが多い。
家賃は滞納して、水道水も電気代も数ヶ月分払ってない。今すぐ部屋を追い出されても文句言えない。
なのに葛西の連中は菓子パンと飲み物を買ってこいと10円だけを俺に与える。
てめえら金持ちなのに10円は酷くないか。
せめて100円にしろよ。
本当に俺って人生真っ黒だな。
まだ高校2年生だというのに、こんな辛い人生を味わい続けるなら、ここで両親のいるところへ行った方がいいかもしれない。
どうせ、俺が死んでも悲しむ人は一人も存在しない。
「……」
秋月さんも、俺のこと面倒臭い存在だと思っているに違いない。
一つ心残りがあるとするならば、
昔の思い出。
俺は悔しそうに唇を噛み締めた。
レッドドラゴンはそんな俺を見て舌なめずりをしながら近寄ってきた。
やつの足音は俺の死を告げているようにだんだん大きくなっていく。
やがて
「グアアアアアアア!!!!!」
レッドドラゴンは火を放ちながら尖った爪で俺を攻撃しようとする。
「終わりか……」
俺が諦念めいた顔で息をつくと、
目の前に黄色いスライムが現れた。
そしてそのスライムは巨大なレッドドラゴンを睨んだ。
すると、スライムの体が光だし、レッドドラゴンの上から雲ができた。
やがて、その雲からはけたたましい雷の音が聞こえながら大きな稲妻が落ちた。
もろにそれを食らったレッドドラゴンは砂埃を巻き上げながら倒れた。
微動だにしないレッドドラゴン。
誰が見ても死んだことがわかる。
俺はさっきの凄まじい威力の雷と稲妻によって足がガクガク震えてきた。
身震いしながらこの物々しい光景を見ていると、足の辺りに柔らかい感触が伝わってきた。
「っ!」
俺はびっくりしながら下を向けると、そこには
レッドドラゴンを倒した黄色いスライムがいた。
「ぷるん!」
40センチほどの黄色いスライムは、ぷるんと自分の身を一回揺らして俺をまっすぐ見つめてきた。
点のような目が二つ、目の上には線のような眉毛っぽいのが「\ /」みたいな感じになっており、強い印象を与えている。
それに、左目の横には傷跡なのか、十字傷が刻まれている。
なんかとても強そうなスライムのようだ。
「ぷるん!ぷるん!」
黄色い強そうなスライムは2回も自分の体を力強く揺らして目をキラキラさせながらまた俺を見つめてきた。
「……」
俺は小首を傾げてそのスライムをじっと見ていると、ある可能性に気がついた。
あのスライムから「\ /」の眉毛っぽいものと十字傷を消したら、完全に似ている。
俺は恐る恐る訊ねる。
「お前、もしかして……ぷるんくん?」
俺の問い目の前のスライムくんは
「ぷるん!!!!!」
また身を大きく振るい、俺の方に飛び込んできた。
この柔らかい感触。
間違いない。
この子はぷるんくんだ。
昔の思い出が蘇ってきた。
追記
体の調子が良くなかったので、しばらく執筆ができずにいました。
新作です
よろしくお願いします
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