第2話 水原舞花はファンタジーVRMMO『アウローラの錬金術師』にログインし、マイカ・アウローラとして目覚める 

ファンタジーVRMMO『アウローラの錬金術師』のゲーム機器が入った荷物が届いたのは3月21日の9:35だった。

午前中に届けてくれた宅配ドライバーさん、ありがとう……!!


ゲーム機器等が入った箱を私は、大喜びで二階の自室に向かう。嬉しい!!


階段を早足で上がり、二階の自室に入った私は、充電済みのゲーム機器とヘッドギアを箱から取り出した。

ゲーム機器とヘッドギアの電源を入れ、同梱されていた『アウローラの錬金術師』の会員証をヘットギアに読み込ませた後、ヘッドギアを身に着けてベッドに寝転がる。

さあ、ゲームを始めよう……!!


「ファンタジーVRMMO『アウローラの錬金術師』の世界にようこそ。データ確認中……。読み込み完了。目を閉じてください」


私は指示された通りに目を閉じる。


「プレイヤーが目を閉じたことを確認しました。次に目を開けたらあなたの錬金術師としての人生が始まります。それでは楽しいゲームライフをお送りください」


私が女主人公に設定したボイスと同じ声がそう言った直後、浮遊感がして、私は目を開けた。


……私、天蓋付きのベッドに寝ている。ファンタジー世界のお姫様が眠るような、このベッドを知っている。

『アウローラの錬金術師』の女主人公が最初に目覚める部屋にあるベッドだ。いろんなプレイヤーのプレイ動画で何度も見た。


ベッド、すごく寝心地が良くてびっくりする。リアルの自分の部屋のベッドと交換したい。……私の部屋に、こんな大きなベッドは入らないけど。


私はベッドの上で勢いをつけて起き上がる。ダークブラウンのショートブーツを履いたまま、ベッドに寝ていたみたい。

日本人の感覚としてはあり得ないよね。靴を脱がずにベッドに寝転がるって。

でもプレイ動画を見た記憶では『アウローラの錬金術師』の主人公が目覚めた時、皆、裸足ではなかった気がする。もしかして『裸足』のグラフィック差分が用意されてない……?


『チュートリアルを開始しますか?』


【選択肢】はい(初回プレイ時・推奨)/いいえ


いきなり目の前に選択肢が出た。

プレイ動画で見慣れた場面とはいえ、プレイヤーとして遭遇するとびっくりする。


この選択肢って称号コンプリートしたいプレイヤーにとっては罠なんだよね。

私は『アウローラの錬金術師』プレイするのが楽しみ過ぎて、何度も攻略情報サイトを見たからこの選択肢が罠だと知っている。


何のゲーム情報も持っていない普通のプレイヤーはチュートリアルを受ける。

プレイ動画を見たプレイヤーもチュートリアルを受けると思う。チュートリアルを受けるだけで祝福ポイントを貰えるから。


でも『アウローラの錬金術師』には『初回プレイ時のみ』取得可能な称号がある。

これ、めちゃくちゃ意地悪な仕様だよね。だって『初回プレイ』って最初に『アウローラの錬金術師』をプレイした時っていうことなんだよ。

『アウローラの錬金術師』の一周目プレイを終えて『ネタバレ解禁』って思って攻略情報サイトを見たプレイヤーは絶対に取得できない称号を作るなんて、おそろしいほど意地悪だと思う。


『チュートリアルを開始しますか?』の選択肢が絡む『初回プレイ時のみ』取得可能な称号は……。


称号名 説明を聞かないルーキー


獲得条件 初回プレイ時(初回プレイ時・推奨)の選択肢を全く選ばない


取得 祝福ポイント100獲得


この『説明を聞かないルーキー』を獲得したら、称号コンプリートもできるし、祝福ポイントも100貰えるからお得な気がするけど、でも、この称号を取得時、錬金に失敗すると主人公の叔母で錬金術師の師匠のレティシア・アウローラの友好度が激減する。

『説明を聞かないルーキー』獲得時のレティシア・アウローラの友好度が激減イベントは一回だけしか発生しないけど、一回でもう充分っていうくらい、師匠のレティシア・アウローラの友好度が激減する。私、プレイ動画で見た。


師匠との関係が悪くなると、錬金術師関連のクエストが進まなくなって、師匠の機嫌を取るために奔走しなくちゃいけなくなってしまう。

錬金術師クエストを放置して、迷宮に潜ってバトル三昧とかNPCとの恋愛特化で遊ぶ分には、特に問題無いんだけどね。


私は『アウローラの錬金術師』で称号コンプリートを頑張る気はないから『説明を聞かないルーキー』の称号を貰えなくてもいいかな。


『アウローラの錬金術師』で称号コンプリートをするためには、男主人公も女主人公も選択する必要があるし、恋愛対象も『異性』『同性』『恋愛しない』のすべてを選んでプレイしなくちゃいけない。

主要NPCだけじゃなくて、めちゃくちゃモブなNPCとの交流も重要だ。無理だ。


『選択肢を選んでください。選択肢をタップしてください』


『選択肢を選ばなかった場合、1分後に【はい(初回プレイ時・推奨)】を強制選択します』


考え事をしていたら、いつの間にか選択肢が時限式になってしまっていた。

選択肢を囲うように白い枠が出て、枠の色が白か赤に変わっていく。

このまま待っててもいいけど、選択肢【はい(初回プレイ時・推奨)】をタップした方が少しはゲームが早く進むよね。

私は選択肢【はい(初回プレイ時・推奨)】をタップした。チュートリアルの開始だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る