第28話 ヤンデレ覚醒

「な、なんで……八洲連合の祝総長がこんなところにいるんだよ……おかしいだろ……」


 浜田が顔を青くして、泡を吹きだしそうになりながら口を開く。


 まあわるならだいたい知ってるレジェンド的な人だからなぁ……。


「おい、こいつら全員つれてけ!」


 ポケットに手を突っ込んだまま、祝さんがヤバそうな人たちに顎をくいとあげながら声をかけると、浜田たちの口に布を当て、なにかを嗅がせたようだった。


「い、いやだぁーーっ!」

「なっ、なにをす――――」


 すると浜田たちはバタリと意識を失い、腕が一般人の太ももぐらいの太さの男たちが、ガムテで浜田たちの口を塞ぎ、手と足を結束バンドで結んだあと、ひょいと両肩に担いでミニバンのリアゲートを開けて乱暴に投げ込んでしまう。


 俺は慌てて、祝さんに訊ねた。


「祝さん! 浜田たちをどこへ?」

「経世お坊ちゃんは聞かないほうがいいです。この先は……」


 生家を追放された俺であっても紳士的に応対してくれる祝さんだったが、ヤバいことでも涼しい顔でやってのける人だ。


 時雨姉ちゃんのお気に入りとなった伊集院を傷物にしようとしたことで、浜田たちは完全に虎の緒の踏み抜いた形となってしまった。


 もはや門外漢の俺が祝さんを説得したところで聞き入れてもらえるはずもない……。こいつらがやってきたことがやってきたことだけに擁護ようごのしようもないのだけれど。


 ただひとつだけ懸念けねんがあるとすれば、浜田と江川は桜ちゃんが担任する生徒だってこと。


 俺は車へ戻ろうとする祝さんに頼んだ。


「桜ちゃんに災難が降りかからないよう頼むよ」

「わかりました。俺も寿の親父おやじには世話になったので」


 母さんの父さんで、俺の爺ちゃん……。


 それだけ言い残すと祝さんは俺にお辞儀をして、嵐のあとのように浜田たちを跡形もなく消し去って行ってしまった。



 すべてが片づいたあとに一緒に伊集院を探してくれていた水上が姿を現したのだが伊集院のはだけたブラウスを見て、なにかを察した水上は少し驚いている。


「うおっ!? おまえら学校で隠れてセックスしようとするとか、すげえな……」


 いや水上も校外学習のとき、俺を誘ってきたじゃないか。そう思いつつも俺はブラウスのはだけた伊集院を身体で隠すようにして、水上に弁解した。


「ちっ、違うって! これは不可抗力だから」

「鈴城くん、真莉愛にいいわけしなくてもいいよ、だって本当なんだもん」


 なに言ってんの!?


 いや、伊集院とのいい雰囲気に飲まれそうになったのは確かなんだけどさ。


「じゃあ、あたしも混ぜてもらうってのはどうかな?」

「「えっ!?」」

「3Pだ、3P!」


 なぜ二回言う?


 これはおかしい……夢か? 俺が伊集院や水上のような美少女二人から想いを寄せられるなんて。


「なにかあっちが騒がしいぞ!」

「なんだ、他校の殴りこみかよ?」


 そう思っているとさっきの祝さんが浜田たちを連れ去った騒ぎを聞きつけたのか、生徒たちの声が聞こえたので俺は二人を説得し、体育倉庫から立ち去った。



 水上にだけは事情を説明し納得してもらったが、浜田たちの悪行に対しいきどおり、伊集院が無事だったことをよろこんで抱きしめ合っていて、マジで尊い。


 水上と学校で別れたあと、あんな怖いことがあっただけに俺は伊集院を家まで送ることにしたのだが、その帰り道でいつも以上に甘えて来るような気がしてしまう。

 

「鈴城くんが私の初恋の人でよかった」

「俺もあの子が伊集院だったとは思わなかったな」


 伊集院は俺の腕にしがみついており、頭をすり寄せしあわせそうな顔をしていた。人目が気になってしまうが、怒る気にもなれずそのまま恋人ごっこにつき合う。


 昔、電車内で見た伊集院がぽっちゃりしているとは思ったが、とりたてて不細工だと感じていなかった。


 だが驚くばかりだ。


 高校でクラスメートになっていても、まったく気づかないくらいかわいくなっていたのだから。


「鈴城くん……うちに上がっていって」


 いつもなら断るところだが、伊集院のメンタルケアしなければならないだろうとか俺のなかで適当な理由をつけて、伊集院のお家にお邪魔していた。


 伊集院の住まいは、いかにもニュータウンといった感じの住宅街にある庭付き二階建ての一軒家で特別大きくもなく小さくもない。


 彼女は玄関のドアを開けるなり、「ただいま」と告げると女性のほがらかな声で「おかえり」と返ってきていた。


 伊集院に続いて靴を脱ぎ、お邪魔しますと彼女に言ってあがらしてもらうと、彼女はリビングのドアを開けて中にいる女性となにやら話し出す。


 浜田たちによってブラウスが傷んでしまっていたので、ジャージを着ていた伊集院に女性が理由を訊ねたが、休み時間に水がかかってしまったと誤魔化している。


 開いたドアの外の廊下で立ち聞きしていると、


「梨衣、また学校でいじめられているとかじゃないわよね? もしなにかあったら、言ってね」

「うん、ありがとう、お母さん……もう大丈夫だよ」


 話相手は伊集院の母親らしい。とりあえず、ごあいさつでもと思ったそのときだ。俺はリビングから出てきた伊集院に手を引かれ、彼女の母親に意図しない形で紹介されてしまう。


「お母さん、彼が言っていたクラスメートの鈴城くん。実は私の彼氏なの……」


 なっ!?


 いきなりまさかの親御さんに彼氏扱いの紹介!?


 だ、だが今日は許そう。甘やかそう。


 俺とて思うところはあるのだが、下手すれば浜田たちに襲われたことで、いま怒ったり、否定したりしたら、彼女はPTSD心的外傷後ストレス障害になってしまうかもしれない。それだけは絶対に避けなければ。


「まあっ!? 梨衣ったら。奥手だとばかり思っていたのに」


 お母さんは大きく口を手で覆って驚いている様子だったけど、落ち着くと頬を緩ませ目も優しく垂れ、どこか娘の初彼氏によろこんでいるようだった。


 俺は伊集院にはっきりと返事していないので、当たり触りのないごあいさつを彼女のお母さんにしていた。


「はじめまして、梨衣さんとは仲良くさせていただいてる鈴城経世と申します。美人なお母さんで梨衣さんのかわいさはお母さん譲りなのだと分かりました」


 決して社交辞令でない率直な感想を述べると、伊集院のお母さんは、「あらまあ、最近の若い子はお世辞もうまいのね」と口を押さえ手首を揺らしてうれしそうにしていた。


 伊集院と見比べると顔の各パーツはお母さん譲りで、伊集院を年相応に少しふくよかにした感じ。大きく違うのは髪型がポニーテールぐらいで、エプロンの胸の辺りがボリューミーなのも親子だと思わせるものだった。


 伊集院に案内され、学校よりも急な階段を上る途中、俺の先を歩く彼女のスカートの丈が短いために神々しい布地が見えそうになってしまい、どきが胸々していた。


 いやおパンツが見えなくとも伊集院の健康的な太ももは目に薬じゃなかった、目に毒で俺のズボンの前立てまで健康的にさせてしまう。


 ここで変に前屈みにでもなろうものなら、すぐに悟られてしまうなどとどうでもいいことを考えていると、伊集院は廊下の突き当たりの部屋のドアノブを握りながら言った。


「入って」

「ああ」


 女の子の部屋に入るときは、ものスゴくどきどきする。


 一見、女の子らしいパステル調のカーテンや寝具に彩られ、整理整頓が整い明るい印象の受ける部屋だった。


 だが伊集院の部屋はおかしい。


 太田の部屋なら萌えキャラの、玉田の部屋ならグラドルのポスターが壁に貼ってある。野郎と女の子を比べてはいけないのだが、伊集院の壁に貼られたポスターは俺の写真だった……。


 訊ねるのも怖いので、俺は見なかったことに記憶を改ざんしておく。


 ローテーブルを挟んで伊集院と対面しながら、クッション座布団に座ったのだが、横座りする伊集院の膝の辺りは赤くすれて、痛々しいことに気づいた。


 伊集院はすり傷に気を留めることなく、真剣な眼差しで俺に訊ねてくる。


「なんで鈴城くんはあのとき、私をかばってくれたの? 中学生の頃の私なんてなんの魅力もなかったのに……」


「理由はないな。強いて言えば、ただかわいそうだったから。男が女の子を助けるのに他に理由がいる?」


「いじめられて孤立していた私には、とてもうれしかった。また会いたいって思っていたの。あのときは、はっきり顔は見えなかったけど、やっぱり鈴城くんは私のキリトくんだった」


「俺は大したことしてないって。それよりも伊集院の方がすごいって。しっかり自己管理してかわいくなったんだから」


「私をいじめたり、無視した男の子たちを見返してやりたい、復讐してやりたいって思って、ゲームみたいに惚れさせて遊んでいたけど、私をかばってくれたキリトくんに綺麗になって会いたい、ずっとそう思ってたから努力できたの」


 ちょっと飲み物取ってくると伊集院は下へ降りていったあと、持ってきてくれたのが琥珀色の炭酸飲料だった。


「どうぞ」

「ありがたく、いただくよ」


 ゴクッ、ゴクッ!


 はぁ~、まさしくこの薬っぽい味は俺に翼を授けてくれそうな気がする。さすが俺のストーカー……好きなものまで把握されているとは恐れいるな。


「ふふっ、とっても強い私の鈴城キリトくんでも無警戒だなんて」


 あ、おっぱい大きい伊集院がいっぱいに見えてきたぁぁ……。


「こっちだよ」

「ああ、うん……」


 意識が朦朧もうろうとするなか、伊集院に肩を借りて立ち上がりベッドに腰かけぇぇぇ――――。



 あれ……?


 俺ここでなにしてんだろ?


 確か伊集院が出してくれたエナドリを飲んだら、景色がぐるぐる回って、ふらふらしてきたから彼女にベッドに寝かされて介抱されていたような気がするんだが、いつのまに俺の上に伊集院が跨がっていた。


 伊集院は俺が意識が朦朧としている間にもジャージからボタンのなくなったブラウスに着替えており、しかもノーブラになっている。


 広がらない!?


 手に違和感を覚えたので確認すると手錠がされており、思うように動かせない。辛うじて後ろ手にされてないことだけが救いだろう。


「これはなんでしょう?」

「!?」


 伊集院は手錠の鍵を俺に見せたあと、蠱惑こわくな笑みを浮かべるとおパンツのなかにしまいこんでしまう。


「私だけの鈴城くんとひとつになるんだぁぁ……」


 伊集院の瞳孔どうこうはまるでハートマークになってしまったかのように見え、表情はとろっとろに蕩けてしまっていた。


―――――――――――――――――――――――

ついに本気を出してきた梨衣。経世とドッキングを迫ってきましたよ。


浜田たちのざまぁが後回しになっちゃってごめんなさい。浜田たちの末路はきっちり書かせていただきます。ご期待の方はフォロー、ご評価お願いいたします。

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