第139話 どちらの声に従う?
現在、ギールは般若の面ではなく、迷宮森林や死の荒野使用していた仮面を身に付けており、外套も別の物を装備している。
そのため、冒険者の間で広まっている謎の仮面冒険者……本人だとは、ギリ思われなかった。
世の中には目立ちたいがためにそういった格好をする冒険者もいる。
ただ……冒険者たちはそんな一人の同業者がソロでここまで来たことに驚きを隠せず、自然と視線を集中させてしまう。
(……また声を掛けられるのは面倒だな)
何を思ったのか、ギールは崩牙と暴乱絶牙を抜剣し、地面に付き刺しす。
突然の行動ではあるものの……察しの良い冒険者は、それだけで謎の冒険者が自分たちに伝えたいメッセージを感じ取った。
自分は仲間を殺され、仕方なく地上に戻れる可能性が……ギリギリ高いボス潜に挑んだのではないと。
(しかし、あんな冒険者……いたか?)
悪霊魔宮という階層数が非常に多く、苦難は多いものの旨味も比例して大きい。
そんな冒険者が集まりやすい街に拠点を構えていても、外の情報はそれなりに……寧ろ、外から冒険者が多く来るため、特に動かずとも酒場に居るだけで様々な情報が集まってくる。
(ここまでソロで来たという事か、非常に高い戦力を持っていて、悪霊魔宮の探索に慣れている……いや、違うか。ダンジョン探索に慣れている、と考えるべきだな)
悪霊魔宮に何度もソロで潜っている冒険者であれば、必ず噂が耳に入る。
(ただ、あんな仮面を付けている者は……いる、か?)
敢えて仮面を付けて行動している実力者がいるのは知っている。
だが……ボス部屋前に並ぶ全員が、フラっと現れた仮面冒険者の特徴を一つも知らなかった。
(何も声を掛けられなくて助かったぜ~~。空気を読んで……こっちの意図を汲み取ってくれる冒険者がいるのは有難いな)
あれからギールは本当に同業者たちに声を掛けられることなく、五十階層ボス部屋に入室。
「久しぶりだな、お前ら……つっても、俺たちが戦った時とは別の個体だけどな」
五十階層のボスモンスターはアークデーモン、ペインデビル、二刀流のデュラハン。
全員がBランクのモンスターであり、
その点だけであれば迷宮森林の四十層と近い。
しかし……どちらのボスとも戦ったことがある挑戦者であれば、確実に悪霊魔宮の方が攻略困難だと断言する。
「っと、いきなりフレイムランス五連発かよ」
まず、アークデーモンという魔法に優れた悪魔がいる。
魔法に優れた……その点だけを切り取るとイメージとして細身という体型を思い浮かべてしまうが、アークデーモンの体は巨体も巨体。
人間という種族の中に巨人族という文字通りの巨人がいるが、そんな一般的な巨人族よりも二回りほど大きい。
防御力はその見た目に反しておらず、並みの攻撃では筋肉に阻まれてしまう。
「ジャッジャッジャ!!!!」
「悪魔なのに獣らしいとか、相変わらず恐ろしい、こって!!!」
ペインデビルはアークデーモンやガーゴイルナイトと同じく悪魔タイプのモンスターだが、まず腕が四本ある。
もうこの時点で厄介極まりない。
加えて再生機能がスキルではなく、特性として持っているいという鬼畜使用。
そして悪魔であるため……当然の様に属性魔法のスキルを持っており、攻撃魔法や防御魔法を使わないものの、拳や脚に纏って攻撃力を強化。
「ッ!!!!!」
「チッ! やっぱり……一番ぶっ飛ばしたいのは、お前だな!!!!」
最後にデュラハン……に関しては以前、死の迷宮のピラミッド内で討伐している。
ボスモンスターのデュラハンということもあって身体能力、魔力量は更に高い。
加えて……二刀流という、武器を使う人型モンスターであっても珍しいスタイル。
モンスターの腕力に無尽蔵のスタミナ……当時、今より実力が低いレオルだったとはいえ、聖剣技と聖剣を持つレオルが倒し切れず、結果として撤退を強いられた。
(お前は、絶対にぶった斬る!!!!!!)
当然、オルディ・パイプライブを発動。
縛りはスキルの使用が五つまで。
オルディ・パイプライブに意思はない。
そもそもスキルに意思などあるわけがなく……ただ、ギール(タレン)の本能が、戦闘勘が冷静に三体の実力を把握していた。
当然、真っ先に使用するのは身体強化と聖剣技。
(良いぞ……見える、見える!!!!)
当時のギール(タレン)は殆ど線しか見えず、それまで培ってきた勘のみでサポートを行っていた。
ヘラレスバイソンやアルヴァーレオンと戦い、勝利したギール(タレン)が見えない訳ないのだが……それでも、当時の記憶が今だ強く残っている本人からすれば、まさに自身の成長を感じる瞬間。
「シャッァアアアアアアアア!!!!!!!!」
気合たっぷり、エンジン全開。
疾風を使用して更に脚力を強化。
「っ!!!!!????? ギャッアアアァアアアアアアッ!!!!!!」
「知ってるよ!!!!!!」
飛んでくる拳二つを聖光を宿す剣閃で切断。
聖剣技に相手の再生を阻害する……なんて恐ろしい効果はないものの、斬られた部分に切断の痛みだけではなく、体の芯まで焼けるような強烈な痛みが追加される。
悪魔であるペインデビルにとってはまさに地獄の如き痛みではあるが、それだけで行動が不能になる怪物ではない。
既にそれを知っているギール(タレン)はアークデーモンが放つ烈火爆槍を回避しながら、迫るもう二つの拳を切断。
そして別方向から迫る剣戟を超ダッシュで躱し、再生される前にその首を切断。
「残り……二体!!!!」
興奮が止まらない。
体が熱くなるのを感じると同時に、冷静な自分が残っていると感じる。
今みたいな珍しく目に見えて超絶好調な状態の時、その感覚に身を委ね過ぎれば大きな失敗をしてしまう可能性が高いと知っている。
冷静な自分がもっと感覚だけで動くなと囁くが…………もう一人、その熱さを楽しんでいる自分が衝動に身を委ねろと叫び、冷静な自分の声をかき消す。
(さいっ、こうだッ!!!!!!!!)
結果、ギール(タレン)はその熱い衝動に身を預けた。
「次はお前だ!!!!!!!」
生まれながらにコンビネーションという概念が埋め込まれている行かせまいと動くが、ギールは突進のスキルを使用して無理矢理道をこじ開け、背後から迫るデュラハンの恐怖を感じることなく魔法の嵐に突っ込んだ。
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