第11話(4)真打ちは遅れてやってくる

「三人との戦いに気を取られて、わたくしへの注意や警戒が薄れましたね」


「まだ動けるとは……」


「正確には多少動けるようになった……という感じですかね」


「ふん、神器も含めた僕の力に敵うとでも?」


「三人のお陰で貴方の手の内は分かりましたから……」


 カンナが薙刀を構える。


「手の内が分かったところで……む⁉」


 ムツキが自分の周囲を見回す。白い煙が立ち込めていたからである。


「ふっ……」


「これは『発煙』か⁉ そんなことまで出来るとは……」


「もらった!」


「近づかせません!」


「む!」


 ムツキが勾玉を握りしめると、強風が吹く。煙も吹き飛び、ムツキは笑う。


「煙に紛れて接近しようとしたのでしょうが、そうはいきません……なに⁉」


 ムツキが目を疑う。自らの視界からカンナが消えたからである。


「ふん!」


 カンナがムツキの斜め下から現れる。


「! 下から! 『発掘』で穴を掘ったのか!」


「そういうことです!」


「ちっ!」


「!」


 ムツキが鏡を取り出す。雷が発せられ、カンナに直撃する。


「……急なことであまり加減は出来ませんでしたが、さすがに丸焦げにはなっていないでしょう……なっ⁉」


 一瞬目を瞑ったムツキがその目を開けると、カンナが自らにさらに接近し、薙刀を振りかざしているのが目に入った。カンナの薙刀には電気が走っている。


「隙有り!」


「電気……! 雷を『発電』に使ったのか! くっ!」


 ムツキが剣を抜き、カンナの振り下ろした薙刀を弾く。カンナは舌打ちする。


「ちぃ!」


「面倒です! 氷の剣で凍らせます!」


「くっ……」


 カンナが再び距離を取る。ムツキが再び笑う。


「ははっ、どうしたのです? せっかく距離を詰めたというのに……」


「……」


「多少離れたところで無駄ですよ。この剣の放つ冷気はその気になればこの玉座の間全体を覆うことだって出来るのですから……」


「………」


 カンナが薙刀を構え直す。ムツキが思い出したように頷く。


「そういえば、『発火』で火を起こせますね……ただ、あの程度の火でどうこう出来る冷気ではないというのは貴方も分かっているでしょう?」


「…………」


 沈黙を続けるカンナに対し、ムツキが肩をすくめる。


「やれやれ、無視ですか……まあ、最後は得意の技にすがりたくなるという気持ちは分からなくもないですが……それっ!」


「はあっ!」


「⁉ がはっ……」


 ムツキが剣を振るうとほぼ同時にカンナも薙刀を振るう。薙刀から炎が巻き起こる。その炎はムツキの放った冷気を吹き飛ばし、ムツキの半身を覆った。ムツキは倒れ込む。


「ふう……」


「ほ、炎……?」


「……『発炎』です。貴方は勝手に『発煙』と勘違いしてくれましたが……」


「さ、さきほどの煙は、その前段階だったのか……」


「そういうことです。多少準備が要るので……」


「そ、そんな技を隠し持っているとはね……」


「最後にすがるのは奥の手です。違いますか?」


「ふふっ……」


 ムツキが笑みを浮かべたまま黙る。カンナが淡々と呟く。


「冷気の影響もあって、炎は全身には回っていない……医者か治癒者を呼べば助かる……いや、助かってもらわなければ困ります……」


「なんだなんだ、ムツキの旦那、くたばっちまったのか?」


「⁉」


 カンナが振り返ると、黒く長い髪を一つにしばって背中に垂らした、大陸風の服を着た精悍な顔つきの男が立っている。腰の辺りには四つのひょうたんを垂らしている。男はもう一度ムツキの様子を確認する。


「いや、まだ息はあるか……なかなかしぶといねえ~」


「特別武術師範のフンミ……貴方も絡んでいましたか」


「ああ、一枚噛ませてもらった」


「何故です?」


「大陸からはるばる流れてきて、よく分からん肩書だけもらって満足できるかい?」


 フンミと呼ばれた男は大げさに両手を広げてみせる。


「陛下はどこの誰かとも分からない貴方に十分な待遇は与えてきたはず……!」


「どうせならトップに立ってやろうと思ってね。まあ、政やら面倒な部分はムツキの旦那に任せることになるけどよ……」


「そんなことは……させません!」


 カンナはフンミに薙刀を向ける。フンミが苦笑する。


「やめとけよ、元々の実力差もあるし、今の手負いのアンタじゃあ俺には勝てっこねえよ」


「やってみなければ分かりません!」


「その強気な態度、良いねえ……やっぱり決まりだな」


「決まり?」


「国を取った暁には、アンタには俺と夫婦になってもらおうかと思っていてな。民心を慰撫するにも実に効果的だ」


「か、勝手なことを!」


「許可を求めるようなことでもねえだろう?」


 顔をしかめるカンナに対し、フンミは肩をすくめる。カンナはフンミを睨む。


「貴方……!」


「怒っているねえ~こりゃあやっぱり一戦交えるしかねえか……」


 フンミはひょうたんを一つ取り、飲む。カンナが目を細める。


「なにを……?」


「……ひっく!」


「戦いの最中に酒を飲んだ⁉ 馬鹿にして! はああ!」


「せい!」


「がはっ……」


 飛びかかったカンナのみぞおちにフンミの拳がめり込む。フンミは口を拭いながら告げる。


「酔拳ってやつだよ……酔えば酔うほど、調子が良いんだ」


「ぐっ!」


「おっと!」


 カンナが薙刀を振るったため、フンミは後ろに飛んでかわす。カンナは腹を抑える。


「はあ、はあ……」


「繰り返しになるが、アンタじゃ勝ち目は無いと思うぜ? 大人しく……」


「嫁になるつもりなどありません!」


「仕方ねえなあ。もう少し続けるか。弱いものイジメみたいで嫌なんだが……」


「うおりゃあ!」


「はっ⁉」


 玉座の間の壁が壊れ、そこから銀髪の男が現れる。


「……強いものだったらいいんだな?」


 タイヘイがニヤリと笑う。

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