【第一章完】四国？五国で良いんじゃね？

第３話（１）記憶に関して

　　　　　　　　　　　　　　　　　　３

「ふむ……」

「タイヘイ殿……？」

「ん？」

「今更ですが、どちらに向かっているのですか？」

「北東」

「さ、ざっくりとしたお答えですね……」

　タイヘイの言葉に、モリコが困惑する。

「まあ、厳密に言うと……」

「ああ、良かった……」

「北東の林だな」

「厳密とは⁉」

　モリコが愕然とする。

「だって、そういう風にしか聞いてないからな～」

「で、出たとこ勝負過ぎませんか？」

「それは否定できないな……」

「否定して欲しかった……！」

「地図もあるぞ」

　タイヘイは地図を取り出して広げる。

「ああ、それは良かった、どの辺を目指しているのですか？」

「う～ん、この辺だな」

「え？」

「ほら、『この辺！』と書かれているだろう」

「ア、アバウト！」

「これに関しては地図を渡してきた爺さんに文句を言ってくれよ」

「な、なんてことなの……」

　モリコが頭を軽く抑える。

「俺についてきたことを後悔しているか？」

「若干ですが……」

「その感覚は正しいと思うぜ」

　タイヘイが笑う。

「しかしですね……」

「うん？」

「タイヘイ殿も空を飛べるのでは？」

「あ、ああ、まあな……」

「何故飛ばないのです？　その方が速いでしょう？」

　モリコが首を傾げる。

「あれはなんていうかその……燃料を食うからな」

「燃料？」

「要は長時間飛ぶことは出来ないってこったよ」

「そうなのですか？」

「実はちゃんと試してみたことはないんだけどな」

「あ、そ、そうなのですか……」

「肝心な時に燃料切れ！っていうのを避けたいと思ってな」

「なるほど……」

　モリコは腕を組んで頷く。

「そう言うモリコは飛んでいっても良かったんだぜ？」

「はい？」

「歩くのしんどいだろう？」

「い、いえ、たまには歩いたり走ったりするのも新鮮な感じがして良いですよ」

「そうか？」

「ええ、健康にも良いでしょうし」

「へえ、そうなのか？」

「いや、分かりませんけど」

「なんだよそれ、モリコも結構適当じゃねえか」

「ふふっ……」

「へへっ……」

　モリコとタイヘイは互いに笑い合う。やや間をおいて、モリコが真顔になる。

「……タイヘイ殿」

「あん？」

「質問してもよろしいですか？」

「なんだよ？」

「タイヘイ殿はどうして……そういう体に？」

「それがよ……」

「……はい」

「よく覚えてねえんだ」

「覚えてない？」

「気が付いたら、山の中にこの恰好で立っていてな……」

「そ、そんなことがあるのですか？」

「あるんだな～これが」

　タイヘイが腕を組んで苦笑する。

「なるほど……記憶喪失というわけですか」

「まあ、そういう感じだな」

「ご自身がどこからやって来たのかも覚えていないのですか？」

「ああ」

「そうですか……」

「ただ……」

「ただ？」

「自分が人と獣と妖と機のクオーターだっていうことは覚えていた。あと、この四国がそれぞれ四つの勢力に別れているっていうこともな」

「ほう……」

　モリコが頷く。

「まあ、それくらいなんだけどな」

　タイヘイが両手を広げて天を仰ぐ。

「……これからなにかのきっかけで思い出すかもしれませんよ」

「あ、そうか……」

「そうです」

「モリコ、なかなか良いことを言うな」

「恐縮です……」

　モリコが頭を下げる。

「別に頭を下げなくてもいいって」

「はっ……タイヘイ殿、もう一つ質問してもよろしいですか？」

「なんだ？」

「この四国にもう一つ国を造るということをおっしゃっていましたが……」

「ああ、言ったな」

「それはどこまで本気なのですか？」

「どこまでもなにも、一から十まで全部本気だぜ」

「なんと……」

「だって、それが俺に課せられた運命みたいなものなんだろう」

「！　運命……」

「うん、知らんけど。そう思うようにしているぜ」

「そうですか……」

「帰るんだったら今の内だぜ？」

　タイヘイが笑みを浮かべてモリコを見る。

「……いえ、タイヘイ殿に賭けてみようと思います」

「へっ、お前さん、なかなかのギャンブラーだな。ん⁉」

　タイヘイたちを小柄な鬼のようなものたちが取り囲む。その内の一体が叫ぶ。

「よそ者め！　痛い目みたくなかったら金目のものを置いていきな！」