小早川君ファンクラブ

@pandaningen777

第1話 その男と付き合ったら無事ではない

「小早川先輩ー! おはようございます!」

「おはよう」 

 窓から手を振る女子生徒に笑顔で答えるその少年は、美少年であった。白い肌、セピア色の髪とくっきりとした二重の瞳、細く繊細に整った鼻と、柔らかな孤を描く唇、彼を構成する全てが当に国宝であった。しかし。眼鏡の少女は彼を窓から見下ろし溜息を吐いた。

「カッコイイけど、歴代彼女達は全員悲惨な目にあっているんだよね。唯、本当に付き合うの?」

 唯、と呼ばれた背が高い少女はスクワットしながら頷いた。

「大丈夫!体鍛えてるから!」

「でも十四代目さんは骨折で入院してるよ?後遺症はないらしいけど……」

 眼鏡の少女とは反対側に立つ可愛らしい小柄な少女は困り眉で米を見上げるが、唯は今度はペットボトルでダンベル体操しながら答えた。

「大丈夫!泣きぼくろと首に傷があるイケメンじゃないし、体鍛えてるから!……あ!小夜ちゃん!」

「真田先輩、ちょっとよろしいでしょうか」

 教室にざわめきが起こる。皆の視線の先には、小早川そっくりの妖精のように美しい少女。彼女は水琴を奏でたような澄んだ声で唯を呼び出すと、屋上に連れて行った。

「兄と付き合うというのは本当でしょうか?」

「うん!小夜ちゃんもよろしくね!」

「噂の事は……」

「大丈夫!体鍛えてるから!」

 大きな美しい目を不安げに細める小夜に爽やかに答える唯だったが。突如背後から気配を感じた。唯は咄嗟に小夜に覆いかぶさった。

 唯と小夜がいた空間をフリスビーがスライスした。唯は震える小夜に声をかけた。

「大丈夫?」

「先輩……後ろ!」

 唯が振り返るとそこには、ショートカットで中性的な雰囲気の美少女がフリスビーを掴んで立っていた。

「私は小早川君ファンクラブ四天王鈴木紫!今すぐ小早川君と別れなさい!」

「絶対嫌です!」

「じゃあ勝負よ!放課後またここでね!」

紫はそういうと、走り去って行った。

「先輩……」

「仕方ない、戦うしかないんだね」

「どうしてそんなに兄を……」

「私が産まれた時から始まるけどいい?」

「無駄に長い話は嫌いです。先程はありがとうございました。では」

 そういうと小夜はスッと立ち上がって歩き出したが、くるりと唯を向いた。

「あ、あの唯先輩とお呼びしてもよろしいでしょうか」

「もちろん!嬉しいな!」

「で、では失礼いたします」

小夜は一瞬だけ微かに微笑むと、速足で去って行った。


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