第6話 さらに属性の詳しい話

「やっぱり光得意ってヒロインぽいよね」


 ミリアが話題を変えました。


「光と闇が得意な人は少ないからな。でも、いったい何の『ヒロイン』なのか。どうして闇じゃなく光なのかはよくわからんが?」


 サージェス副会長がそれに答えました。


「えっと、副会長は闇の方がお好きなのですか?」


 ミリアが逆に質問しました。


 ちょっとピントが外れているような気がしますが……。


「属性に好きも嫌いもないだろう。逆に君の光を持ち上げて闇を貶める言葉が奇妙に聞こえただけだが」

「うちのクラスじゃ、エミール様の婚約者のフェリシア・ブリステルだけが闇得意なんですよね」

「そうらしいな」

「え? なんで知ってるんですか? 新入生のクラスに興味津々なのですね」


 ミリアのつっこみと副会長の答えがいまいちかみ合ってないような……。


「はいはい、そこまで。たまにいるんだな。光の方が善で闇の方が悪であるかのように勘違いしているのが。これから学習していけばわかると思うが、属性はあくまで性質の違いだから、どっちがいいとか悪いとかいうのはないからね」


 サラ会長が仲裁しました。


 サージェス副会長を見ると心なしか頬が赤くなっています。


「まあ、サージェスが君たちのクラスに興味を持つのは仕方がないが、あまりからかうな」

 

 サラ会長が続けます。


 と、言うか、なんか今、すごく重要なことを聞いたような……。


「なんなの? 副会長がフェリシアに好意を持ってるのって公認?」


 さっき会長にいさめられたミリアがこっそり私に耳打ちしました。


 いいのですか、それって? 

 一応フェリシアの婚約者のエミール王子も部屋にいるんですけど……。


 でも、彼は涼しい顔で作業を続けていますね。


「私には得意属性がなかった、こんなのってあり?」


 ミリアが話題を変えて言いました。


「それはそれで珍しいことだから誇っていいよ」


 サラ会長が励ましました。


「得意属性がなくすべてがまんべんなく使える者は治療士に向いていたっけな」


 サージェス副会長も言葉をつなぎます。


「治療士って水や光が得意そうに思ってましたけど……?」

 ミリアが首をかしげました。

「君の思い込みは一体どこから来ているんだい? 怪我や病気の治療回復のための魔法にはそれぞれの属性の力が必要とされるんだ」

 副会長がまたまた不思議そうな顔で言いました。


 ミリアはきょとんとしていました。私もそうだけど、RPGにある六属性の先入観ってここでは捨てた方がいいのかな? 


 そんな会話があった次の日、六属性の性質について授業で解説がありました。


 それぞれの属性は、その自然現象を引き出して操るだけでなく、物質の状態を変える能力にも関わってくるそうです。


 例えば、物を温める能力は火属性、逆に冷やすのは水属性。


 なるほどそれで、うちの父は副業として、近くの酒場で提供するビールをキンキンに冷やしてあげて小金を稼いでいたのですね。


 冷蔵庫がない世界ですから、場所によっては主な酒類であるビールをぬるいまま飲まざるを得ないところもあるのです。

 水得意だから冷やすのはお手のものだった、その代わり、魔法でお湯を沸かしてもらおうとすると、どうしてもぬるま湯以上には温まらなかったのです。

 温めるのは逆の火に属する魔法だから苦手だったのでしょう。


 さらに、物を固めるのは土属性、逆にばらすのは風属性。隠されたものを明るみにするのが光属性で、逆に隠すのが闇属性だそうです。

 

 他にいろいろ細かく分かれていますが、基本としてはそれを押さえておけばいいだろうとのことでした。



 次の授業ではいよいよ実践がはいります。


 一年の魔法の授業を受け持つのは、最初の授業で私たちの属性をはかってくれたフォーゲル先生、赤い髪の若い女性のストリクト先生、中年でぽっちゃりした男のアルツ先生。以上の御三方です。


 フォ―ゲル先生が火と水魔法を、ストリクト先生が風と土魔法を、そしてアルツ先生が光と闇魔法を教えてくれます。


 まずフォーゲル先生の火と水の魔法の授業があるのですが、私は生徒会でもよっぽど焦って見えていたのでしょう。

 予習をしようということで、エミール王子が外に連れ出してくれました。


 あまり人の来ない開けた場所まで来て火の出し方を実演してくださいました。

 どうやってだすのですか、と、聞いたら、

「う~ん、ハッと力を込めてパッと放出するんだな」

 と、言われました。よくわかりません。


 でも、王子は自然に火を出すことができるので逆に説明が難しそうです。


 今度は私の方が水の力を出して見せることにしました。

 久しぶりなのでうまくできるかな、と、心配しましたが、エミール王子の方に飛ばないように手の方向を工夫して水を飛ばしました。


 「おお、どうやって出すんだい? 僕は水を出そうとしても、こんな感じなんだ」


 エミール王子が手のひらを私に見せて、何か一生懸命力を込めているようですが、じわっと水滴がこぼれ落ちるだけです。単に汗をかいているだけにも見えます。


 彼自身もよくわからなくて、試しにご自分でなめてみると塩辛くないとのこと。

 やっぱり多分水でしょう。でも、こんなにしょぼい量しか出ないとのことでした。


 ただ、どうやって出す、と、問われましても……。


「う~ん、ハッとしてパッと……」


 何でしょうこの答え、他人のことは言えません。


 ここでお互いに気づいたのですが、得意だから教えられるというわけではなく、逆に得意ゆえに自然にやりすぎて、できない人に具体的に伝えることが難しいのです。

 

 現に、あとで知ったことですが、火と水を教えるフォーゲル先生は実は風が得意。ストリクト先生は火と闇が得意。アルツ先生は火水土風まんべんなく使えるけど、光と闇はあまり得意ではないとのことです。


 学年が上がれば、それぞれの属性を極めた達人がその属性の使い方を教える授業もあるのですが、新入生に対してはこのやり方の方が理解されやすいそうです。


 ちなみに授業ですが、前もって練習してたのが功を奏して、大きな失敗はなかったです。火は頑張ってみたのですが、小さな火がポッと出てすぐに消えてしまいました。

 徐々に伸ばしていけばいいよ、と、先生には励まされました。

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