第4話 新入生の自己紹介
「まず先触れもなく呼び出したにもかかわらず、快く集まってくれたことに礼を言いたいと思う。君たちは二百名近くいる新入生の中でも特に優秀な学生だ。この学園の運営に携わる生徒会の役員候補としてぜひ経験を積んでほしい」
サラ会長は女性だけど口調が男性っぽくそれが不自然に聞こえないです。
男性並みに身体が大きいとかそういうことはなく、平均的な身長にすらりとした体形、でも凛とした印象があります。
「それでは成績順に自己紹介をしてもらおうか。一位のフェリシア・ブリステルからは辞退の申し出があったので、二位のエミール殿下から」
輝きのある淡黄色の髪に碧玉色の瞳。
整った顔立ちがサラ会長の言葉に一瞬眉根を寄せてしかめたような表情を示したけど、すぐに笑顔に戻って話し始めました。
「僕の名はエミール、できることなら学園では『殿下』という敬称無しで呼んでほしい、よろしく」
みなと打ち解けていきたいという気持ちが伝わる自己紹介です。
「それは生徒会の者に言ってること? それとも学園に通っているもの全員に望むことなの?」
「親しさの度合いがそれほどのない者にとっては『殿下』の敬称なしじゃ、かえって呼びにくいかもな」
双子のきょうだいが口々に言いました。
「そうだな、少なくとも一緒に生徒会の活動をする君たちにはそうしてもらいたいかな」
「じゃ、エミール?」
「呼び捨てはなんだか、エミール様でしょ」
「ああ、そんな感じで頼むよ」
エミール殿下、いや、エミール様がおっしゃいました。
続いて第三位はなんと私です。
「はじめまして、リーニャ・クルージュと申します。父が魔力持ちの一大男爵で、娘の私も魔力を持っていたので学園に入学できました。よろしくお願いします」
こんな感じで良かったのでしょうか?
王族の次が平民上がりの一大男爵の娘って落差ありすぎですね。
「中等教育まで国営の学校で学んで第三位の成績を収めるとはたいしたものだよ」
サラ会長がおっしゃってくださいました。
私があまりにも恐縮していたのでフォローしてくださったのかもしれません。
次が魔法省大臣の双子です。姉のペルティナが四位、弟のザロモが五位でした。
「ペルティナ・クルーグ。将来の希望は国営の研究所で魔道研究三昧の生活をすること。跡目は弟のザロモに継がせて、双子だから長子も二子も関係ないもんね」
「ザロモ・クルーグだ。跡目をペルティナは僕に押し付ける気満々だけど、先のことはわからない。僕も魔法関係の職につきたいと思っている、よろしく」
黄緑色の髪と金色の瞳、血統書付きの猫がじゃれ合っているように見えます。
この国ではフリーダ女王以降、家の跡目は男女関係なく長子が継ぐということになりましたが、この二人は互いに跡目を押し付け合っている、これも息があっていると言っていいのでしょうか?
「ペルティナってものすごいブラコンで、ザロモに近づく女子をことごとく排除するのよ」
ミリアが再びゲームの中の情報を話しました。
ブラコンね。猫っぽい雰囲気のせいか、粘着質なタイプには見えませんが……。
次の六位がミリアでした。
「ミリア・プレディスです。リーニャと同じく父が一代男爵です。皆様と親交を深めながら、生徒会の業務頑張っていきたいと思います」
はきはきとした自己紹介でした。
七位はクリーム色の長い髪の大人しそうな方です。
「シュザンナ・カペルです。よろしくお願いします」
自己紹介も短いですね。
「「私たちの従妹なの、よろしくね」」
書記と会計のクラウゼ姉妹が代わりに言いました。
そういえば髪色が同じですね。
最後の八位がレンガ色の髪の体格の良い人です。
「バルドリック・ヴィンクラー。体を使うのは得意だから、力が必要なことはどんどん言ってください」
確か先ほどミリアが騎士団長の息子だと言った人でしたね。
「騎士団長の息子ってどうしてみんな脳筋なのかしらね。七位のカペル嬢が彼の婚約者で、彼を攻略する際の『悪役令嬢』なんだけどね」
ミリアがまたまた耳打ちしました。
あの……、どんだけ『悪役令嬢』がいるのですか?
「ありがとう、以上の七名だね。これから実技の授業も始まれば、そこでの成績優秀者に声をかけることもあるかもしれないし、人員は流動的な形で行くからね。君たちも他にやりたいことができたり、生徒会の活動を続けるのがしんどくなった時には遠慮なく相談してくれたまえ」
サラ会長はそう言って締めくくりました。
今日は顔見せだけで終わる予定でしたのでやることはもうありませんでしたが、私たちはしばらく、生徒会役員の皆様を交えておしゃべりを続けました。
「一位はフェリシア様だったのですね。どうして生徒会の仕事を辞退したのでしょう。エミール殿下は何か知っています?」
興味はあるけど何となく聞きにくかったことを、ペルティナはあっさりと質問しました。
「彼女は王宮での仕事や勉強が忙しいのさ」
エミール様の代わりにサラ会長が答えられました。
「王宮のことが大変なのはわかるけど、生徒会でのことは今しかできないのに。彼女は学園の活動を下に見ているのかもな」
エミール様がこぼされたのを見てサラ会長が顔をしかめました。
「高慢ちきな方なんでしょうかね」
「何考えているのかわからない感じがするな」
「生徒会の運営は、将来上の立場に立った時に役に立つ経験なんだけどな」
ミリアに、騎士団長の息子のバルドリック様に、エミール様まで。
「いない人間を悪く言うのは感心しないな」
副会長のサージェス様がこのネガティブトークをいさめてくださいました。
おしゃべりはそのくらいにして、私たちはおのおの帰路につきました。
私とミリア以外は皆自宅(王宮を含む)が学園から近い場所にあり、毎日馬車で通ってらっしゃるとのことです。
私たち二人はそろって寮に戻りました。
「ね、エミール殿下と
寮までの途中でミリアが言いました。
「いや、それだけじゃなんとも……。それにサージェス副会長も『いない人間の悪口は良くないって』言ってらしたし、そういうことを言うのは……」
私は言いました。
「サージェス副会長の悪役令嬢もフェリシアなんだよね。」
「へっ?」
「彼はひそかにフェリシアを思っていて、それで王子とフェリシアの仲を裂くためにヒロインの恋を応援するって役目。だから悪役令嬢と言っても微妙な役どころなんだけどね。逆ハールートだとその途中でフェリシアの悪辣さに嫌気がさしてヒロインの方に行くのよ。今日の会話を見ても間違いないなって確信しちゃったよ」
ミリアは嬉々として言いました。
逆ハールートも王子ルートも私は興味ないのですけどね。
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