乙女ゲームパート1のヒロインですが、パート2のヒロインが早く王子を攻略しろとせっつきます、わたしはやりたくないのに
玄未マオ
第1話 建国神話とエルフの血
古今東西の建国神話では、その国を統べる王族や皇族が神々の血を引いているというの話をよく聞きます。
我が国も例に及ばず、と、言いたいところですが、違うのは、我が国の王族が引いているのは神ではなくエルフの血であるということです。
第十代ゼーンハルト王がまだ王子だった頃。
エルフは元より魔物など人外なものも多く徘徊する森が、今よりは小規模な王都を囲むように広がり、狩りや有害な魔物排除の目的で時々人間も入っていくことがありました。
その森でお付きの者とはぐれた王子はエルフの娘ミューレアと出会い恋に落ちたのです。
紆余曲折ありましたが、王子とエルフの娘は結ばれ、その後二人はいつまでも幸せに、と、いいたいところ、悩み事としてはお二人の間にはなかなか子ができなかったのです。
どうも種族が違うと子もできにくいようです。
それに生まれ育った森を出て人間たちの国にやって来たことに対しての不適応、いわゆる「ストレス」もあったのでしょうね。
しかし十年後、その時にはもう王子は国王となっていましたが、お二人の間に待望のお子が、ミューレア王妃は懐妊したのです。
国民たちも喜びました、そして期待しました、後継ぎの王子を。
しかし生まれたのは王女様でした。
国王は喜びました。
だが、王子を期待していた国民や家臣の中には、口ではおめでとうございますと言いながら、王妃のいないところでは落胆を隠さない人もいました。しかし彼らは知りませんでした。エルフの特殊能力をなめていたのです。
王妃は「火土風水」、そして「光闇」の六属性全ての魔法の達人であり、それらを組み合わせて、人々の想像を超えたあらゆることができたのです。彼女は常日頃から、家臣や国民の声を聞かなきゃと考え、風と闇の力で人々の意見をこっそり聞いていたのです。
そこで耳にした「なあんだ、女か」の声。
エルフの女でも生みの苦しみは人間と同じ、やっとこさの思いで可愛い第一子を産み落としたにもかかわらず娘だっただけでこの言われよう。
それに国王が王妃の耳に届かないようにしていたけど、離婚や側室の話が出ていたのを王妃はちゃんと知っていました。そんな心ない人々の言動に王妃はずっと耐えてきたのです。
何かがプチっとちぎれる音を王妃は聞いた気がしました。
「おのれ、
城を飛び出し、陰口を叩いたものを老若男女および貴賤の区別なしに、その家に押し入り家財道具を壊し家屋を破壊し始めました。それを知った森の他のエルフたちも、
「我らの大事な娘とその子にたいするひどい扱い、看過するわけにはいかんぞ! 皆の者、ミューレアの手助けに行くのじゃ!」
一緒に王都で破壊活動を始めました。
言った者どもを怪我をさせたり命を奪ったりせず、攻撃はあくまで物を壊すことに徹したのはエルフの優しさです。エルフはもともと人間に友好的な種族でしたから。
しかし、それにしても王都は大惨事です。
国王とその家臣、国民一同も、王妃ミューレア及び協力者のエルフに平身低頭謝罪しました。
一通り暴れた後は娘を連れて森に帰ろうとミューレアは思っていましたが、もともと国王との仲は良好です。生まれた子が娘であったのに文句を言ったのも外野の人間で、父親である国王自身はこの上なく喜んでいたのです。
王妃は許す代わりにあることを約束させました。
王位は赤ん坊であるこの娘に継がせると。
たとえこの先、二人の間にまた子供が生まれてそれが男子であっても、後継ぎは長子の彼女であると。
その当時は男子が家の後を継ぐのが当たり前だった時代ですが、断固とした王妃の態度に人々はそれを飲まざるを得ませんでした。
幸いなことに娘のフリーダ女王は善政をしき、父のゼーンハルト王とともに中興の祖とたたえられるほどの名君となりました。
国内に散らばっていた各都市と王都の間の街道をつくり、学校制度を作り、妖精たちの森を背後に抱えるようにして新たに王宮を建て、そこから広がるような今の形に王都を整えたのもフリーダ女王の代でした。
女王の両親、ゼーンハルト王とエルフのミューレアの間には、あれほど不妊に悩んでいたのは何だったのか、その後、八人もの子が生まれたのです。
ミューレア王妃も一度大あばれして何か吹っ切れたのかもしれませんね。
フリーダ女王も人間の夫との間に六人の子ができました。
女王の弟妹と子供たち、彼らが王族を支える貴族の祖となりました。
貴族と平民の違いはエルフの血をより濃く受け継いでいるかどうかです。
貴族は普通平民より魔力が強いと相場は決まっていました。
しかし、貴族と平民の間に子ができたり、貴族の中の魔力の少ないものが平民になったりすることもあり、そうして代を重ね、今はフリーダ女王の治世から数百年経ちました。
それゆえ先祖帰りのように時々、平民の中にも魔力が多い子が生まれてきます。
そういう者は特別に貴族の通う学校で一緒に学ぶことを許され、卒業後何年か国のために働きその貢献が認められると、一代限りですが男爵の地位を得ることができました。
わたしことリーニャ・クルージュの父、マテオ・クルージュがそうであり、私もまた、父と同じく相当量の魔力を生まれながらに持っていたのです。
平民でも魔力の多い者には貴族と同じ学校で学ぶという特典が与えられます。
学費も国が負担してくれるのです。
なぜなら魔力の扱い方を教える学校は、この国では王都に一つあるだけで、貴族の子弟のほとんどはそこで魔法能力を磨き、魔力持ちの平民もまた同じように学ぶ機会を与えられるのです。
わたしは明日、学園の寮に入ります。
学園は王宮の近くにあり、我が家は王都の東南の端の方にあり、毎日通うのは遠すぎですから。
部屋で荷物の整理をしていると、幼なじみで一緒に学園に入学するミリア・プレディスが入ってきました。
山吹色の豊かな髪に鮮やかな緑の目をした美少女です。
彼女の父親もまた魔力持ちの一代限りの男爵で、境遇が似ているせいか気が合い、子供時代からの友人です。
気が合う理由は境遇だけではありません。
実は私たちは二人とも二十一世紀の日本からの転生者だったのです。
☆―☆―☆―☆-☆-☆
【作者あとがき】
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