第43話 エルフ一族の野望

 突如現れた謎の少女ユメラとユメレ。

 あのアリムさんの子だそうなのだが、それ以上の事実が僕を待っていた。


「ままままってください!? この二人が、僕とアリムさんの子ども!?」

「えぇそうです」

「それおかしいですって!? 確かに僕は彼女と一緒の布団には入りましたけど、さすがに一線は超えてない、はずなんですよ!?」


 けど僕としてはその事実は受け入れがたい。

 なぜなら僕とアリムさんとは別に肉体関係があった訳じゃないから。

 確かにおでこにキスはしてもらったけれど、それ以上の事はおきていないんだ。

 少なくとも、彼女と別れた後の現場の状態を調べた限りでは〝一夜の過ち〟は無かったと言い切れる。


 なのに、どうしてこんな事に!?


「お母さまは」「言っておられました」

「確かに肉体関係は」「無かったと」

「ほら、二人もこう言ってるじゃないですか――」

「しかし私達エルフは」「慕う方の魂の欠片を」

「受け取り混ぜて」「子を成せます」

「え? そ、それってつまり想像妊娠ってこと……?」

「「大体そんな感じ」」

「あいまいな解答なのに無駄に説得力を感じるよ異世界だから!」


 その答えはとてもファンタジーでファンタスティックなものでした。


 確かにセックスはしなかったけど、心が触れ合ったから子どもができたと。

 しかもアリムさんも子孫を残す使命があるから産むまで至った訳だ。


 つまり僕は童貞なのにお父さんとなってしまったのかァァァーーー!!!??


 ――いや待て、落ち着くんだ僕!

 確かに僕の子ではあるかもしれない。

 けど遺伝子的にはまったく関係がないはず!

 だとしたら一概に親子と言い切る事はできないじゃないか!


「少し冷静に考えてみません? 想像妊娠って事はですよ、つまり必ずしも僕との関係があるとは限らないじゃないですか」

「え、でも旅館側はそう認識していますよ? なにせこの旅館の恩恵で成せた子達ですからねっ!」

「ノォォォーーーウ! それじゃあもう言い逃れ出来なぁい!」


 でもいともたやすく論破されました。

 そうだよね、この旅館の力ならそんな不思議も簡単に実現できちゃうんだって。


 ――この旅館に多くの恩恵があるのは客の頃からわかっていた事実だ。

 たとえば言語に関係なく言葉が通じたり、食べ物が隔たりなく食べられたり。

 他にも異種族の容姿への違和感や嫌悪感を和らいだりする効果もあるそうな。


 しかし実は、もっとすごい恩恵がこの旅館にはあったのだ。


 それが異種間懐妊。

 この旅館にいる間ならば、遺伝子だとかそういう原理・理論をブチ抜いてどんな相手とも子どもを授かれるらしい。

 常識外れのとんでもない恩恵だけど、この旅館らしいといえばらしいと思う。


 すなわち、二人はその恩恵とエルフの特殊能力の合わせ技によって生まれた正真正銘の僕の子ども。

 地球人と異世界エルフの血を受け継ぐ新人類爆誕という訳である。


 幻ちゃんが聞いたら大興奮しそうなとんでもない話だ。


「まさか僕の子達だったなんて驚きだよ……でももう現実を受け止めなきゃなぁ」

「そうですよっ! ほら、こんな可愛い子達じゃないですか!」

「まぁ僕の子とは思えないくらい可愛いよね。たぶんアリムさんの血統一〇〇%だからだとは思うけど」

「でも安心してくださいね。夢路さんに引き取ってとまでは言いませんから。せめて親らしく可愛がってあげて欲しいです」

「うん、それはもちろんだよ。この旅館の家族になる訳だしね」


 とはいえこれが現実で事実。

 なので僕はおとなしくその現実を受け入れる事にした。

 まだ会ったばかりでどっちがユメラでユメレかも判別できないけど、いつかはできるようになろうと思う。


「それにしても、二人を産むなんてあのジニスがよく許したね。あれだけ人の事を憎んでいたし、人間の子だってわかったら何言うかわかったもんじゃないでしょ」


 ただ少し心配なのはアリムさん自身の事だ。

 あの強情なジニスが傍にいるだろうし、色々と酷い目に遭っていなければいいのだけど。


「ジニスに関しては」「何の問題もありません」

「えっ? それってどういう事?」


 けどそんな心配もすぐに双子ちゃんに払拭される事となる。


「子孫を成せたお母さまは」「晴れてエルフの真の女王となりました」

「しかし一方のジニスは」「他種族嫌悪に加えて子も成せない」

「よって一族に見放され」「今や役立たずの烙印を押されました」

「今や奴隷同様の扱い」「種馬以下の価値しかありません」

「「ざまぁ」」

「そう聞くと悲惨だなジニス……まぁ自業自得なんだけど」


 相変わらず腕を広げて締めるので皮肉もたっぷり効いている。

 まぁあの大暴れした分からず屋ジニスにお似合いの末路だとは思うけどね。

 きっとアリムさんも相当ウザがってたんだろうなぁ。


「ですが私達の一族は」「なお絶滅の危機に瀕しています」

「そこでお母様は」「一族で話し合ってある事を決めました」

「人間や他種族との交流と」「その間で子を成して存続する事を」

「血よりも」「誇りよりも」

「私達エルフという存在が」「居続けたという事を証明し続けるために」

「すごいですね。とても重い決断だったでしょうに」

「うん、それでいてアリムさんの想いが伝わって来るかのようだよ」


 ジニスを排除したのも、すべては自分達エルフ一族を滅びから守るため。

 彼女は僕という存在を知ったから他種族を受け入れる事を選べたのだと思う。


 だからきっと彼女はもう平気なのだ。

 この旅館に来れなくとも、僕に逢えなくとも。

 人生の大目標が見えて、その先に進む覚悟ができたのだから。


 だったら僕は草葉の陰で彼女達を応援するだけだ。


「そこでお母さまは」「私達に託してくれました」

「新たな子孫を残す計画」「その担い手の役目を」

「え、新たな子孫……?」


 しかしどうやらそのアリムさんには壮大な計画があるらしい。

 となると、この双子ちゃんもその一環でこの旅館に来たという事なのだろうか?


「そこでお母さまは考えました」「最も最良の繁栄手段は何か」

「その一つの手段が」「もっとも優れた人物の血筋を継ぐ事」

「その者との子を成し」「さらなるエルフの発展に繋げよと」

「な、なに、なんで僕に近づいてくるのかな?」


 けどそう語る二人の眼が僕の見つめ、しかもジリジリと迫って来る。

 無表情が、ガラスのような眼が今だけとっても怖いんですけど!?


「よって私達は」「実行いたします」

「お母さまに」「言われた事」

「「私達の父、秋月夢路の子種を搾り取って来いと」」

「アリムさぁん! 自分の子どもに何教えてるんですかァァァーーーーーーーッ!!!!!」


 そして満を持して腕がまた広げられ、さらには僕の腰へガシリと取り付く。

 しかも一切の羞恥心を感じさせない無表情のまま、上目遣いでもう片方の手を股間へと添えてきた!?


 この子達は本気なんだ!

 本気でアリムさんに言われた事を実行しようとしているーーーッ!?


 そこで僕は二人の腕を退けて一歩退いた。

 血は繋がっていなくても親子である限り、これ以上は絶対ダメです。


「親子なら親子らしくそういう事は無しにしましょうね」

「私達は」「とても悲しい」

「そうですね、とても残念です」

「エルプリヤさんまで!?」


 なんだか妙な方向にシフトしそうな雰囲気なので、ここは大人の対応でキッパリと断っておく。

 いくらなんでもこれで一線超えたら人としてもうダメな気がするので。


 ――それにしてもアリムさん、僕との出会いでそんなに変わったんだな。

 この変わりようはもう色々吹っ切れた結果なのかもしれない。


 とはいえ思ったより元気そうで何よりだ。

 これならきっとエルフの再興はそれほど悲観的ではないのかもしれないね。


 まぁ僕に協力できるのは応援くらいだけだろうけども。

 さすがに子種提供まではちょっと抵抗があるかな。羞恥心的に。

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