第19話 謎の触手生物、とてもテクニシャンです……

 ピーニャさんの穴埋めにと、謎の触手生物ロドンゲさんが僕に充てられた。

 だけどまったく正体のわからない相手にもう戦々恐々だ。

 気に入られたらしいから粗相さえしなければ平気だとは思うけどね……。


 それで今は部屋へと案内してもらっているのだけど。


 それにしても、あんなにテラテラした体が這いずってるのに床がまったく汚れていない。

 むしろなんだか磨いたかのような光沢が後から出てくる。


 それに着物を着た別の従業員が通りかかると、急に触手で叩き始めていて。

 なんだ!? と思っている間にも、叩かれた従業員がキリッと姿勢を正していた。

 まるで先輩社員による教育みたいな雰囲気だ。


 そんな光景を何度か見た後、僕の客室へと辿り着く。

 なお中は今朝のまま、色々とまぁ乱れたり汚れたりした状態だ。

 ピーニャさんが「掃除は帰ってからするのだ」って後回しにした結果である。


 するとロドンゲさんの色が途端に茶色へと変わる。

 しかもなんか荒々しく触手で床を叩いているし。

 きっとキレ散らかしているんだろうなぁ……それは何となくわかった。


 けどその次の瞬間、僕は驚くべき光景を目の当たりにする。

 ロドンゲさんのその真価がさりげなく発揮された事によって。


 部屋に入った途端、無数の触手が部屋中を飛び交ったのだ。

 しかも目にも止まらぬ速さで、確実に、的確に、何一つ異変を見逃さず。


 まず壁や床のしみや汚れが一瞬で消え去った。

 机や座椅子のわずかなズレさえ即時に修正された。

 畳のほつれが新品同様に直った。

 天井の灯篭に付いた埃までが拭われた。

 ぐしゃぐしゃな

布団は開いた天井に放り込まれて消えた。


 そうして対応開始からものの三分程度で部屋が一新される事となる。

 まるでリリース直後の新部屋のような美しさへと。


 完璧だ、完璧すぎる!

 これがこの旅館のエースのお仕事だというのか……!?

 ピーニャさんの人気出ない理由がもうこれだけでわかった気がするぞ!?

 あの子の掃除、ちゃんとやってるようで結構雑だし!


 そんな雑務が終わり、ロドンゲさんの身体がまた青色に。

 それで触手が直したばかりの座椅子を引いて僕を誘う。

 きっと「座ってください」って事なんだろうね。


 なので言われるがまま座ってみたのだけど。


 その途端、僕の体中に触手が絡みつく!

 手足のその先にまで、まるで椅子に縛り付けるように!


 こ、これは!? 何かまずいのでは!? うわああああああ!!?


「――あああ~~~なにこれすごい、気持ちイイ~~~」


 でもその直後には堪らずあえぎ声が漏れていた。

 それくらいたまらないほどにロドンゲさんがテクニシャン過ぎたもので。


 触手が脈動して蠢いて、体の隅々まで刺激してくれるんだ。

 言うなれば電動マッサージチェアみたいな要領で。


 しかもあんな機械なんて目じゃないくらいに優しくて的確で、何ヶ所も不規則に揉みしごいてくれる。

 力の加減も完璧で、どの箇所も一切ストレスを感じない。

 おまけに言えばコリなどもしっかり把握していて、そういった箇所から疲れを搾り取るかのように吸い付き、ほぐしてくれるんだ。


 まるで人間の体を知り尽くしているかのような艶めかしい動きである。

 大勢の女の子が触れてくるかのような錯覚をも彷彿とさせてくれるほどの。


 これ、まじですんごい……。

 やばい、これだけでもう天国にイかされそう。

 あ あ あ あああ……。


「あっんっ……」


 そう快楽に身を任せていたら、途端に触手がほどけてしまった。

 そのせいで思わず変な声が漏れてしまって、なんだかちょっと恥ずかしい。


 ただ、どうやら極楽の時間はもう終わりらしい。

 ふとスマートフォンを覗いてみたらとっくに一時間経過していたし。


 それでロドンゲさんを見てみたら、緑色になっていた。


 ……これは何を意味するのだろう?

 僕が満足してしまった事を喜んでいる?

 それともまだして欲しいかって聞いている?


 それともまさか、もっと何かすごい事が待っていりゅのぉぉぉ!!!???


 い、いや、ダメだ僕! 男としての理性を取り戻せ!

 あの快楽はとても素敵だけど浸かり過ぎちゃダメな奴だ!

 もう一度味わいたいなんて思ったらもう帰って来れないぞ!


 そこで理性に従うまま顔を横に振る。

 するとロドンゲさんがまた青色に戻り、跳ねていた触手がしゅんと沈んだ。


 でもその仕草が迂闊にも可愛く見えてしまって、理性に亀裂が入った気がしたけど。


「ま、まぁ僕これでも男の子ですし、これ以上は色々と問題があるかなって」

「うじゅるり……!」

「え、何? 何をする気!? あ、ちょ、らめえええ!」


 もしかしたらそんな心の隙間を見透かされたのかもしれない。

 こう漏らした途端、僕はロドンゲさんに憑りつかれ、取り込まれた。

 その意思に関係無く、肉塊の中へズブズブと。


 ……そして気が付いたら、なんか目の前に美少女がいた。

 それも姿鏡に映る銀髪娘が。


 ――え、鏡……?


「こ、これは……!? まさか、ぼ、僕なのか!?」

「うじゅるり」


 そう、それは紛れも無い僕自身だったのだ。

 ロドンゲさんに取り込まれて気を失っている間にこうなってしまったらしい。


 もう何もかもが女の子だ。

 色々と体をまさぐってみれば、あったものが無いし、無いものがある。

 そもそも背も四肢も縮んでいるし、なんなら声も変わってる。

 一体どうしてこうなったのかわからないけど、全くの別人と化していたんだ。

 ナニコレすさまじいな異世界魔法パワー!


「もしかしてロドンゲさん、僕が男の子じゃなくて女の子になれば好きなだけ喘げるって思ったんです!?」

「うじゅ!」


 なお、しでかしたロドンゲさんはヌルテカ触手でサムズアップを見せつけてます。

 なんかすごく誇ってるけど、これ解釈間違ってますよ!?


 それでもってロドンゲさんが再び緑色に。

 触手もが僕の細くなった肢体に優しく触れ、絡んでくる。


 それと同時に走る心地良い感触が、僕の理性をついに砕いた。


「お"ッほ――」


 それからはもうロドンゲさんにされるがまま。

 体という体を隅々までマッサージし尽くされ、究極の快楽を味合わされる事に。

 外には声も漏れないから、僕ももう心に従うままあえぎ続けた。

 受け取られた意図がまったく違うけど、気持ちいいからもういいかなって。


 そんな行為は夜まで続き、気付けばもう男に戻っていた。

 それでしっかり夕食まで用意してくれて、布団までしっかり敷いてくれる。

 翌日には呼ぶ前に朝食を持って来てくれたし、本当にこの人万能だって思い知らされたよ。


 人は見た目に寄らないっていうけど、まさにその通りだ。

 まさか女の子にまで変身させられるとは予想もしていなかったけども。

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