頭痛
鳴平伝八
第1話 3月31日
「お疲れさまでした」
後輩からもらう花束というのは、こんな感覚なのか。何と言うか、何とも言えない感覚だ。
「健司(ケンジ)さん!本当にお世話になりました!」
最若手の三柴淳三郎(ミシバジュンザブロウ)が目に涙を浮かべている。
この子との関りは、何と言うか、何とも言えない。
1年前に新卒として入社したのは知っている。しかし、目に涙を浮かべるほど親密な仲だったか?
そもそもなぜ秘書室に?
「俺、入社して変にうまく成績のばした時、調子乗ってて、そこで健司さんが一喝入れてくれてー」
涙で目がキラキラと潤っている。
「あぁ、そんなこともあったかな」
人はこういう時に苦笑いをするのだなと知った。
この年でも新しいことを知れるとは。
それを教えてくれたのが入社一年目というのもまた面白い。
「みんなありがとう」
「社長と会長も一緒だとよかったのですが」
第三秘書の坪田(ツボタ)が残念そうな顔をしている。
「大丈夫。今度会食の予定をしている。お二人も忙しい身だからね」
「清水さんも残念がっていました」
「秘書が社長についていくのは当たり前だ」
清水は第二秘書で、二人とも仕事のできる有能な後輩だ。清水に関しては仕事の覚えと飲み込みが尋常ではなかった。
見た目は真面目な優等生だが、酒の席でのはじけっぷりときたら……思い出すたび、あれが清水の本来の姿なのだろうなと思う。
その記憶が無いというのも、それを認めないのも面白い。
明日は参加できるといいのだが。
「明日の送迎会楽しみにしています」
「三柴君ったら、明日会えるのに、どうしても今日お見送りしたいって仕事抜け出して来てるんですよ?」
だから彼はここにいたのか。
そんなことより仕事の方は大丈夫なのだろうか?
「三柴君」
「健司さん」
「仕事に戻ろうか」
「はい」
三柴の中で流れていたであろうエンディングテーマをぷつりと止める。
心なしか目が乾いているのがなぜか微笑ましかった。
申し訳ないが、仕事を蔑ろにするべきではない。
明日送迎会で会えるのだから、その時には今日の感謝と話に付き合おう。
三柴が振り返り一礼すると「明日、楽しみにしています」と言って秘書室から出ていった。
三柴はきっとみんなから愛されるような人間になるだろうなと思った。
そして、明日はどんな熱量で絡まれるのかと少し不安になり、苦笑いを浮かべた。
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