番外編③ 贄となりて
「今年の
いにしえを基調とした、発展を嫌うリーシュガルドの言伝は早々と駆け巡る。気付かぬうち、知らぬ者など居なくなってしまうほどまでに。
十三になる少女を苛む境遇には、ただ
十五畳程度の、簡素な古屋の中。ミヤビの
ふと、入り口の杭が外れたような音がした。何事か、巫女焼の贄となる立場の情報は明かされておらず、未知数の中、徐々に漏れ出す明かりにミヤビは眼を眩ませる。
「ミヤビ、起きておるか」
長の声だった。彼女は随分と幼い頃から、優しい声をした人だと思っていたのだが、巫女焼の理解に至る頃からは悪鬼のような邪な色で語りかけると感じていた。しかし今は、類似や疑念ではない。地獄の鬼、そんな空想の存在と、一切の差異が存在していない。そう、彼女の思考が捉えるのだ。
「……なんですか」
無意識。しっかりと配給される食料による栄養を得た身体から、掠れた蚊の鳴くような声が漏れる。ミヤビの睨んだ先、揺れてぼやけた視界に、
「巫女として、色々と待遇は用意しておるのだが……ひとつ、伝えておかなければならない事象が湧いて出た」
せめてもの慈悲、というやつだろうか。期日まで、余生に対する要望を受け入れてくれるといった事柄である。しかしそれは、その一部に障害が発生したのだと語った。しかしその言葉、少女の儚い希望を打ち砕くには、充分を超越していた。
「お前の両親に声をかけたのだが、辛いだけだから会いたくはない、と。当日の観覧も拒否するようだ」
「は……」
肉親との再会、恐らく歴代の巫女も同じくして行ってきた、ひとつの慈悲。それを与えられないなどではなく、その肉親自らが彼女を拒絶したかのように。有象無象に至る思考に、荒い呼吸は増すばかり。唐突に、絶望と希望の狭間から追い出され、絶望に板挟みにされたようだ。
「……何かしら、次の事象が決まれば訪問する。巫女焼は二日後だ、思い残す事のないようにな」
振り返り、立ち去る背の曲がった影を追うばかり。伸ばす手も、引き留める言葉も、何もかもが言うことを聞かずに漏れ出て消える。完全に閉まりゆく扉から、漏れた光が姿を消した。杭の打ち付けられるような音と共に、再び孤独がミヤビを嘲笑う。
巫女。いや、贄に選ばれてしまったからには、定めを受け入れるしかないのだ。ミヤビの思考は一途に、ただ必死に己を洗脳するよう、諦めを催促する。しかし、考えれば考えるほどに、首のない己の姿が脳裏へ焼きつくばかり。瞬間、襲いくる胃酸の逆流になす術なく、野垂れた身体は酸味の香りに浸されてゆく。
ふっ、と。力が抜けるように、ミヤビの視界が閉ざされてゆく。ひとつふたつと数える間もなく、その神経は、睡眠へと移行していった。無論、安寧の
『———————……?』
突如。得体の知れない
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