第40話 『十戒吸盤』
部屋を埋め尽くすまでに伸び切り、その空間を制圧する純白の触手は畝り続ける。城とは似つかぬ
「糞、キリがないなッ……‼︎」
切り離せど、切り離せど、その姿は再生を繰り返す。生物特有の能力が行手を阻み、本体への攻撃を阻止しようと目論んでいるのだ。カルトレアの剣撃は最も容易く触手を切断するが、気付けばその姿は元の形を表している。
ふと、左肩を掠める剛腕の影。圧制の触手は押し付けるよう、カルトレアの姿をパステル色の壁へ叩きつける。
「しまった……‼︎」
目視できる範囲で、恐らくザリオンの構える指は十本。不規則な動きに加え、切断から再生までのタイムラグを加えた場合の行動にはあまりにも動作の数が多すぎる。『
「カルトレアッ‼︎」
「私に構うな‼︎」
一方、暴走に飲まれた影を重力により封じ込めつつ、『
ザリオンの『
「ぐ……ッ」
攻撃の標的となっている腹筋に全神経を注ぎ、耐え凌ぐ。次第に、背後から亀裂のような音が骨を伝い響いてきた。カルトレアは、どうしようもない一手に、脱出を賭ける。
砕け散る城壁。身体を押さえつける『
「糞ッ……残り俺だけか⁉︎」
戦場に残る影は、落胆をこぼす。カルトレアの戦線離脱、暴走、そしてギガノス=ザリオンより操られる『
あまりにも部の悪い戦いに、舌打ちが響き渡る。せめてザリオンだけならなんとかなったかと冷や汗の先、途端、暴走に呑まれた男が淡々と動きを静止し始める。
「止まったか……?」
好都合と睨むレクトの意識は、行動の
ふと、パステルの壁に反響する一つの声が届く。狭い視界の中を、一筋の一閃が駆け巡っていた。
「『
雷を纏う一人の男。ザリオンの駒として扱われ、二年の時を苦渋に苛まれながら生き延びた影が、決戦の地に舞い込む。両手にカルトレアを抱え込むその姿は、レクトの中にある犠牲を伴う一手を無に還し始める。
「助かった、アストラル」
「礼言われるほど、まだ償えてねえ」
アストラルの掌が、パステルの壁に触れる。途端、辺り一面、焼け焦げた匂いに支配された。純白の触手は
「……フランクリン、か」
「名付け親にでもなったつもりか、偽善の誘拐犯」
ギガノスに二年間身を置いていたアストラルは、ギガノスの真意を知っていたようだ。それを我々に伝えなかったのは、恐らく、彼らの痛ましい境遇に同情を示し、戦いに支障をきたすと考えたからだろう。
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