第37話 こどもたち
ザリオンの語る、ギガノスに秘められた真意。狂気のような差別の連鎖に飲まれた子供達の、生きる道標となっていたのだろう。魂は血縁と無関係に、完全なるランダムに形作られるもの。突如として魂を持たないものが生まれることも、しばしばなのだ。
支配欲に呑まれた男かとばかり。しかし、眼前で言を溢すザリオンに、純正の悪意など見つからない。行動に疑念は現れようと、何故か、咎め難い何かを胸中に秘めていた。
だが、これすらも無意識に己を自制する行為に過ぎない。何故だろうか。それは、先日に語りかけたあの声に怯えているからだろう。
『
完全なる無意識下で、己の怒りを少しでも表して仕舞えば、また取り返しのつかない暴走に支配されると感じているのだろう。
ふと、床を刺していた藍色の刃が再びザリオンの眼前へ向き直る。カルトレアの怪訝な表情が、眉間を集約させている。
「ふざけるなよ。貴様らの侵略で孤独を余儀なくされた子供も居るんだ」
顎で、こちらを示す。自分も、ココロも、カルトレアやシズクが居なければ孤独を生きていたのだろう。いや、まず彼女らが居なければ死んでいただろうか。だが、これもまた彼女の自己犠牲と語る。当時、十七の少女であったカルトレアもまた、孤独を眼前にした子供であったのだから。
「……恵まれた人間だろう、ギガノスの子供たちとは境遇が違う」
ザリオンの言葉は、冷たく刺さる。確かに聞く限りの無祟に苛まれた子供たちは、味方など居ない寒空の下を過ごしていたはずだ。だが、そんな事実は理由になどならない。
「聖人気取りのただの塵か。テメェがあんな狂った
レクトの左手が構える。背後の割れたステンドグラスに沿うようにして、木の根が畝りながらザリオンの姿を捉えていた。決戦は、目の前である。
「シークは……魂に性格を乗っ取られ、人の群れから孤立した可哀想な子だ。シェルデンとフロウズも、魂のせいで孤独になった」
「はぁ……?」
唐突に、語り始めるザリオンの言葉は止まらない。幹部の名を次々と語り続けている。ぶつぶつと、まるで経を唱えるように。
「他人の深層心理を見る力、故に畏怖を抱かれ。骨を操る力、上手く扱えなかった頃に人の形を失い忌み嫌われた」
それぞれの幹部を片っ端から消してきた我々は、奴らの悲しみに濡れた過去に固唾を飲む。
「ブラキュールは幼い頃に血の病気で母を失った。魂がもう少し早く発現していれば救えたのにと嘆いていた。ベルフェゴゥルは未知の虫が持つ毒で他意なく家族を全員殺してしまった。ルノウとサニアは父親から魂を使った虐待を受け、魂そのものに恐怖していた……」
「うるせぇなジジイ」
延々と語り続けるザリオンに、痺れを切らしたようだ。カルトレアとレクトは、立ち尽くし口だけを動かす初老に向けて、それぞれの攻撃を開始する。
「『
床や壁の四方八方を這う木の根が、ザリオンを囲む。いつでも首を絞められるようなフィールドを駆けるカルトレアの刃は、慎重に、その隙を伺っていた。恐らく、ザリオンの持つ起源魂に警戒を張っている。『
「貴様らに邪魔はさせん。私が子供たちの理想郷を作る」
ふと、ザリオンが手を翳す。全ての指をこちらに向け、視線を正面へ向け、呟いた。奴の攻撃が、来る。決戦の火蓋は切られた。
「『
「伏せろッ‼︎」
カルトレアの言葉に呼応するようにして、その身を潜める。ザリオンの指先十本がそれぞれ、クリーム色に佇む触手に姿を変え、一直線に飛来した。壁を突き破り、瓦礫を散らしながら爆音を響かせている。
『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます