第4話:なんだかハエがうるさかったのでついつい潰しちゃいました♡


「とんでもないモンスター……?」


 どうやらこの先で何かあったみたい。先に奥の方へ進んでいた男の人たちが走って戻ってきた。

 一体どうしたんだろう? 男の人たちがブルブル震えながら逃げ出すなんて、相当危険な目にあったのかな? こ、怖いな……わ、私も無事でいられるかな……。


「大丈夫だよミヒロちゃん」


「た、田中さん……?」


 ちょっとビクビクしちゃった私を心配してくれたのか、田中さんが優しく声をかけてくれた。


「どうせあの男たちがビビリなだけで、大したことないって。ミヒロちゃんは安心して配信を続けていいよ」


「た、田中さん……!」


「(伊藤健一のアンチが送り込んだモンスターを配信に写せばきっと視聴者数爆増間違いなし! この機会、逃すわけにはいかないっての!!!)」


 そうだよね、このまま中途半端に配信を終わらせちゃったらせっかくきてもらった視聴者さんに申し訳ないもん! 

 もっともっと楽しい配信をお送りするためにも、モンスターなんかに怖がってちゃダメ! よし、このままどんどん進むぞー!


「な、なに言ってんの田中、伊藤健一のアンチはちょー過激なの知ってるでしょ! あいつらならマジでやべーモンスター解き放ってるはずだよ、逃げないと!」


「大丈夫大丈夫、どうせあいつら掲示板とコメント欄でしかイキれないしょーもない甲斐性梨のクソどもだから。よし進むよー」


「え、ええ……も、もうどうなっても知らないよ! お、置いてかないでー!」


———

「何かあったの?」

「ダンジョン騒がしいね」

———


「大丈夫ですよ、なーんにも問題ないです! あ、あそこにもスパイダーが。あ、こっちにも!」


———

「目がキラキラしてる」

「可愛い」

「何この女の子、スパイダーみて楽しそうにしてる」

———


 もう1人増えた! これで今見ている人は三人……え、えっへへ〜♪


 楽しいなぁ、楽しいよぉ……もっともっと褒めて! 可愛いって言って! あ、い、いけない……褒められていい気になりすぎるのもよくないよね。


「みなさん来てくださってありがとうございます! でも可愛いだなんて言いすぎですよ〜」


———

「そんなことないよ、可愛い」

「カモライブのタレントよりイイ!」

「モンスターの趣味は悪いけど可愛い」

———


「えっへへへ、そ、そんなことないですよ、うっへへへ、ち、違いますよぉ〜」


———

「褒められていい気になってて草」

「顔に出やすいタイプなのかな」

「ちょっろ」

———


 し、しまった。ついつい褒められていい気になりすぎちゃったよ……いけないいけない。

 自分だけ楽しくなってちゃダメだもんね。みなさんのことももっと楽しませないと! そうだなぁ……クイズでも出してみよう!


「ところでみなさん、私の大好物はなんでしょーか?」


———

「えーなんだろう」

「オムライスとか好きそう」

「ハンバーグじゃね」

———


「あー、みなさん私のこと子供扱いしてますね。ぜんぜん違います、ブッブー」


———

「ほっぺた膨らませて可愛い、清楚」

「えー違うのか」

「じゃあハンバーガーとか?」

———


「みなさんわからないですか、じゃあ正解を言いますね。正解は———」


「おいやべぇぞこれ! お前ら流石にこれは俺でも乗り越えられねぇって!!!」


 私がみなさんに正解を言おうとした瞬間、近くでやけにうるさい声が響き渡った。前を見てみると、そこにはなんだかハエ? のモンスターと男の人が戦っていた。

 どうやら苦戦しているみたいで、男の人はもう今にも倒れそうなぐらい足元がフラフラしてる。

 

 もしかして、あのモンスターがさっき言ってたやばいモンスターなのかな?

 

「おい田中、あれって……」


「……「ベルゼブブ」じゃん。一流戦闘企業ぐらいしか応戦できない、S +級モンスター。うわー、やっぱ生は迫力あるねー」


「……どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおすんだよ田中あああああああああああああああああああ! あ、あんなの私らじゃ一発で即死だよ!」


「なーに慌ててるんだってのカズサ。この時のための緊急脱出装置ですよ」


「あ、そうか、それがあったか! 早くそれを使おう田中!」


「あたぼうよ! …………あ、ありぇ? す、スイッチ起動ちない……」


「えええええええええええ!? 壊れてる中古品摑まされたってことか……諦めないで何か考えろ!!! み、ミヒロちゃんだっているんだぞ!」


「あっははは……ははっ」


「お前も壊れてる場合かぁ! 伊藤健一もやられそうだしどうしよう……そ、そうだ救助隊……は違法ダンジョンだから来てくれないじゃん! まずいまずいまずいまずいまずい……」


 うーん、やっぱりそうみたい。田中さんも、カズサさんもあのモンスターを見てすごい焦ってる。でも不思議だなぁ。


 あれって、だよね? なんでそんなに苦戦したり怖がるんだろう。


「ははっ、超次元ダンジョンにバトルフロンティアの最難関を乗り越えてきた俺だ! こんなアンチなんかに屈するわけねーだっごほっ!」


 あ、大変! 戦ってた人がついに倒れこんじゃった。す、すぐに助けないと……よし。


「ごめんなさいみなさん、ちょっと待っててくださいね。よし、スマホはここに置いてっと……」


———

「なんかやばいモンスターいるけど大丈夫!?」

「逃げてミヒロちゃん!」

「あれイッさんと同じとこいたの!? 早く逃げて!」

———


「み、ミヒロちゃん!? あ、危ない! そ、それに近寄ったらダ———」

「え……み、ミヒロちゃん!? な、何してるの、戻ってきなさ———」


 ハエを潰すぐらいだもん、いつものアレを出すまでもないよね。グーパンで充分かな。よーし、いっせーのーで!


「えいっ」


———

「た、倒れた!?」

「な、何これ……あのモンスター、自爆したのか?」

「い、いや……み、ミヒロちゃんがグーパンしたんだ! そ、それであのモンスターが……え?」

———


「……ワンパン? それも、あの細い手から繰り出されたパンチで?」

「……ど、どうなってんだよ田中」

「わ、私が聞きたいんだけど……え?」


 ふーっ、良かったぁ一発で仕留められて。あ、ちょっとあとついちゃった。ハンカチで拭き拭きしないと。よし、これで大丈夫かな。

 そうだ、視聴者さんにも事情を説明しないと。ちょっと可愛く言おうかな、清楚じゃないって思われたら困るもん。


「すみません、なんだかハエがうるさかったのでついつい潰しちゃいました♡」


———

「やべえこの女」

「清楚吹っ飛んだ」

「yaaaaaaaaaaaaa!」

———


 あ、あれ? な、なんだろうこの反応。せ、清楚吹っ飛んだって……ちょっとはしたなく映っちゃったかな? うーん、それならもっと可憐に倒すことも意識したら良かったかも。


「ご、ごめんなさいみなさん、ちょっと汚かったですかね? そうだ、お口直しとして雑談でもするのは——あ、あれ、田中さん?」


「み、ミヒロちゃん……ちょっと今日はここまでにしよっか。い、いろいろ話聞きたいからさ」


「え、でももっと配信したいです私! まだまだパワーが有り余ってるんです!」


「い、いやー、ちょっと、そこで倒れてる伊藤健一を病院に連れて行かないといけないし」


「あ、それもそうですね。そしたら今日はここで終わります。みなさん、おつミロ〜」


 よしっ、ずっと考えてたお別れの挨拶を決められて良かった! ああ、初めての配信。

 いっぱい緊張したし、ちょっとしたハプニングもあったけど……すっごく楽しかった!!!


 またすぐに配信したいなぁ……ワクワク!



 その頃。


———

【いっさん】伊藤健一アンチスレ Part3340


540:名無しさん

【速報】いっさん、謎の美少女に命を救われる。なおその美少女はS級モンスターをグーパンで倒した模様wwwwwwww

———

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る