1 見えない翼
ぼくには翼がある……らしいのだけれど、でも、それは折れていて……。
誰にも見えず、そして、ほとんど誰にも気づかれることがない。。
母さんを除いて……
少なくとも、あの日までは――
生まれたての頃の記憶なんて、禁色の作者じゃあるまいし、まったくもって憶えていない。いちばん遡った昔の記憶は三歳か、二歳か、もっと下か? とにかく風呂上りで身体を拭いてもらっている。そのときに愛おしそうに折れた翼を母さんに触られていたような気がする。
「残念だけど、まぁ、しょうがないわね」
そのとき母さんは和音のような声音で溜息を吐く。
何が残念なのか? 何がしょうがないのか?
ぼくにはまったく不明だし、その記憶も後の脳内再構成で再構築された記憶かもしれないから信頼度は低い。二歳だとすると十二年前で、三歳だとすると十一年前だ。それ以前に翼か、もしくは羽根があったかどうかはわからない。さらに、そのときまでに折れていたのかどうかは、どう考えても確認のしようがない。
もっとも、四、五歳を越えて継続的な記憶が構築された後以降の、そうはいっても断続的&断片的なそれらによると、少なくともその頃には翼は生えていて、かつ折れていたようだ。
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