井上ひさし

 いつの間にか、東京についていた。


「打ち合わせ先は、と」

 

 指定の場所は、普通の公民館だった。

 京橋区民会館。


 たたみの部屋。


「安藤さんは、日本人らしく、たたみの部屋が良い、と存じまして」


 嘘くさい笑顔で、もみ手で、うったえてくる。


 たぶん、金は入るんだろう。

 なにせ、スキャンダルで一度落ちた名子役だった、役者の帰還だ。

 期待度は高く、一般人の興味は移ろいやすい。


 おいで、と、こちらが手招きするより前に、一般人は、こちらを蹴飛ばした。

 愛なんてものは、うつろいやすく、泣き出すんだ。

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