第十二夜 あなたは奴隷、私は主人

 黒猫館の女主人、鮎川直美が監獄に来た途端に場の空気は変わった。

 それまで覇気を感じさせた男性達が従順な態度になって平伏している。

 流石に土下座まではして無かったが、頭を下げて礼をしている。

 一応、この場にいる者達は少なくとも人間として扱われているので、養って貰っている事になる。その最低限の礼儀みたいなものだろう──。

 俺も一応、頭を垂れる。

 恩義は売っておけば、いきなり雄犬にはならないだろうと踏んだ。

 そう──試験はもう始まっているのだ。

 直美様は満足するように微笑み、彼らにやけに優しい言葉を添えた。


「出迎え、ご苦労さま。ここの者達はこれが出来るから良いのよね──」


 そして、俺に厳しい視線を向けると、手枷を持って現れた人に驚愕する──。

 彼女はつい最近、お互いに共犯者だとふざけて逢瀬を重ねたメイドの亜美さんだったのだ──!

 だが、亜美さんはとてもすまなそうな顔で、手枷を持っている。  

 こんな光景は観たくないと、叫びたい衝動を抑えているみたいだ──。

 直美様は冷徹な声で命令する。


「亜美。この男に手枷を掛けなさい。これから選別を開始するわ」

「──そんな」


 そこへ直美様が直ぐ様、平手打ちを亜美さんに喰らわせた。

 その場の男性達は目を逸らす。

 余りにも痛々しい光景に目を逸らすしか無いのだ──。


「口答えするとは生意気な」

「申し訳御座いません! すぐに手枷をします」


 亜美さんは俺の両方の手首に鉄の手枷を着ける。そして直美様に連れられて来たのは、それは異常な光景だった──。

 多数の雄犬と称される若い男達が、あられもない姿で晒されている。一糸まとわぬ恰好で、象徴シンボルが常に勃起していて、喘ぎ、直美様が来た途端、懇願するのだ──セックスを。

 彼らの身体には鞭の痕があった。

 そこは血が滴り、鬱血している。胸板や、腕や、脚、全身にあった──。

 口枷をさせていない辺りに直美様の悪意を感じた。だがここは普通は曲がり通らない世界。

 いや『普通』でいる事こそ、ここでは罪に問われる世界かもしれない──。

 そんな雄犬や畜生がいる所で、直美様はまるで女王陛下の如く、黄金色の玉座に座り、豊満な身体を魅せていた。

 服装は深紅のボンテージ姿。フリルは黒があしらわれた華美なデザイン。下半身には一応、真っ黒な薄いレースのパンティーが穿かれている。

 そこから漏れる愛の蜜が雄犬達に懇願されている理由だろうか。  

 犬らしく舌で慰めれば格上げさせてやるという条件でもありそうだ。

 直美様は手枷を着けられた俺を得意気に観ると質問を飛ばしてきた。


「フフッ、松下さん。何故、御自分がここにいるか判ってらっしゃる?」

「それは──禁忌を犯したからでしょうか?」


 なるべく遠回しな返答はよした。

 率直に自分自身が犯した事を話す。


「そこにいる使用人と愛を交わした。俺の愛を独占するのは鮎川家の皆様だから。でも使用人如きと逢瀬の快楽を交わした。だから赦せない。だからここに落とした」

「正解よ。合格ね」

「少なくともここにいる雄犬どもよりは分別は持っているわね。流石、書生さん」

「ありがとうございます」

「次の質問よ? どうしたら私の怒りは収まると思う?」


 難しい質問がきた。

 まず思いつくのは直美様とのセックスか。

 後は見せしめとして、この観衆の目の前で、亜美さんを嬲る事か。

 後は──何だ? 考えろ。直美様の快楽の出処を──彼女は何をすれば喜ぶ?

 まずは出を窺う。


「あなたと誠心誠意の愛の交換と思います。だけど──それだけでは物足りないでしょうか?」

「流石に難しいわね。この質問は? そうね──半分は当たり。そう──物足りないのよ? たったそれだけなら表の世界でも出来るもの──」

「誠心誠意の愛の交換ですよね」

「ここはそういう『誠心誠意の愛の交換』は無いわ。何せ、表の世界では無いから」


 俺は唾を呑み込んだ。一体、何をさせるんだ──?

 

「ここの雄犬どもに見せつけてあげましょう? 私の、この花びらを愛する男に相応しい男なら出来る筈よ。観衆の面前で私の愛に溺れる事が」

「つまりは──」

「跪きなさい。そのまま」

 

 俺は咄嗟に思い出す。気絶させられる前に確か、同じ事をされた──! それをするんだ──!

 手枷をしたまま両膝をついて、正座する。

 そして、物欲しい目をしてみた。

 そう──あなたの花びらを舌で愛させてください──と目で言ってみせた。

 周囲の雄犬達が、抗議の声を上げる。

 

「ご主人様! 憐れな雄犬にお恵みを──!」

「お恵みをください!」

「ご主人様〜!」


 騒々しくなってきたぞ。だが──直美様は煽るように黒のレースのパンティーの紐を解いた。

 濡れそぼった大輪の花が晒される。

 俺が口をそこへ近づけると更に抗議の声が聞こえた。


「お恵みを──! お恵みを──!!」

「オナニーしますから! ご主人様──!」


 直美様の嗜虐的なと俺の愛欲に飢えたがあった──。

 彼女は頷く。そうよ、それが答え。正解よ──と頷いている。

 そして、傲岸不遜に目の前に立つと俺の舌をその花びらで受け止めた。

 

「ハアッ…ハアッ……ハアッ……直美様──」

「アッ…アッ……アッ……どう? 皆に観られながらする愛の交換──興奮するでしょ──?」

「はい──最高ですよ」

「本当に、松下さんの舌は器用ね──」


 俺は激しく花びらを舐める。花の芯を舌先で弄り、彼女の愛の蜜を飲む。

 打たれた媚薬の効能が出てきた──下半身が焼けるように興奮する──!

 麻布のズボンが盛り上がる。

 直美様の紅いハイヒールが下半身に来ると俺は仰向けに倒れた。

 直美様の美脚が下半身を虐める。

 

「亜美。ズボンを下ろしてあげなさい」

「はい──松下さん、すみません──」


 ズボンが下ろされると俺の滾る下半身が露わになる。強烈な媚薬だ──くそ、早く入れないと収まらない──!

 爪先がそこを器用に触れる。

 異様な興奮が襲ってきた──!

 ああ──もう、口でやって貰っても構わん。

 理性が崩壊して、しまう──。

 

「松下さん。早く、収まって欲しいって感じね。良い顔よ──色っぽくて」

「クッ──」

「どう? 素敵でしょ? 雄犬達に見せつけてあげましょうよ」


 直美様は騎乗位で一気に花びらにそれを受け入れて、周囲の雄犬達が泣き叫ぶ。

 余りにも痛々しく、泣き叫ぶ彼らの前で、俺は、直美様の愛の拷問に耐え忍ぶ。

 雄犬達の汚い愛液が飛び散る中、直美様は恍惚とした表情かおでそれを存分に味わう──。

 

「いい──良いわ! あなたの──硬くて! 弱点を突いて──! 手枷、外してあげる……揉んで……おっぱいを──」


 手枷が外された。俺は手のひらで直美様のふくらみを優しく転がす。

 最早、本能のままに──獣のそれのように──溺れていく──。

 

「首輪──貰えたんだな」


 俺と同じ境遇の男達の監獄へ何とか凱旋した俺の首には、直美様の奴隷の印──黒い首輪が着けられていた──。

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