第20話 後始末
ブーム・ブーム・ブーム
ビル全体に、低音のアラームが鳴り響く。
『おい、旦那ら! 自爆装置が起動されたぞ。早く逃げてくれ!』
地下三階のスピーカーがカチリと音を立て、モヒカンの声が響き渡った。
「お前、逃げていなかったのか。良い根性しているな」
『それどころじゃない! 後、十分でビルがペシャンコになる』
人狼とシスターは顔を見合わせた。
「逃げるのは良いが、彼はどうなる?」
地下を指差したシスターの問いに、礼は頭をガシガシと掻き毟りながら答えた。
「奴が生き血に酔ったら、しばらく手が付けられない。下手に手を出せば、俺でもバラバラにされちまう。酔い疲れたら動かなくなるんだが」
「酔い疲れるのに、どの位かかるんだ?」
「呑んだ量にもよるが後、一時間位じゃないか?」
フムと頷くと、ユリアはエレベーターを指差す。
「つまり爆発を止めるしか選択肢が無い訳だ。管理センターは五階だったな」
シスターに導かれる様に、二人はエレベーターに乗り込んだ。
「逃げろと言ったのに、どうして此処に来るんだ!」
エレベーターが五階に着くと、フロアでモヒカンが待ち構えている。負傷した右腕には、血の染みたタオルが巻き付けられていた。その腕に目を止めたユリアが感心する。
「腕を拘束されていたベルトを、止血帯にするとは考えたな。片手で良く巻けた物だ」
「あの嬢ちゃんがやってくれたんだよ! あの子を連れて、早く逃げろ!」
どうやら地下四階には監視カメラなどが付いてないらしく、地下四階の惨劇も知らないのだ。当然、彼はマロウを少女だと信じて疑っていない。
「どうやらそれが不可能らしいのだ。管理センターから起爆装置を制御できないのか?」
「やってやれねぇ事は無いが、真面にプロテクトを外して行くんじゃあ、時間が足りねぇ。元々、証拠隠滅の為の自爆だから、火薬の量が半端じゃない。爆発時にビルの中に居たら絶対に助からないぞ」
「とりあえず、コンピューターを見せて貰おう。管理センターに案内してくれ」
アラーム音が響き渡る中、三人は走り出した。
管理センターは無人になっていた。床にはネクタイやバンドが転がっている。
「悪いが他の奴らは、解放させてもらった」
モヒカンは横を向いて鼻を鳴らした。痛む腕を抱えながら仲間を救出していたとは、雑魚キャラの割に芯のある男なのであろう。自爆装置起動後もビルに残って、他人を心配しているのもその証だ。
人狼とシスターも肩を竦めて、それ以上追及しなかった。その時間が無かったともいえるのであるが。
管理センターのメインコンピューターに取り付いたシスターは、物凄い速さでキーボードを叩き始めた。
「成程。爆破解体の原理でビルを破壊するのだな」
「最近の美人は、コンピューターの専門家が多いのか?」
それを見て目を丸くするモヒカン。
ユリアは自爆作業解除の操作を行いながらも、建物構造をモヒカンに質問を重ねた。日本の建物は地震などに対応する為、頑丈に作られており内部崩壊をさせにくい構造になっている。ただしこのビルは建築時点から内部崩壊するように、一部の構造が崩れるとドミノ倒しの原理で崩壊する設計になっているようだ。
さらにただ崩壊しただけでは証拠隠滅が難しい為、爆発した後は火災が発生するようになっている事などだ。
「よし。メインの爆薬が埋め込まれている場所を確認した。この場所に行って、私の指示通り起爆装置解体を行って欲しい」
「了解。どこに行けばいい?」
「十階の、この場所なんだが分かるかな」
二十階建てのビルの真ん中を爆風で崩すと、上部の重みで建物が崩壊して行く。崩れた建材などの質量は膨大で地下四階まで、コンクリートと鉄筋で埋め尽くされることになりそうだ。
モヒカンはモニターを覗き込むと、左手だけで器用に頭を抱えた。おそらく幾つもの扉を通過しなければならない、分かりにくい場所だったのだろう。恨めしそうにシスターを睨みつけた後、彼は廊下の方向に首を倒した。
「時間が勿体ねぇ。案内してやるから、俺に付いて来い!」
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