第5話 陰陽師会の集会にて
あの事件から数日後。
私は相変わらずコンビニでバイトをしながら、家に帰ればBL乙女ゲーをやっていた。
そんな時。
陰陽師会の集会が開かれることになった。
全国に散らばる452人の陰陽師。そのうちの約半数が一斉に集まる。200人以上もの陰陽師が集まる会場は異様な空気に包まれている。
だってさ、陰陽師のことなんてテレビや新聞で見ないでしょ?
一応、世間的には秘密の組織だからね。そんな存在がこれだけ集まるんだから。そりゃ異様よね。
そこは研究を発表するような会場で、正面には大きな画面が映し出されていた。
集会には正装というのがルール。
なので全員が
もう慣れてしまったけど、初めて見た時はビビったな。
狩衣といっても中々にカラフルだ。白、黒、紫。茶色や青まである。
陰陽師会では陰陽師のことを僧侶と呼ぶんだけど、普通のお坊さんのイメージとは違うかな。髪型も自由。丸坊主の人なんて皆無だしね。
中には金髪なんて派手な人もいるけど……。
「やぁ。
「どうも……」
やれやれ。
あの夕食依頼、海善さんは私のことを褒めまくる。
ことあるごとに、可愛い、綺麗、と大絶賛だ。
まぁ、チャラい彼にすればそういうのは空気なのだろう。
あまり真に受けず、流すようにしている。
集会には若い女子たちも大勢来ていた。
よって、
「誰あの子? 海善さまと馴れ馴れしいわね」
「えええ。すっごい羨ましい」
「いいなぁ……」
「まさか、恋人じゃないわよね?」
イケメンの海善さんは陰陽師の若い女子たちに大人気なのだ。
あんまり親しくするのはやめて欲しいわ。
ファンに刺されて殉職なんて嫌だからね。
それに、義兄である
彼の側にいるだけで注目の的なのだ。
「ホラ、見て見て。
「キャーー。素敵ぃ」
「凛々しいわぁ♡」
うわぁ。
一緒に歩くの恥ずぅ。
「あの一緒にいる子誰ぇ?」
「え。妹? 全然、似てないじゃない」
「養女なんですって。安倍家のお嬢様ですよ」
「本家にぃ!? 羨ましいーー!」
やれやれ。
羨望というより陰口に聞こえるな。
おや? 庇ってくれたのかな?
こういうさりげない仕草は素直に優しいんだよな。
「
「はいはい。ゲームを我慢してね。パワーポイントにまとめましたよ」
「緊張はしていないか?」
「子供扱いはやめてください」
「緊張する時はな。手の平に人という文字を書いて飲むのがいいらしいぞ」
「それが陰陽師のセリフですか?」
「女子は占いとか魔法が好きじゃないか。お前もそうなんだろ?」
私が好きなのはBL乙女ゲーですよ。
今回のテーマは『進化する呪い』
前回、私が解呪した家族の事件が本題だ。
私が数分で済ましてしまった解呪の技法に注目が集まっているらしい。
当事者である私は、みんなの前で発表することになったのだ。
すげぇ、面倒くさい。
「えーーと。写真2は写真5の時に思いつきまして、呪図を撮りました」
私が説明をしていると質問が飛び交う。
「聞いてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「大量の呪図を焼くのに護摩の準備はどこでされたのでしょう?」
「ああ、今回はしてません。100均のライターで代用しましたから」
「ラ、ライターで……。できるのですか? 呪字の文字数が多いような気がするのですが?」
「ええ、まぁ。
「ど、どうやってそっくりそのまま映し出すのですか? プリントアウトでは不可能なはず」
「えーーと。念を込めて写本します」
「え!? 見て書くだけ!?」
「そうです」
「へ、
「えーーと。なんとなく感覚です」
「す、すごい。どうやって鍛えるのでしょうか?」
好きなアニメキャラを真似して描いてたら自然にできた。模写はアニメーターの基本。とは言えねぇ……。
「まぁ、慣れですよ」
「あ、ありがとうございます」
会場が騒つく。
「護摩だきせずか……」
「斬新だな」
「すごいな」
「写本の修練を積まれたのだろうな」
「日々の研鑽か。見習わなければ」
いやいや。
そんな大したことはしてませんて。
陰陽師の勉強は分厚い本が山のようにあって、それを全部覚えないといけない。
恋愛小説みたいに面白かったら読破しちゃうけどさ。厳粛な表現と漢字の羅列のオンパレード。1ページ読むだけで眠くなっちゃうわよね。
だから、勉強なんかせずにゲームをやってる方が100億倍有意義な時間だわ。やっぱりBL乙女ゲーが最高でしょうよ。
集会は実技の研究披露も行う。
法武術の発表者は
「呪態者は右腕を伸ばして鞭のように攻撃してきました。よって私は風の構えで対応します」
空手のような型をとる。
その所作をみんなが注目していた。
若い女子たちは目がハートだ。
「きゃあ、
「イケメン過ぎでしょ」
「カッコいいわぁあ♡」
やれやれ。
厳粛な陰陽道とはなんなのか?
「では敵の攻撃としてこの木刀を振っていただきましょう。そうだな……。千葉南支部の三善 海善さん。協力よろしいでしょうか?」
おいおい。義兄ちゃんどういうつもりだよ?
海善さんは木刀を持った。
「じゃあ、これを僕が振ればいいんですね?」
「横、一閃で頼む」
「はい」
ブォオオオオオン!!
その一撃は凄まじい勢いだった。
数メートル離れた私の黒髪が風圧で揺れるほどだ。
場内は騒つく。
そんな中、彼は当たり前のように不敵な笑みを浮かべる。
「このように、風の型から凛の姿勢を取れば簡単に躱せます」
なぜか、その視線は私に向けられていた。
はい?
「私なら簡単に躱せてしまうのです」
いや、だからなんで私を見るんだよ。
……も、もしかして褒めて欲しいのか?
しかたないなぁ。
私はコクコクと頷く。
(凄い凄い。流石は義兄さんだ)
これでいい?
彼は満面の笑みだった。
子供か!
「ここまでの習得は日々の修練だからな。本部は支部と違って研鑽を怠らない」
今度は海善さんを挑発する。
おいおい。
ここはそんな場所じゃないですよ?
「呪態者は凶暴だ。その一撃で死亡者が出るほどにな。特にか弱い女性なら一溜まりもないだろう。研鑽を怠れば女性の命はない」
「……その言い振りでは他の型では通じないような言い回しに聞こえますね」
「……私がやった型以外でも攻撃を躱せると?」
「やって見せましょうか?」
そう言って低い姿勢で構える。
義兄さんとは違う構えだ。
今度は
ブォオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
いやいや。強すぎるって!
当たったらどうすんだよ!!
しかし、海善さんはサラリと避けた。
「キャーー! 海善さま素敵ぃいい!!」
「カッコいい!!」
「痺れるぅうう!!」
うわーー。凄い人気。
「今のは地の型から勇の姿勢です。どうです? 躱せたでしょう。千葉南を舐めないでいただきたい」
彼は私を見つめた。
「僕だって女性を守れますから」
はい?
なんで私を見るんだよ。
「守れますから!」
もう一回言ったぁあ!
これは私が認めてあげないといけないヤツなのか?
(はいはい。凄い凄い)
コクコクと頷く。
海善さんは満面の笑み。
子供か!
「さっきの攻撃は本気じゃなかったからな」
「へぇ。そうですか。僕だって本気じゃなかったですよ」
二人ともいいかげんにしろぉ!
結局、司会者が間に入ってなんとかことなきを得たのだった。
面倒臭いなぁ。
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