第7話 光明
新しい能力に気付けたお陰で自分のスキルに少し自信が持てるようになった。
気持ちが上向きになって農作業をなんとかやり抜いた俺は、昼食を待つ列に並んだ。
「よぉ、どうだった刑務作業は」
いつの間にかトキさんが俺の後ろに並んでいた。周囲の人間に怪しまれないようにひっそり会話しよう。
「きつかったですけど、そんなのが吹っ飛ぶくらいのビッグニュースがありますよ」
「なんだ、言ってみろ」
「スキルの性質が掴めてきました」
「よし、俺の見込んだ通りだ。よくやった」
中央のテーブルの真ん中に腰を落ち着けた後、デレクさんを交えて俺のスキルについて詳しい話をした。
「やはり洗脳か」
「妙だとは思ってたんだ。看守の奴ら、あまりにも人間らしい行動をとらねぇからな」
トキさんはフォークの持ち手を握りしめた。
「相も変わらず汚い奴らだ。ここに居る看守たちも恐らく、俺達と似た様な者なんだろう」
「どういうことですか?」
「看守は、365日いつも同じ人間なんだ。家に帰ってるとは思えん。政府にとって都合の悪い人間を放り込んで蓋をしてるんだ」
「そんな…」
国のために働いてきた者を奴隷のように扱うなんて、正気じゃない。俺達を召喚した王家は腐り切ってるのか?
「しかし、これでやるべきことが一つ出来たな」
「なんだよトキ?」
「なんですか?」
「看守全員の状態をカズのスキルで把握する。さっき洗脳の効果は中程度、と出たんだな?」
「はい」
「なら弱と強があってもおかしくない。そこから突破口が開けるかもしれん」
なるほど、効果が弱っている看守の洗脳を解き、脱獄に協力してもらう事も可能かもしれない。
「やってみます」
「任せた。デレクはカズのトレーニングを見てやってくれ」
「もちろんだ」
「え、まだやるんですか?」
「大丈夫だ、じきに慣れる」
んな殺生な!しかしここから出るためだ、負けて堪るか。やり抜いてやる。
「それじゃ、今日は懸垂だな」
「う、頑張ります……」
食堂、通路、運動場。それぞれの場所にいる看守を計測したけれど、洗脳状態が中か強の者だけだった。
恥ずかしながら懸垂は一回も出来なかったので、デレクさんの腕に掴まって斜め懸垂をすることになった。
大木のような安定感だ。本当にこの人は同じ人間か?
「……8、9、10。なんとか10回出来たか」
「ハァ、ええ。デレクさんは何回懸垂できるんですか?」
「そーいや、やったことなかったな。ちょっとやってみっか」
彼は身長が高過ぎるので、一番高い鉄棒に足を曲げてようやくぶら下がることができた。
デレクさんは140㎏を超える体重を物ともせずスムーズに懸垂を繰り返す。
「39、40、41、42……くそっ、限界だ!」
「トキさん、俺もこうなれるんですか……?」
「ま、デレクは少し特別かもな…」
運動時間を終え、俺達は檻の中に帰った。それまでに見かけた看守も、やはり洗脳状態は中以上だった。
「トキさん、今まで行った場所以外にも囚人が行けるところってあるんですか?」
彼は腕立て伏せをしながら質問に答えた。
「ああ、教会に行くことが出来るぞ。夕食後に看守に言えば祈りに行かせてもらえる」
「……なんか、ムカつきますね、それ」
「ああ。出す気はハナから無いのに、祈ることだけは許すとは。上から目線この上ないな」
「夕食が終わったら、叶わぬ祈りを捧げに行ってきますね」
「フッ、お前も言うようになったな」
数時間後、俺は看守に連れられ運動場を突っ切った反対側に向かっていた。円柱状の牢獄が運動場を囲うようにして建っているので、一棟から五棟の内、三棟の方に向かっているようだ。
辺りはすっかり暗くなっているが、薄っすらと向こう側に人影が確認できた。
「おい、ロジャース。あとは頼んだぞ」
「ん?なんだこいつは」
金髪をオールバックに整えた男が振り向いて言った。
「教会に連れて行け」
「珍しいな。了解した」
洗脳状態。効果、弱程度。
「ロジャースさん、ですか。よろしくお願いします」
「気安く話しかけるな。さっさと行くぞ」
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