11本目(3)ネタ『三者面談シミュレーション』
「はい、どーも~凸込笑美で~す」
「屋代智です」
「能美礼明で~す♡」
「因島晴義でござる……」
「倉橋孝太郎で~す!」
「はい、『セトワラ』、今回はこの五人でお届けします、よろしくお願いします~!」
「お願いします!」
会場中に拍手が起こる。拍手が鳴り止んでから五人の真ん中に立つ笑美が話し出す。
「ね~我々高校生じゃないですか?」
「そうね」
礼明が頷く。
「高校生活ってイベントが一杯あると思うんですよ」
「そうだな……」
屋代が腕を組んで頷く。笑美が4人に尋ねる。
「皆は楽しみなイベントある? 屋代先輩は?」
「体育祭はなんだかんだで盛り上がるな……」
「ほう? 礼明ちゃんは?」
「やっぱ文化祭かな~」
「なるほどね~因島くんは?」
「修学旅行でござるな」
「ああ、倉橋くんは?」
「三者面談でしょ!」
「それは楽しんだらアカンやろ⁉」
「そう? もうエンジョイしまくりだよ」
「ホンマに?」
「ホンマ、ホンマ」
倉橋がうんうんと頷く。屋代が眼鏡を触りながら呟く。
「どんなものか、実際にシミュレーションしてみれば良いんじゃないか?」
「シ、シミュレーション?」
「さすが、屋代パイセン!」
倉橋が屋代をビシっと指差す。
「い、いや、ウチはどうせなら、他の学校行事をシミュレーションしたいな……」
「じゃあ、多数決取ればいいじゃない」
礼明の提案に笑美が頷く。
「せやな。それじゃあ、体育祭したい人?」
「……」
「文化祭したい人?」
「………」
「修学旅行したい人? はい」
「…………」
笑美だけが手を挙げる。笑美が目を細めながら続けて問う。
「……三者面談したい人」
「!」
残りの4人がバッと手を挙げる。笑美が声を上げる。
「なんの人気やねん!」
「それでは三者面談のシミュレーションをするか。僕が担任で凸込が生徒の母親だな」
「先輩、勝手に進めてるし!」
「それじゃあ、拙者が生徒を……」
因島が手を挙げる。礼明が続けて手を挙げる。
「ワタシは母親を……」
「母親二人になるやん!」
「いや、生みの母親だから」
「重い設定やな!」
「じゃあ俺はそれを撮影する奴やるわ」
倉橋が端末を取り出す。
「もはやなんの関係もないやんけ!」
「今流行りのSNSで流出させちゃう奴だから」
「そんな流行りに乗るな!」
「よし、シミュレーション開始!」
屋代が声を上げる。笑美が戸惑いながら口を開く。
「せ、先生、うちの晴義なんですが……」
「先日、進路希望調査を第三希望まで書いてもらいました」
「はい……」
「まず第三希望から発表します!」
「そういう形式⁉」
「第三希望、『声優と結婚したい』!」
「何を書いとんねん、アンタは!」
笑美は隣の因島の肩を軽く叩く。屋代が顎をさする。
「ふむ……」
「す、すみません、先生……」
「因島はアニメが好きだったな。そこから声優に興味を持ったんだな?」
「は、はい……」
「それはあくまで声優への漠然とした憧れであって、結婚願望とは違うんじゃないか? 声優なら誰でも良いのか? 結婚とはそういうものじゃないぞ」
「結構マジなダメ出しやめてもらいます⁉」
「……どうしてもというなら、自分も声優になるか、アニメの原作者として成功するか、関連企業に勤めて出世するのが良いだろう……」
「リアルなアドバイスもやめてもらって良いですか⁉」
「良かったわね~晴義ちゃん……」
礼明が涙を拭う。
「そこで生みの母親感出すな!」
「『晴義、声優と結婚を決意する』っと……」
倉橋が端末をいじる。
「そこ! 変なタイトルで動画上げようとすんな!」
「続いて、第二希望! 『制服デートしたい』!」
「だから何を書いとんねん! アンタは!」
笑美が因島の耳を引っ張る。
「や、やっぱり、高校生のうちにしておきたいことでござるから……」
「進路希望調査の意味分かってんのか⁉」
「どこに行きたいんだ?」
「先生、そこ掘り下げます⁉」
「コミケでござるかな……」
「なんかのコスプレみたいになるやろ!」
「制服は冠婚葬祭で使えるから良いわよね~」
「祭にコミケは含まれんやろ!」
笑美が礼明に対し、声を上げる。
「『制服でコミケ行ってみた』っと……」
「だから、動画上げようとすんな!」
端末をいじる倉橋を笑美は注意する。
「それでは、第一希望! ……の前に、『もうすぐ第三希望!』のコーナー!」
「なんやコーナーって!」
「これは今後の第三希望入りが期待される進路を紹介するコーナーです」
「面談の時点である程度絞っておくもんでしょ⁉」
「え~『大学進学』!」
「なんでそれが入ってへんねん!」
笑美が因島の頬をつねる。
「お待たせしました……それでは第一希望! ドゥルドゥルドゥル……」
「口で効果音入れんな」
「ドキドキ……」
「そんなドキドキせんでええねん」
笑美が胸を抑える礼明に呆れる。
「あ、先生、効果音は後で編集しときますから」
「編集とかすんな、そもそも撮影すんな!」
倉橋に対し、笑美が声を上げる。
「『ユーチューバーになりたい』!」
「高校生やろ! アホなキッズか!」
笑美が因島の側頭部を叩く。屋代がたしなめる。
「お母さん、あんまり暴力は良くないですよ……」
「引っぱたきたくもなるでしょう⁉」
「すみません~昔からカッとなると手が出ちゃう子で……」
礼明が笑美の頭を優しく撫でる。
「生みの母親って、ウチの母親ってこと⁉」
笑美が驚く。
「お母さん、過度の暴力はコンプラに引っかかる恐れがあるっす……」
「アンタはとにかく撮影をやめろ!」
笑美が倉橋に対して叫ぶ。
「……母上殿!」
因島が大きな声を上げる。笑美が戸惑う。
「な、なんや……」
「拙者、ユーチューバーとして成功する確固たるビジョンがあるでござる!」
「ええ……」
「これをやれば大バズり間違いなしな動画プランを聞いて欲しいでござる!」
「……一応、聞くだけ聞いておこうか」
「『初心者だけど、全財産をFX投資してみた』」
「破滅の匂いしかせえへんわ!」
「……うむ、やはりシミュレーションはしておくべきものだな」
「そうでござるな……危うく全財産溶かすところでござった……」
「シミュレーションするまでもないのよ!」
「やあ、笑美……」
「な、なんや、誰や?」
「笑美ちゃん、撮影してくれたのは貴女の実の父親よ」
「さらに重い設定になっとる! エンジョイというか炎上しそう! って、もうええわ!」
「「「「「どうも、ありがとうございました!」」」」」
笑美と屋代と礼明と因島と倉橋がステージ中央で揃って頭を下げる。
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