7本目(1)浮足立つ

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「六甲おろしに颯爽と~♪」


 笑美が歌を口ずさみながら廊下を歩く。歌を歌い終えるころにちょうど部室の前にたどり着いた。


「~~」


 何やら話し声が聞こえる。笑美は元気よくドアを開く。


「皆、おはようさん!」


「医学に興味はないかい?」


「……」


「かくいう僕は医者を志していてね……」


 屋代が眼鏡を外して髪をかき上げる。


「野球に興味は無いっすか⁉」


「………」


「実は自分は野球部で、しかおエースで4番を任されていまして……!」


 江田がボディビルダ―のようにポーズを決める。


「え、江田、割り込むな!」


 屋代が江田に対し声を上げる。


「いや、ちょっとポーズを取っただけっすよ?」


「人のことを突き飛ばしているじゃないか!」


「あ、それは申し訳ないっす……」


 江田が屋代に頭を下げる。


「わ、分かれば良い……」


「ふん!」


 再度江田がポーズを取る。


「い、いや、だから邪魔をするな!」


「ねえ、SNSやってる?」


「…………」


「これ、ワタシのRANEのID!」


 礼明が端末を差し出す。


「あ、礼明ちゃん、ズルい!」


「こういうのは早い者勝ちでしょ?」


「なによそれ」


「そういうものなのよ!」


「よく分からないけど……ねえ、一緒に写真を撮らない?」


「……………」


「映えるし、バズると思うのよね~」


「ちょっと礼光ちゃん、なにをダシにしようとしてんのよ!」


「だから許可を取っているじゃないの」


 礼明に対し、礼光が唇を尖らせる。


「二次元に興味はないでござるか⁉」


「……………」


「拙者の今季のおすすめアニメは……!」


 因島が端末を取り出す。


「因島~オタクの悪い所が思いっきり出ているぜ~?」


 倉橋が笑う。因島がムッとする。


「む……」


「ねえ? 俺と遊びに行かない? 隣の島で良い感じのカフェ知ってんだよね~」


 倉橋が右手の親指を窓の外に向ける。因島が声を上げる。


「く、倉橋殿! チャラ男の悪い所が出ているでござるぞ!」


「チャラ男に悪い所なんてねえよ。例え俺に仮にあったとしても……」


「あったとしても?」


「……それはむしろ長所だ」


「ど、どういう理屈でござるか⁉」


「……これはなんの騒ぎや?」


 笑美が司に尋ねる。


「あ、笑美さん、実は……」


「実は?」


「入部希望者が来てくれまして……」


「え! ホンマか⁉」


「ホンマです」


「はは~ん、それでその子を取り囲んでいるっていう状況やな……」


「さすが、その通りです。ただ……」


「ただ?」


「女子なので、皆浮足立ってしまって……」


「は⁉」


「どうかしましたか?」


「どうかしたも高架下もあるか! そもそもウチという者が居りながら、何をチヤホヤしとんねん! ええい、どけ、どけ! ……⁉」


「……あら?」


 部員たちをかき分けた先には窓際の席で優雅に紅茶を飲む女子がいた。


「だ、誰やねん⁉」


 笑美が驚く。

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