第10話 言葉には気を付けて
(どうしてレベルが上がったんだろう?)
頭上に表示されるざまぁレベルを見上げながら、春は思考を重ねる。
ざまぁレベルは2に上がっている。何度も春が確認しても、その事実は変わらなかった。
「どうしたのよ。難しい顔して」
隣に並んで歩く、天が不満そうに唇を尖らせた。眼中に無いと勘違いしたのだろうか。
「な、何でもないよ。ちょっと気が抜けてた」
微細な気分の変化を察し、春は視線を天へ移した。安堵させるように、作り笑いも浮かべて見せた。
「あたしと一緒にいるのに呆然とするなんていい度胸じゃない」
クセなのか、胸の前で天は両腕をクロスさせた。スタイリッシュなためか、その格好が妙に様になる。
「ごめんごめん。気を付けるよ」
いつものように進んで春が謝った。
ここで反抗すれば争いの元になる。その基本法則を若いながら春は理解する。
幼稚園の頃に、天と何度も喧嘩した結果、獲得した教訓だ。
(それにしても分からないな~。どんな条件でレベルアップしたんだろう?これを知れば、劇的に今後の行動が変わるんだけどな)
素直に謝りつつも、再び春は思考を進めた。しかも、今度は天に感づかれないように、前方を見つめながら。
春は中々のメンタルの持ち主だった。
(とにかく様子見だな。これだけ考えても閃かなければな。それに、またレベルアップすれば得られる知見もあるかもしれない)
自身を諭すように言い聞かせ、春は再度ざまぁレベルを確認した。
何らかの条件を満たし、経験値を獲得してからレベルアップした。未だにその快感が春の心を支配していた。
(経験値を満たしてレベルがアップするって。RPGのゲームみたいだ。それにレベルアップしたことで不思議と成長した感覚が味わえたんだよな~)
嬉しさと達成感から、胸中にて春はだらしない笑みを浮かべてしまう。その笑顔はそれらの感情から沸き上がった。
中学や高校において、これといった成長や達成感を経験しなかった春にとって、今日の出来事はこの上ない至福であった。さらに、あのレベルアップした合図を示す音も春の耳奥に深く刻み込まれる。何時間か聞きたい気分だった。
「ちょっとごめん。携帯に通知が入った」
1度断ってから、制服のポケットから天はスマートフォンを取り出した。
敢えて立ち止まり、スマートフォンをいじり始めた。ここに天の真面目さが垣間見えた。
「了解。歩きスマホせずに止まるんだよな?」
正解の自身はあったが、念のため春は確認した。
「……そう。正解…」
携帯に意識を集中させながらも、小さく天は首肯した。
天の真隣で、春は立ち止まった。
数回ほどスマートフォンの画面をタップし、天は薄く笑うように息を吐いた。スマートフォンに嬉しい通知が到着したことは明確だった。
「どうしたの?スマートフォンを見つめがら笑ったりして。ちょっとやばい奴に見えたよ」
率直な感想を春は天へぶつけた。
先ほどから春はスマートフォンの内容が気になっていた。
春はどこもかしこもに注意が行く体質だった。
隣にスマートフォンやパソコンを操作する人間がいたら、バレないように中身を覗き込むのをしばしばだった。
生憎、今回は相手が天なため醜い行動は取らなかった。
「な!?やばい奴ってなによ!幼馴染なんだからもっと言葉を選びなさいよ!」
スマホから一瞬で目を放し、不機嫌そうに天は睨み付けた。
「それにあたしはやばい奴じゃないからね!断じて違うから!変人扱いはNGだから!!」
やばい奴扱いされたのが気に食わなかったのだろう。天は猛抗議した。
「そ、そうなんだ。本当に。なんかごめんね」
あまりの剣幕に気圧され、虚をつかれた感覚を味わった。
そのため、咄嗟に春は歯切れの悪い返事しかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます