第28話

 ハーレムアニメに憧れた時期が俺にもありました。

 真田と清水が俺を取り合う。


「蘭童くん。一緒に帰ろ」


「蘭童! 帰るよ」


 ぐいぐいと二人が腕を取る。

 ふう、ヤレヤレだぜ……。

 ヤレヤレ系主人公を気取ってみたが根本的解決になってない。

 ラブコメアニメならラッキースケベか新キャラ登場で場面が展開するところである。

 ……ラッキースケベくん、君には期待してるよ。

 ごほん。そもそもだ。

 清水はわかる。なぜに真田が対抗してる?


「一緒に帰れば……」


 二人ににらまれた。

 下駄箱を抜けて正門に行くと東京のオシャレなスポットにいそうなお姉さんが見えた。

 埼玉人がマネしようとすると悲惨な結果になるやつだ。

 そしてその横にはスウェット姿のチャラ男くんにNTRされそうな眼鏡地味子さんが。

 少し丸い。一番エロいやつだ。

 ちょうどいいブスなんて言葉は許さない。

 眼鏡地味子さんは貴重な資源。

 チャラ男になんか渡さない。


「こんにちは」


 地味子さんが少年っぽいアニメ声を出す。

 この声だけで堕ちる男多いな。


「君が蘭童くん?」


 東京お姉さんが声をかけてくる。

 こちらもアニメ声。

 なんだろう。文学少女風。

 紫苑のような紛い物じゃない声。

 声優さんかな?

 でも聞いたことある声だな。

 まさかの新キャラ来た。

 ラッキースケベくん、君にはがっかりだ。失望したよ!!!


「そうっすけど」


「うちらスターライトの社員。乗って」


「あ、ちょって待ってください。マネちゃんと紫苑に確認とるんで」


 真田と清水の前で電話する。

 清水は恐ろしくい悪い顔をしていた。

 く、清水はスターライトの見習いだった!!!

 マネちゃんに電話する。

 すぐに出てくれた。


「なんかスターライトの社員って人が来たんですけど」


「写真送って」


 いったん電話を切って二人の許可をもらって写真を送る。


「柴田モカと羽柴リンちゃんよ……なにしてんだあんたら!!!」


 なん……だと。

 陰キャ人見知り少女系のモカ様が東京お姉さんで。

 陽キャパリピ短髪スポーツ少女のリン様が地味子さん……だと!

 なお雲の上の存在なので様をつけている。

 ミランダも本来なら【様】なのであるが、マーライオンしたので呼び捨て決定。

 東京お姉さん、モカ様の方が上機嫌で言った。


「だって紫苑の彼氏見たいじゃん!」


「かかかかかか、彼氏ぃ!!! ちょっと、蘭童」


 落ち着け真田。


「違う。幼馴染みバカが嘘を吹聴しただけだ」


 はっきり言うがあのダメ人間おっぱい

 学校内どころか他校や中学生までが憧れてる高嶺の花だぞ。

 しかも大人気Vだ。

 幼馴染みだから相手にされてるだけだぞ。

 幼馴染み枠じゃなければ、この女みたいな顔を活かすこともできなかったわけである。

 なーにがストーカーバトルじゃい。

 紫苑がいなければ清水とはクラスメイト止まりだったわけだ。

 相手にされないのは俺の方じゃい。

 お姉さんぶってからかってるだけだ。

 くっそ、もっとがんばって認めさせてやる!


「蘭童くん、これから事務所行こ」


 モカ様が言った。


「うす、清水行くぞ」


「がってんだ」


「ちょっと知らない人について行っちゃダメだって」


「いや仕事関係の人」


「仕事?」


「親父の職場。観光協会関係がらみ」


「なんで清水さんが行くのよ」


「清水は見習いで手伝ってるの」


「うむ、下っ端。えっへん!」


 威張るな。

 お前は運の力で奇跡を起こしただけだからな。


「じゃ、悪いな。真田。行くわ」


「チャオ」


 そのまま清水と車に乗り込む。

 自動車には詳しくないが、これ最新機種の電気自動車じゃないか?

 クッソ高いヤツ。

 運転はモカ様。

 大学生くらいなのに、なれた手つきで運転する。

 発進すると清水がぼそっと言った。


「蘭童くん安心して。例え誘拐でも車にGPSタグ貼り付けたから。スターライトも位置を把握してる」


「手癖悪すぎんだよお前」


 それは冗談としても、普通に見たことのある道。

 事務所への通り道だった。

 本当に事務所へ向かうのだ。


「えっちな漫画ならこのまま……」


「続き言うなよ」


 思春期に侵された脳で俺も一瞬考えた。

 だがやめろ。

 お前はまだ恥じらいがあっていい年頃だ。


「ところでだ……蘭童くん」


 モカ様が話かけてくる。


「BLに興味はないかね?」


「帰っていいですか?」


 モカ様から【様】を没収決定。


「もう、ダメだよ~」


 そうだそうだ!

 リン様もっと言え!


「ところで蘭童くん。バニー着てくれないかな?」


「あ、紫苑。変な二人に拉致された」


「いきなり通報した!」


「うっさいわ! なにがバニーじゃい!!!」


「違う! 私はやましいことなんて考えてない! 美少年のバニーが見たかっただけだ!!!」


「あ、マネージャーさん。変態に拉致されました」


「またもや通報!!!」


「紫苑もマネちゃんもすぐ来てくれるって」


「血も涙もない!!!」


 ギャーギャー騒いでいると事務所に到着。

 すると鬼の形相のマネちゃんと紫苑がいた。


「きーさーまーらー!」


「ま、待てって! 私らは蘭童くんにバニーを着せたかっただけで!!! 決して期待の新人を見たかったわけじゃない!!!」


「本音がダダ漏れになってる!!!」


 モカのダメ人間宣言。


「そうだよ! BLのシーンを再現してほしかっただけなの!!! 決してコラボが楽しみだったからじゃないのよ!!!」


 リンも負けじとダメ人間発言。

 こっちも本音ダダ漏れである。

 すると紫苑が言った。


「ダメじゃない! 私だって我慢してるんだから!!! バニーさん!!!」


「紫苑。お前にはがっかりだ」


「ひどい!!!」


「蘭童くん、私だけは味方」


 清水はフンスと鼻息を荒くする。


「いやお前、ストーカーじゃんか」


「事務所公認ストーカー!!!」


 ……なぜだ!

 なぜだ、ラッキースケベよ!

 なぜ貴様はいまここで静観してる!

 貴様にはがっかりだ!!!


「聞いて、けんちゃん。ほとんどの女の子はね。美少年にコスプレしてもらえないの? わかる?」


「わかってたまるか!」


 いつもの茶番をしてるとマネちゃんが俺たちを事務所に引っ張っていく。


「はいはーい。近所迷惑ですからね~事務所でお願いします~」


 一番強いのマネちゃんじゃね?

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