〜金ランククエスト・九尾狐討伐〜

〜金ランククエスト・九尾狐討伐〜

 

 私は山間エリアにいた鉄ランク冒険者に声をかけ、新種のモンスター発見報告を王都の受付嬢に渡してもらう手配をする。

 森林エリアや火山エリアと違い、ここには鉄ランクの冒険者も普通に訪れる。

 報告する討伐難易度は仮で金ランクにした、能力の詳細は不明。


 とりあえずは変化能力と再生能力の記載だけはしておいた。

 仮説なら立っている、しかし根拠を用意しなければ説得力が無い。

 この教えは私が受付嬢になったばかりの時、私のアドバイスに誰も聞き耳を持ってもらえなくて落ち込んでいた時にメル先輩に教わった教えだ。


 当時はゲームの知恵とかを活かして、なんの実験もせずに予想だけで冒険者にアドバイスをしていたが、誰も話を聞いてくれななった。

 私の言う事を聞けば、もっと楽にモンスターを倒せるはずなのに………


 当時の私はそう思いながら一人やけ食いをしていた。

 そんな時に、メル先輩は優しく教えてくれた。


 『セリナったらまたオムライスそんなに食べて! また冒険者と喧嘩したの?』

 『はい! あいつら、私の言う作戦を理想論だとか常識外れだとか言って聞く耳持たないんです!』

 私はオムライス三皿を平らげて不満をぶちまけるようにメル先輩に愚痴った。

 でもメル先輩は優しくクスリと笑いながらアドバイスをくれた。


 『冒険者さん達もきっと悪気はないと思うの、だってあの人達は命懸けでモンスターと戦ってるのよ? 一つの判断ミスが命取りになりかねない、誰でも臆病になるわよ。 冒険者はみんな用心深いの』

 『それは、そうかもしれないですけど。 でもやってみなきゃわかんないじゃないですか、チャレンジしなきゃ成功はしないんです!』

 『じゃああなただったらどう? 命懸けの仕事に、たぶんとかもしかしたらって言う不確定要素の多い作戦、普通にできそう?』

 『………ムリです、怖いです』

 ド正論だ、そう思った私はむすっとした顔でそっぽを向いた。

 しかしそんな私を見ておかしそうに鼻を鳴らすメル先輩。


 『だよね? あなたの作戦が本当にうまくいけば画期的よ? あなたの発想力は群を抜いてる、だからこそ私はあなたの考えた作戦は試してもらいたいと思う。 だから実行してもらうために自信を持ってお勧めできる根拠を用意しなさい? 臆病な冒険者達でも、その情報なら確かにできそうだ。 そう思うような根拠を………』

 おバカだった頃の私を思い出し、少し吹き出してしまう。


 メル先輩のあのアドバイスを受けた私はその後ぐんぐん成績を上げた。

 当時上級モンスターだった両断蟷螂コプマット鋼鉄兵器アシルジュエは私の策が広まって中級モンスターに格下げされた。

 中級モンスターだった鋼鉄亀ミネルトルシュも誰でも倒せるようになってしまったため下級モンスターになった。

 メル先輩のあの日の言葉は今でも大切にしている。

 

 

 

 山間エリアの拠点に撤退した後、私のわがままを冒険者達は快く受け入れてくれた。

 九尾狐ネフクルナルドを倒してメル先輩を勇気づけ、昔みたいなすごい受付嬢に戻したい。

 そんな願いを皆は笑顔で受け入れてくれた。


 メル先輩も、しばらく見ていなかった満面の笑みを見せてくれた。

 ならば、私は全力を出す。


 そして万全の体制を整えるため、冒険者と私達は数分間の準備期間を設けた。

 私はその準備期間、ありとあらゆる道具を用意しながら思案を巡らせる。


 ここまでの戦闘はほんの少しだけだったが、変化能力に縛りがある事は予想がついている。

 なんせ角雷馬コルシュトネールは雷を纏っていなかったし、両断蟷螂の鎌は一部だけだった。


 これだけでも予想は色々とできる。

 あくまで予想だ、これに根拠を用意するためには一つ明らかにしなければいけないことがある。

 しかしこれを明らかにすれば、またメル先輩を傷つけるかもしれない………。


 だとしても、後で後悔するのはもっと嫌だ、みんなを危険に晒すわけには行かない。

 覚悟を決めてみんなの元に向かう。


 「皆さん、私のわがままを聞いていただいた事、改めてお礼申し上げます。 それと一つ、伝えたいことがあります」

 メル先輩や冒険者達は小さく頷き、真剣な視線を私に集める。


 「あの新種モンスター、仮に九尾狐と呼称します。 奴の変化には制限があると思われます。 しかしこれは私の予測です、だから根拠を得るために………メル先輩には確認しないといけないことがあります」

 心臓の鼓動が嫌に高鳴る、これからメル先輩に確認しようとしてる事は残酷な事。

 聞くのはかなり勇気がいる。 だけど、もしこの情報が奴を倒すためになるのなら………


 「メル先輩。 山間エリアで亡くなった、リューカさん達のパーティーが装備していた物は………覚えて、いますか?」

 その場の空気が凍るように静まる。


 「セリナさん! それは本当に必要な情報なのか? そんな事を聞いて何の意味が………」

 「ちょっと待て虞離瀬凛!」「セリナさんは意味がない事はしない!」「理由があるはずだ!」「黙って聞いてろ!」

 いきどお虞離瀬凛グリセリンさんを慌てて止める双子さん。

 私だってこんな事聞きたくない。 言わせたくない………


 しかし気づいてしまったんだ、角雷馬コルシュトネールに変化したあいつが雷を纏っていなかった理由、両断蟷螂の鎌は一部だけだった理由に。

 うっむき、虞離瀬凛さんの罵倒ばとうに対して何も言い返さずに聞いていた。

 そんな私の肩に、メル先輩は優しく手を添えてくれた。


 「根拠が、必要なんだよね?」

 その一言を、その声音こわねを聞いた私は勢いよく顔を上げ、メル先輩の顔を見る。


 彼女の目には迷いはなかった、透き通ったきれいな黄色。

 トパーズのようにキラキラした瞳をしていた。

 まるであの頃のような、イキイキした瞳。


 「リューカさんは銀ランク冒険者でした。 彼らの装備は全身に角雷馬の毛皮をなめした革鎧、そして角を加工した片手剣。 仲間の方は両断蟷螂の鎌を加工した武器………。 なるほどね、よく気づいたねセリナ! 本当にあなたは天才だわ! そして、ものすごく優しい。 こんな私に気を使ってくれてありがとう。 だけど私もあなたのあの一言で目が覚めたの、数分前の………最下位で落ちこぼれだった私とは違う! あなたの考えた作戦を根拠付けるためなら、何でも聞いて!」


 笑顔で私の肩を強く握るメル先輩。

 あぁ、私はまたメル先輩に元気つけられてしまった。

 私はほんの少し口角を上げる。


 「奴の能力、変化の方はほぼ分かりました、再生能力に関しても対策があります! 他にも能力が隠されてるかもしれません! 気合い入れていきますよ!」

 冒険者達は拠点全体が震えるような声で私に応えた。

 

 

 

 山間エリアの奥にある廃城付近には、謎に包まれた事件が多かった。

 討伐されたはずのモンスターが、回収に行く頃には

 亡くなった冒険者の亡骸は、しか見つからなかったり。


 謎のモンスターによる襲撃報告と被害。

 そして今回、縄張り外のモンスター発見報告。

 その謎は今、私の言葉で解明される事になった。


 「食したものに………変化する能力」

 それは、唖然あぜんとするぬらぬらさんの言葉だった。


 「おかしいと思ったんです、念力猿プシコキネージュは山間エリアで発見報告があるので不思議ではありません、しかしさっきの戦い。 雷を纏わない角雷馬に鎌だけの両断蟷螂。 被害に遭った冒険者がどのくらいいるのか分かりませんが、もしかしたら他のモンスターの擬態も考えられます」

 そう、中途半端な変化は魔物の素材を加工した武具を食したから。


 全身角雷馬の鎧を着ていたリューカさんの遺体は発見された時、鎧をつけている部位だけが食いちぎられたように無くなっていたのだ。

 他の二人は遺体はあったが武器は無くなっていた。


 二人の武器は、両断蟷螂の鎌を加工した武器。

 他にも半年ほど前に討伐された念力猿の遺体は、討伐報告のあった場所に行っても見つからなかったらしい。

 討伐した金ランク冒険者達は素材を手に入れられなくて損をしていた。

 全部廃城付近で起きた事………となれば


 「これから戦う九尾狐は、山間エリアに生息する厄介なモンスターの能力を使ってくるでしょう、鋼鉄兵器や鉄針鼠ラフェルエギーユ。 おそらく念力猿は遺体丸ごと摂取している事から、その能力も使えるでしょう」

 私の話を聞いた全員が静まり返った。


 「ですが、最初から分かっている状態で戦う今と、何もわからずに戦っていたさっきとは全然違います。 私はこのメンバーなら賞賛があると思ったからこそわがままを言ってしまいました。 なので対策ももちろん立てています」

 「あの、一瞬の戦いで? そこまで見抜いたのかよ?」

 恐る恐る聞いてきたのはシュプリムさんだった。


 「メル先輩が協力してくれたから分かったんです、一瞬ではありません」

 私がシュプリムさんの一言に付け足すと、申し訳なさそうな顔をする虞離瀬凛さんが横目に映った。

 しかし私の担当冒険者達は、先ほどの仮説を聞いた瞬間各々が奮い立ち始める。


 「………なんて末恐ろしいお嬢さんなんだ。 僕はもう、全身鳥肌が立ってしまったよ」

 「セリナさんがいれば!」「百人力!」「違うぞ弟よ!」「ああ、間違えたね兄さん!」「「万人力だぁぁぁ!」」

 「双子さん、うるさいですよ? 褒めるなら普通に褒めて下さい!」

 私は褒め称えられて少し調子に乗り始める。


 「セリナ、クルルさんにも言われたでしょ? あなたのすぐに調子に乗っちゃうところ、治しなさいって! でも、今日は存分に調子に乗りなさい! あなたは天才よ、私に一歩踏み出す勇気をくれた恩人よ! 今の私にできる事があるのなら、存分にサポートさせて!」

 メル先輩の目はイキイキしている、天才受付嬢が二人で指揮を取るんだ。


 あのモンスターはもう逃げられないだろう。

 自画自賛かもしれないが、今の私は誰にも負ける気がしないのだから仕方がないじゃないか。

 だって私は、憧れのメル先輩に教わった事を、しっかり守ってここまで上り詰めたのだから………

 

 

 

 山間エリア廃城付近に到着した。

 すると後ろから虞離瀬凛さんが静かに私のそばにやってくる。


 「セリナさん、先程の無礼をどうかお許し下さい。 私はあなたにとんでもなく愚かな事を………」

 申し訳なさそうに俯く虞離瀬凛さんに向けて、ばっと指を刺す。


 「冒険者なら! 失態は活躍で打ち消すべし! ちにみに、私はちっとも怒っていませんが! 今回はこき使わせてもらいますから覚悟すべし!」

 私のキザったらしい言葉に虞離瀬凛さんは微笑む。


 「私はあなたを尊敬します、ぜひ! こき使っていただきたい! 全力で答えて見せましょう!」

 ぐっと拳を握り、イキイキとした表情で答える虞離瀬凛さん。

 私は虞離瀬凛さんから視線を逸らしながら、ぼそりと呟く。


 「まぁ、メル先輩の次に尊敬してますって言われてたら、感動してしまったかもしれませんが!」

 「ふふ、意地の悪いお方だ。 ツンデレ、と言う奴ですな?」

 ………なんて?


 ツンデレはキャリーム先輩だけで充分だぞ!

 そう思っている矢先にシュプリムさんが騒ぎ出す。


 「あっおい見ろよ! こんな所に腰掛けられそうな岩があるぜ!」

 騒ぎ出したシュプリムさんの声を聞き、私はすぐぴりからさんに目配せした。


 さっきも同じように変わった形の岩を指差していた、その時は九尾狐が擬態してるなんて思いもしなかったが………

 今ならわかる、きっとこの腰掛けられそうな岩の正体は………


 「ぴりからさん!」

 「言われずとも承知しているよ、お嬢さん?」

 私がお願いする前に、シュプリムさんの指差した岩を、ぴりからさんは撃ち抜いた。


 ………え? 撃ち抜いた?


 「あぁ! おいなにすんだよ! 腰掛けて休もうとしてたのに! 急に発砲するなんて、どうしちまったのさ!」


 絶句。


 全員、ゴミを見るような目をシュプリムさんに向けた。


 「え、なに? 何でみんな怖い顔してんの? ちょっ、ぬらぬらさん? 何でにじり寄ってくんのさ! 怖い! 怖いからこっち来ないで!」

 怯えるシュプリムさんにゆっくりと近づいていくぬらぬらさん。


 「あなたの罪、それは精神統一している私達の心を、悪戯に乱した事です。 天誅!」

 「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」

 ………空気読め、シュプリム。

 

 ぬらぬらさんのお説教は長々と続き、シュプリムは九尾狐を発見するまで発語を禁止された。

 そんな事をしていると、先程戦闘があった所に到着する。

 しかしいじけているシュプリムさんは反応を示さなかった。


 「別行動で探すのは」「すごく危険!」

 双子さんの言う通り、相手がなにに変化してるかわからない以上別れて探すのは危険だ。

 しかし廃城付近は範囲も広く、高低差もあるため探すだけでもかなり時間がかかってしまう。

 ならばいっそ………


 「準備を整えて待ち伏せしましょう、ここは開けていて戦いやすいですし」

 と、私は提案した。


 九尾狐討伐の為の作戦はさまざまな下準備もある、月光熊リュヌウルスみたいに皮膚が硬いモンスターに変化される可能性も考えて、今回もいろんな道具を持ってきた。

 しかし問題は誘い出す方法だ………


 「誘い出すために途中で狩った鉄針鼠を使うのはどうでしょう? こいつの肉は意外とタンパク質も豊富です」

 虞離瀬凛さんの提案を聞いたレミスさんが、ニヤリと口角を上げたのが見えた。


 「タンパク質関係なくないですか? それに鉄針鼠のおは…」

 「食べ、いかもしれないですねぇ〜。 あらあらレミスさん、ふくれっ面もかわいいですよ?」

 レミスさんのセリフを先取りした私。

 無論私は、頬を膨らませたレミスさんに、背中をぽかぽか叩かれた。

 

 数分後、下準備を終えた私達は鉄針鼠の遺体を放置して、離れたところで息を潜めて待っていた。

 案の定、二十分くらい待ったら別の鉄針鼠がテクテク歩いてきて、放置された鉄針鼠の遺体に近づく。


 「おい見ろよ! あの鉄針鼠、なんか変だぞ!」

 数分ぶりにシュプリムさんが口を開いた。


 それを合図にレミスさんとぴりからさんは、歩いてくる鉄針鼠に同時攻撃をした。

 すると攻撃が当たる寸前で鉄針鼠はぐにゃりと歪む。


 「来たぞ! 手筈通りに!」

 前線に飛び出す虞離瀬凛さん。


 続いてシュプリムさん、ぬらぬらさんも飛び出す。

 それを合図に私は、バックに入れた箱を慎重に取り出す。


 「ぴりからさん! この鉛玉は確実に当てられる時に撃ってくださいね!」

 私はぴりからさんに箱から取り出した数発分の実弾を、落とさないように気をつけて渡す。


 ぴりからさんは普段、虎宝さんやガルシアさんと同じく、障壁魔法を応用した魔力弾を使う。

 魔力弾は魔力を物質化させるので経済的にもいいし、弓ならすぐに撃てたり魔法を使っての細工がしやすい。

 ぴりからさんの跳弾なんかも魔力弾だから威力も殺さずにできる事らしい。


 しかし私が渡したのは、とある細工を施した鉛玉。

 これは実弾のため跳弾させられない、外したら少し厄介なため撃つタイミングは彼女に一任させてある。


 「お嬢さんに貰ったからには、外すわけにはいかないねぇ」

 と、全身ピンクの甘々な格好をしたぴりからさんは、私にウインクしながらかっこよく宣言した。

 この人、ほんと見た目のパンチ力が半端ないな。 と、改めて思ってしまった。


 九尾狐は次々と姿を変えながら前線の冒険者の猛攻に対応している。

 前足だけ両断蟷螂の鎌にしたり………

 背中に回られた時は鉄針鼠の鉄針を背中から伸ばしたり………

 角雷馬に変化しての高速ステップで連携攻撃をかわしたりと、器用にモンスターの特徴を使い分けている。


 しかし対応している冒険者達はかなりの手練れ揃い。

 一進一退の攻防が続く中、攻撃のチャンスが訪れる。

 あらかじめ準備していた、粘着液を塗ったワイヤートラップに九尾狐の足が取られる。


 九尾狐は九つの尾の内一本を鎌に変えて咄嗟にワイヤーを切り裂くも、その一瞬をぴりからさんは見逃さなかった。

 私がついさっき渡した鉛玉。 その鉛玉を一気に五発命中させる。


 「ふぅ〜、僕の華麗な銃捌きに酔わないでくれよ? お嬢さん」

 そんな事を言いながらかっこよくポージングする全身ピンクのロリータ娘。

 銃弾を受けた九尾狐は傷を即座に再生するが………


 再生し終わったにも関わらず、途端に苦しみ出す。

 私が渡したのはただの鉛玉ではない。

 猛毒を仕込んだ鉛玉、九尾狐はその猛毒を体内に残したまま傷を再生したのだ。


 「おやおや、苦しそうに泣くじゃないか。 今楽にしてあげるからね? あでゅ〜」

 そんな事を言いながら魔力弾を連射するぴりからさん。


 数十発の魔力弾は跳弾を繰り返し、全方角から九尾狐を襲うかと思われた。

 しかし九尾狐はぐにゃりと姿を変え、魔力弾が着弾する寸前で全て静止させた。


 「………えっ?」

 思わず声を漏らすぴりからさん。


 九尾狐の周囲で時間が止まったかのように静止する魔力弾。

 私も目の前の光景を信じられずに目を擦る。


 「念力猿に変化したんだ! 反撃がくるぞ! 全員俺の後ろに伏せろ!」

 虞離瀬凛さんが叫び、前衛はすぐに虞離瀬凛さんの後ろに回る。


 念力猿の使う能力、念力によって魔力弾は全て当たる直前で静止。

 そして相手の武器になってしまったのだ。

 反撃とばかりに念力を使い、大量の魔力弾を虞離瀬凛さんに集中させる。

 魔力弾の雨は虞離瀬凛さんの巨大な盾を少しずつ破壊し、かけた大楯の隙間からすり抜けた魔力弾が右脇腹に命中して鎧を砕いた。


 「念力で飛ばしているはずでしょ? なによあの威力!」

 レミスさんは思わず叫ぶ。


 魔力弾の反撃を喰らった虞離瀬凛さんが膝をつき、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 念力で飛ばされた魔力弾の威力は計り知れない。

 しかしおかしいのはそれ以前の問題だ!


 「毒が回っているはずです! あの毒は猛毒怪鳥ポワゾンドゥールの臓器から抽出した毒! 上級モンスターでも普通に動けるはずありません!」

 私は思わず叫んだ。


 猛毒怪鳥【ポワゾンドゥール】金ランクの上級モンスターで、全身から猛毒を放出する。

 全身の皮膚から抽出される毒は、近づいてその毒に触れただけで皮膚は溶けてしまう。

 その上臓器からは別種の毒を煙のように放出して、体に纏わせてくる。


 こちらの臓器に含まれる毒は強力な神経毒だ、私がぴりからさんに渡した鉛玉にはこの毒が仕込んである。

 吸い込めばどんな生物も血を吐き、眩暈と頭痛で立っていられなくなる。


 なんで何事も無かったかのように動いているのか、脳を高速で回転させる。

 しかし膝をついてしまった虞離瀬凛さんを見て青ざめるメル先輩。


 「虞離瀬凛さん!」

 メル先輩の悲痛の叫び、同時に念力猿に変化した九尾狐は叫んだメル先輩に視線を送った。


 そして近くの大岩を念力で軽々と持ち上げ、先程の魔力弾のようにメル先輩と私が指示を出す後衛に投げた。

 なぜだろうか、大岩が飛んでくる景色がスローに見える。


 ———ああ、これは間に合わない……………………。

 

 ——————死………………。

 

 次の瞬間、山間エリアに轟音がこだました。

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