第90話 死闘の末に
「操れるのは一部品、一体だけってのはブラフだったのか……?」
「一つの人型機動兵器とコマンドごとの情報を連携させ、疑似的に同時に複数のロボットを操ることが可能になったんだよ~。キミに勝つためにあれからあらゆる戦術を考えてたんだ」
アウルは饒舌に語った。
「まさか八咫烏はボクを殺すためにこんな大掛かりな計画を? ボスも大変だね~!」
「組織の目的はトップ7のキミたちを殺すのは序章に過ぎない……。ただ、僕にとっては最大の目的だよ。前回の決着の意味もあるしね……」
◇
これはアウルが組織のボスと始めて相対した時のこと――。
「お前は私の組織で何がしたい?」
「……僕の人生は全部中途半端だったって思うんだよ。勉強、スポーツ、恋愛、将来の夢……僕は人より器用だったから全てが上の下くらいだったけど、極めるっていうのかな? 特別に思えるものは結局何もできなかった。そしてそんな中身のなかった僕の日常は簡単に崩れた。むしろ当然だと思ってるよ。……でも、あんたから貰ったこのレボトキシンの能力なら一番を取れる気がする。いや、取りたいんだよ、最強ってやつを」
「その最強とやらをどうやって証明するつもりだ?」
「アンタが障害に思ってる強い奴らを片っ端から殺すかな~。それでこの組織でのし上がる。いつかはアンタのその席も奪っちゃう? ……なんてね。ハハ」
「今までの荒くれ者の集まる地下街とは別次元の危険がお前を襲うことになるが、それが今ここで誓った修羅の道……死の道だろう。良いだろう……キミを歓迎するよ。そして死に近いお前の名はアウル。今日からそう名乗れ」
「ハイ……! ボス……!」
「そうだアウル。一つ約束をしよう」
「?」
「私がボスの間は、誰にも負けるなよ?」
◇
アウルはかつての誓いを思い出し、静かに口角を上げた。
「勝つ……! それ以外は何もいらない!」
その瞬間、アウルの手が降りると、レンに向かってロボの大軍が襲い掛かってきた。
全ての個体の両手からは先ほどの型と同様に熱光線が発射され、一瞬にして、レンの隠れていた噴水は粉々に砕かれた。
「近距離戦しかないかっ!」
10体、いや20体はいるだろうか。
レンは怖れることなく、それらに囲まれる形になりながらの戦闘を選んだ。
おそらくアウルは先ほどの戦闘から『近距離の対象物に向けた熱光線は扱いが不便』ということを学んでいると察し、近距離戦に持ち込むことで勝機が必ず訪れると、レンは思ったのだ。
「誘導、攻撃、防御、妨害……全てシュミレーション済み、完璧な連携攻撃だ。いくらいい眼を持っていようとも、そいつら相手に持久勝負を選ぶとは血迷ったか? 黒瀬憐!!」
「…………」
レンは以前に一度だけ見せた、敢えて左目を包帯で隠し、視界を制限することにより集中力を底上げするという対戦闘モードに入った。
到底人間業とは思えない態勢になりながらも、全ての角度からの総攻撃を紙一重でかわし、レンは活路を見出そうと踏ん張っていた。
「……やはり光線は撃ってこない。今撃てば万が一避けられた際、対角線上の味方のロボットに命中し、ダウンしてしまう。それを判っているようだなアウルは……!」
レンはそのモードに入りながらも、腹の傷を抱えながら避けるのが精一杯だった。
反撃の一撃を食らわす余裕はもう無かった。
正確に言えば、出せる大きい一撃はなるべく正真正銘最後の止めに使いたかったからだ。
「情報統合殺戮媒体軍。連携攻撃を中断し、集中して奴の腹を狙え!」
「……性格悪いよ……キミ……」
徐々にキレが悪くなってきたレンはその指示を受けたロボット軍の攻撃を捌ききれなくなっていた。
「一度物陰に避難するのは愚策だろうな……傷の状態からもう短期決戦しかありえないか……」
「何をブツブツ言ってるんだ? やっと降参か~?」
「自分でかかって来いよ弱虫! おもちゃに隠れやがって!」
奥から少しだけ見えたアウルは肩を組んで余裕の表情だったことに、レンは腹を立てた。
――――その僅か。
視線をアウルに預けたその0.4秒が命取りになってしまった。
レンは飛び跳ねる方向が10ミリメートルズレたことにより、重い一撃を左膝に食らってしまった。
よって、千里眼で予約していた身体の動きは全て狂い、次々にダメージを受けてしまったのだ。
「まだ倒れないのか……。ゾンビはどっちだって話だな」
レンは節々から大量の血を流しながらも、決して眼を閉じずに立っていた。
意識が薄れかけた中で、最後の力を拳に集中した。
「――――お前だろ……本体」
レンはそう話しかけた後ろの個体目掛けて一気に加速し、その拳で頭を吹き飛ばした。頭はそのまま弾け飛び、体は砕け散った噴水の中へと突っ込んだ。
砕けた頭部からはすぐさま水が流入し、しばらくして、ソレは完全停止した。
それと同時に。
レンの周りにいた個体全ての動きが停止した。
「何故わかった……? それも眼の能力なのか???」
「それは違う……。ボクは全ての攻撃をただかわしていただけじゃない。攻撃のパターンや配置を全て分析しながら、自分の血で攻撃してきた個体に小さな印を付けていたんだ。そして……後方の一体だけが一度も攻撃してこないことに気づいたんだよ。アウル、お前の頭の中には別のトップ7との連戦が必ず入っていたはず……。だからこそ、初戦で本体を失うわけにはいかないよね……? そう推理したんだよ」
「…………っ!」
レンはアウルにそう喋りながら既に間合いを詰めていた。
アウルは動揺のせいか、その場で一歩も動けずにいた。
「名探偵を舐めるなよ」
レンはアウルの手から奪ったナイフで彼の首を深く切った。
本体の頭を殴り倒してから、アウルの首に手が届くまで。
実に10秒そこらの出来事だった。
「ハァ……なんとか、勝った……」
バキュン――!
レンがそう気を許した瞬間だった。
800ヤードは離れているであろう城の方角からの超遠距離狙撃だった。
この距離の中、ここまでの精度の狙撃を魅せられるのは八咫烏のイーグルしかいない。
「勝ったと思った瞬間、人は最大の油断を見せる……だったか? 本当に良い教訓だと思うよ、黒瀬憐」
「紫水――――ごめん……」
レンは左肩を跡形もなく吹き飛ばされ、その衝撃で意識を完全に失ってしまった。
「立つのが精一杯でゆらゆらと立っていたせいか致命傷を奇跡的に逃れたか……次は必ず当てる……」
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